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第十三話 フレイムソード②
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私は一つため息をついて口を開いた。
「あのさ。ブラドはどうしてそんな気弱なわけ? ゲームでは……じゃなかった。ええと、体格も同級生と比べて立派だし、見た目の印象と違いすぎるんだけど」
「どうしてって言われても困るよ。幼いときは手がつけられないほどやんちゃだったって、父さんが言ってたけど……」
「へえ、そうなんだ。まあ人格形成は当人がどうこう自覚できるもんでもないしね。
それじゃ質問変えるわ。これもすごく気になってたんだけど、今話に出てたお父さんって、近衛騎士団長なんでしょ? ブラドも家系からいって騎士になると思うんだけど、どうして剣で戦わないの?」
洞窟探索に出る際、ブラドはもちろん騎士装備で参加するものと思っていたのだが、腰には長剣の一つも下げていない。
狭い空間での戦闘を考慮し、短剣の類でも忍ばせているのかと考えたが、これまでの戦闘では全て魔法のみで挑んでいる。
ごく当然の疑問をぶつけただけだし、答えもすぐに返ってくると思っていた。しかしブラドはサッと顔を青ざめさせると、苦悶するように押し黙る。
「えっ、ごめん。何か変なこと聞いちゃった?」
「ううん。大丈夫だよ。僕が剣を振るわないのは、単純に剣術の才能がないからだよ。つまらない答えでしょ?」
この話題を早く切り上げたいのだろう。ブラドは無理して笑い、冗談めかしてみせる。
だが、私は納得できなかった。ブラドの今の発言は聞き捨てならない。私は勢い込んで反発する。
「はあ? いや、そんなわけないでしょ。ブラドは魔法は大味なとこあるけど、剣に関しては天才じゃない。
イベントの剣術大会では、一年生のくせに上級生を蹴散らして優勝するわよ?」
「変なこと言わないでよ。そんなこと無理に決まってる」
「いや逆になんでそう思うわけ? 剣を使わないのだって、家柄からいって明らかにおかしいでしょ。
何か剣を振るえない理由でもあるわけ?」
矢継ぎ早の質問にブラドは困惑顔になるが、曖昧な返答では私が納得しないということを察したのだろう。背中を丸め、膝に顔を埋めると、ぽつりぽつりと語り始める。
「シエザも知っての通り、僕は将来的には近衛騎士団長の座につくことになるから、幼少の頃から剣の訓練は積んでるんだ。
それは今だって変わらない。週末には父さん自らが稽古をつけてくれてる」
「だったらどうして……」
「怖いんだ」
その言葉はなんの躊躇いも感じさせず、するりとブラドの口から零れてきた。ブラドは微かに唇を震わせながら続ける。
「訓練や模擬戦なら平気なんだ。剣は普通に振れるし、父さんもお前は筋がいいって褒めてくれる。
でもね、僕は知ってるんだ。命をかけた実戦だと、僕の剣は全然使い物にならないって。それどころか、周りの人を傷つけちゃうって。僕はそれが怖い」
「何でそう言い切れるのよ。まともな実戦なんて、それこそ今日が初めてくらいでしょ?」
家柄がどうあれ、私達はまだ一学生に過ぎない。魔物討伐のクエストも受けられる立場になく、自然、命をかけた実戦など、これまで経験したことなんてないはず。
しかし、ブラドは静かに頭を振った。
「六年前、王族が南の森に狩りに出かけたことがあったんだ。もちろん食料調達というより、余暇の楽しみや社交の意味合いが強い狩猟だったから、まだ幼かった僕も連れて行ってもらえてね」
「あのさ。ブラドはどうしてそんな気弱なわけ? ゲームでは……じゃなかった。ええと、体格も同級生と比べて立派だし、見た目の印象と違いすぎるんだけど」
「どうしてって言われても困るよ。幼いときは手がつけられないほどやんちゃだったって、父さんが言ってたけど……」
「へえ、そうなんだ。まあ人格形成は当人がどうこう自覚できるもんでもないしね。
それじゃ質問変えるわ。これもすごく気になってたんだけど、今話に出てたお父さんって、近衛騎士団長なんでしょ? ブラドも家系からいって騎士になると思うんだけど、どうして剣で戦わないの?」
洞窟探索に出る際、ブラドはもちろん騎士装備で参加するものと思っていたのだが、腰には長剣の一つも下げていない。
狭い空間での戦闘を考慮し、短剣の類でも忍ばせているのかと考えたが、これまでの戦闘では全て魔法のみで挑んでいる。
ごく当然の疑問をぶつけただけだし、答えもすぐに返ってくると思っていた。しかしブラドはサッと顔を青ざめさせると、苦悶するように押し黙る。
「えっ、ごめん。何か変なこと聞いちゃった?」
「ううん。大丈夫だよ。僕が剣を振るわないのは、単純に剣術の才能がないからだよ。つまらない答えでしょ?」
この話題を早く切り上げたいのだろう。ブラドは無理して笑い、冗談めかしてみせる。
だが、私は納得できなかった。ブラドの今の発言は聞き捨てならない。私は勢い込んで反発する。
「はあ? いや、そんなわけないでしょ。ブラドは魔法は大味なとこあるけど、剣に関しては天才じゃない。
イベントの剣術大会では、一年生のくせに上級生を蹴散らして優勝するわよ?」
「変なこと言わないでよ。そんなこと無理に決まってる」
「いや逆になんでそう思うわけ? 剣を使わないのだって、家柄からいって明らかにおかしいでしょ。
何か剣を振るえない理由でもあるわけ?」
矢継ぎ早の質問にブラドは困惑顔になるが、曖昧な返答では私が納得しないということを察したのだろう。背中を丸め、膝に顔を埋めると、ぽつりぽつりと語り始める。
「シエザも知っての通り、僕は将来的には近衛騎士団長の座につくことになるから、幼少の頃から剣の訓練は積んでるんだ。
それは今だって変わらない。週末には父さん自らが稽古をつけてくれてる」
「だったらどうして……」
「怖いんだ」
その言葉はなんの躊躇いも感じさせず、するりとブラドの口から零れてきた。ブラドは微かに唇を震わせながら続ける。
「訓練や模擬戦なら平気なんだ。剣は普通に振れるし、父さんもお前は筋がいいって褒めてくれる。
でもね、僕は知ってるんだ。命をかけた実戦だと、僕の剣は全然使い物にならないって。それどころか、周りの人を傷つけちゃうって。僕はそれが怖い」
「何でそう言い切れるのよ。まともな実戦なんて、それこそ今日が初めてくらいでしょ?」
家柄がどうあれ、私達はまだ一学生に過ぎない。魔物討伐のクエストも受けられる立場になく、自然、命をかけた実戦など、これまで経験したことなんてないはず。
しかし、ブラドは静かに頭を振った。
「六年前、王族が南の森に狩りに出かけたことがあったんだ。もちろん食料調達というより、余暇の楽しみや社交の意味合いが強い狩猟だったから、まだ幼かった僕も連れて行ってもらえてね」
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