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第十六話 高笑い③
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乙女心を汲んだ発言であり、それはキュロットにもしっかり伝わったと思えた。
しかしキュロットは、逆に慌てたように言う。
「いえそんな! わかりましたわ、高笑いですわね! やってみますわ!」
「え? でも、殿下はあまり……」
「もうそういうのは気にしないことにしますわ! わたくしはシエザが望む通りの理想の女性になりたいんですの!」
なんというか、聞きようによっては愛の告白のような台詞である。友人に対する精一杯の愛情表現だろうとは思うのだが、こんな愛らしいキュロットに言われると妙にドギマギしてしまう。
「えと……ありがと」
隠し切れない照れを滲ませてそう告げると、キュロットは天使もかくやというような、にこやかな笑顔を浮かべてみせた。
キュロットはさっそく試しにやってくれるらしく、コホンと空咳をして喉を整えると、おもむろに口を開く。
「お、おほっ。ほほほ」
勢いがなく歯切れの悪い、およそ高笑いとは言えない笑い声だった。
私はうーんと唸る。
「思い切りがよくないわね。それに、もっと甲高い声じゃないと」
「えと……おーほっほっ。ほほ、ほっほ」
「いや何かリズムも違うというか。まずは声の高さ合わせてみましょう。思いっきり腹から声を出してみて」
私は指揮者のように軽く指を振り、「ド~♪」と発声してみせた。
続けて発声するよう目配せすると、キュロットもすぐさま意図を汲んだらしく、こくりと頷く。
「それじゃいくわよ。ド~♪」
「わかりましたわ。ぼぇ~♪」
「…………?」
私は眉間に指を押し当てる。
??
「ええと。もっぺんいくわね。ド~♪」
「ぼぇ~♪」
「レ~♪」
「ぼぇぇ~♪」
「ミ~♪」
「おーれはジャイアーン♪」
もうジャイアンって言ってるわね!?
これジャイアン声帯の持ち主ね!
ゲーム世界にもいるのね!!
私は頭を抱えた。何でもそつなくこなすハイスペック少女だと思っていたキュロットが、まさかの音痴だなんて。本人に自覚はあるのだろうか?
私がチラリと盗み見ると、キュロットは何だか満足げな笑みを浮かべ、嬉しそうに言った。
「大きな声を出すのは下品なことだからと、ずっと控えていましたけれど、とても気持ちがいいですわね。これならシエザの言う高笑いもできそうですわ」
「ち、ちょっと待ってキュロット……」
「それじゃいきますわよ。ぼぇ~っ、ぼぇっ、ぼぇぼぇ!」
「あぁっ! 悪い意味で期待を裏切らない!」
私は鼓膜を守るために両耳を塞ぐが、キュロットのジャイアン発声は全身を伝わり脳を揺らす。テーブルにある食器類も、超音波を受けてカタカタと振動しており、まるで恐怖と苦痛に震えているかのようだ。
食堂に集っていた生徒たちから悲鳴が上がった。
「うわぁ、何だこの怪音は!? 魔族が襲撃してきたのか!?」
「ぼぇ~! ぼぇぼぇぇ~!!」
「きっとダークデーモンの雄叫びよ! いやぁ、まだ死にたくない!」
「ぼぇっぼぇっぼぇっ~!」
「ててて、手が震えてナイフが握れない! お肉が上手く切れないぃ!!」
食いしん坊いるわ!
この状況下でも食事を続けようとしてる奴いるわ!!
いやそんなことより、とにかくこの地獄絵図を何とかしないと。
しかしキュロットは、逆に慌てたように言う。
「いえそんな! わかりましたわ、高笑いですわね! やってみますわ!」
「え? でも、殿下はあまり……」
「もうそういうのは気にしないことにしますわ! わたくしはシエザが望む通りの理想の女性になりたいんですの!」
なんというか、聞きようによっては愛の告白のような台詞である。友人に対する精一杯の愛情表現だろうとは思うのだが、こんな愛らしいキュロットに言われると妙にドギマギしてしまう。
「えと……ありがと」
隠し切れない照れを滲ませてそう告げると、キュロットは天使もかくやというような、にこやかな笑顔を浮かべてみせた。
キュロットはさっそく試しにやってくれるらしく、コホンと空咳をして喉を整えると、おもむろに口を開く。
「お、おほっ。ほほほ」
勢いがなく歯切れの悪い、およそ高笑いとは言えない笑い声だった。
私はうーんと唸る。
「思い切りがよくないわね。それに、もっと甲高い声じゃないと」
「えと……おーほっほっ。ほほ、ほっほ」
「いや何かリズムも違うというか。まずは声の高さ合わせてみましょう。思いっきり腹から声を出してみて」
私は指揮者のように軽く指を振り、「ド~♪」と発声してみせた。
続けて発声するよう目配せすると、キュロットもすぐさま意図を汲んだらしく、こくりと頷く。
「それじゃいくわよ。ド~♪」
「わかりましたわ。ぼぇ~♪」
「…………?」
私は眉間に指を押し当てる。
??
「ええと。もっぺんいくわね。ド~♪」
「ぼぇ~♪」
「レ~♪」
「ぼぇぇ~♪」
「ミ~♪」
「おーれはジャイアーン♪」
もうジャイアンって言ってるわね!?
これジャイアン声帯の持ち主ね!
ゲーム世界にもいるのね!!
私は頭を抱えた。何でもそつなくこなすハイスペック少女だと思っていたキュロットが、まさかの音痴だなんて。本人に自覚はあるのだろうか?
私がチラリと盗み見ると、キュロットは何だか満足げな笑みを浮かべ、嬉しそうに言った。
「大きな声を出すのは下品なことだからと、ずっと控えていましたけれど、とても気持ちがいいですわね。これならシエザの言う高笑いもできそうですわ」
「ち、ちょっと待ってキュロット……」
「それじゃいきますわよ。ぼぇ~っ、ぼぇっ、ぼぇぼぇ!」
「あぁっ! 悪い意味で期待を裏切らない!」
私は鼓膜を守るために両耳を塞ぐが、キュロットのジャイアン発声は全身を伝わり脳を揺らす。テーブルにある食器類も、超音波を受けてカタカタと振動しており、まるで恐怖と苦痛に震えているかのようだ。
食堂に集っていた生徒たちから悲鳴が上がった。
「うわぁ、何だこの怪音は!? 魔族が襲撃してきたのか!?」
「ぼぇ~! ぼぇぼぇぇ~!!」
「きっとダークデーモンの雄叫びよ! いやぁ、まだ死にたくない!」
「ぼぇっぼぇっぼぇっ~!」
「ててて、手が震えてナイフが握れない! お肉が上手く切れないぃ!!」
食いしん坊いるわ!
この状況下でも食事を続けようとしてる奴いるわ!!
いやそんなことより、とにかくこの地獄絵図を何とかしないと。
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