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悪役アルバイター

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 ここが少女漫画の世界だと気づいたのは
 自分がアルバイトを始めてからだった。

 私のバイト先はラーメン屋で初めて来たはず
 なのに何故か見覚えのある内装だった。

 極めつけはお客さん。ここのラーメン屋は
 繁華街にあるから職業柄華やかな人が多い。

 それは分かるけど、やけに美男美女が多い。
 特に、決まった曜日に来る集団はキラキラ
 していてバイトを始めた時と同じ既視感を感じた。

 そのキラキラ集団の中にはとびきりのイケメン
 が居る。

 黒い艶やかな髪に理知的な切れ長の目。

 どっかで見たことがある。

 こんなイケメン1度見たら忘れないだろうに。

 何かを忘れている。

 なんだったっけ……

 と考えていると私はすんなり前世を思い出して
 しまったのだ。
  
 頭を打つでもなく、高熱にうなされる訳
 でもなく、忘れ物を思い出したようなノリで
 思い出した。

 ここってあれだ。
 「雨降る夜と危険な貴方」の世界だ。

 さっきのイケメンはヒーローか。
 すごいイケメンじゃん。

 そして、思い出した時のお約束。
 自分の物語での立場を確認をした。

 すると、私はヒロインとヒーローの前に
 立ちはだかる悪役アルバイターであった。

 「嘘でしょ!?この善良な一市民に慈悲は!?」

 なんということでしょう、地位も名誉もない
 アルバイターになっただけでなく、悪役にも
 大抜擢されてしまいました。

 ボロい自宅の中でそれはもう落ち込んだ。

 落ち込んでもしょうがないので前向きに行こう。
 普通じゃ有り得ない経験だ。

 2人の邪魔さえしなければ
 悪いことにはならないだろう。

 とりあえず、今の物語の進度と自分のこの先に
 ついて考えることにした。
 
 
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