37 / 111
第5章 〝アンソポリス〟花の都
第037話 お花を育てよう
しおりを挟む「――で、どうして私が穢多の格好をしなきゃいけないんですか!!?」
瀬良寺は断固抗議した。
ぼろの服に、鼻と口を覆うマスク。
知らない人から見れば、穢多そのものである。
「瀬良寺ちゃんだけじゃないでしょー?」
サソリは口をとがらせる。
穢多に変装しているのはサソリ、マギ、リケイカインも同じであった。
「蚊虻教に見つかったらサソリは殺されちゃうと思う。サソリと一緒にいる瀬良寺ちゃんたちも無事じゃ済まないんじゃないかな」
「戦います!」
「蚊虻教の信者、多いよ? さすがの瀬良寺ちゃんたちでもきついと思う」
「ぐぬ……」
「まずは、一緒に戦ってくれる仲間を集める。藩の中にも、蚊虻教を気に入らないって思ってる人たちはいるかんね」
「ぐぬぬ……」
サソリは藩の実権を取り戻したい。
瀬良寺は蚊虻教を取り締まりたい。
マギは蚊虻教から情報を得たい。
リケイカインはマギと一緒にいたい。
利害は一致していた。
「しかし私とて公儀祓除人という誉れある立場にありますし、やはり、この格好は……」
「え? なに? 瀬良寺ちゃん、サソリの言うことをきけないの? なんで? どうしてぇ? もしかして、サソリのことバカにしてる? それともサソリが頼りないのかな? ごめんね、サソリが藩を乗っ取られるようなアホな藩主で」
「わわわ! 滅相もございません!」
たっぷりと圧をかけて瀬良寺を黙らせたサソリ。
それからサクラに手をあわせて、
「というわけでサクラちゃん、お願いねー。しばらく穢多のみんなに紛れ込ませて。タイミングを見計らって、ここを切り抜けたいんだ」
「もちろんれあります、サソリ様」
サクラは礼儀正しかった。
* *
かくして一行は穢多に混じり花を育てる仕事を始めた。
「ふふん。余の手にかかれば、この程度の作業どうということもないぞ」
マギは水やりをしながら胸を張った。
「素晴らしいれす」
「もっと讃えてもよいぞ」
サクラにおだてられ、マギはますます調子に乗る。
実際のところ、仕事自体はマギでも難なくこなせるほど単純なものであった。
植える。
枯れているものがないかチェックする。
雑草を抜く。
その他いろいろとあるが、要するに普通のガーデニングと変わりない。
「マギ、日傘♡」
リケイカインが大きな葉っぱを差し出す。
サクラとべったりのマギに焼きもちだからである。
「ええい、暑苦しい! 近寄るでない!」
「うぅ……マギ、好きぃ♡」
一方、瀬良寺は不安に駆られていた。
――はたして穢多どもを信用してよいものだろうか? 褒美目当てに我々を売るんじゃ……?
杞憂であった。
穢多の誰もが、なりすましの侵入者を見ても何も言わない。
むしろ見張り番の目につかないよう、それとなく隠してくれる。
「みんな、ありがとね」
お礼を言うサソリ。
だがサクラは首を振り、
「サソリ様がいるもわらしらりに優しくしれくれるかられあります」
「サソリ、藩主になって間もないから、みんなに楽させてあげる改革なんもできてないよ」
「れも、こっそり水や食べ物をくれるのが嬉しいれあります」
つまるところサソリの人徳であった。
* *
残暑は厳しい。
きつい日差しが容赦なく労働者に照りつける。
花に水をやることはできても、見張り番の許可がなければ自分が水を飲むことはできない。
「喉が乾いたぞ。水をよこせ」
「誰だ、許可なく発言したのは!?」
いかなる状況であろうとマギの態度は変わらない。
「こいつが言ったぞ」
マギはリケイカインに罪をなすりつけた。
見張り番がリケイカインを鞭でしばく。
一方、瀬良寺は弱音を吐くことすらできない。
プライドが高く、しかも、
「生産性がないやつらに人権はない」
とのたまった直後なのだ。
それでも体は正直である。
疲労と水分不足により、とうとう倒れこんだ。
「おい、貴様! なにを勝手に休んでおるか!」
見張り番が瀬良寺に近寄る。
懲罰は避けられない雰囲気だ。
かつて自分が被疑者を拷問していた頃とまるで逆の状況。
思わず瀬良寺は苦笑する。
ところが、
「お待りくらさい」
見張り番の前にサクラが立ちはだかった。
「どけ! 庇いだてするなら、貴様も仕置くぞ!」
「この者は数日前から股間に異変があっれイボみらいなのがれきれます」
「……つまり?」
「梅毒かもしれないのれす」
「げげっ!」
見張り番はそそくさと去って行った。
サクラは瀬良寺の背中をさすりながら、
「もうしばらく我慢しれくらさい。一緒にお花を育れましょう」
瀬良寺は赤面した。
0
あなたにおすすめの小説
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
【状態異常無効】の俺、呪われた秘境に捨てられたけど、毒沼はただの温泉だし、呪いの果実は極上の美味でした
夏見ナイ
ファンタジー
支援術師ルインは【状態異常無効】という地味なスキルしか持たないことから、パーティを追放され、生きては帰れない『魔瘴の森』に捨てられてしまう。
しかし、彼にとってそこは楽園だった!致死性の毒沼は極上の温泉に、呪いの果実は栄養満点の美味に。唯一無二のスキルで死の土地を快適な拠点に変え、自由気ままなスローライフを満喫する。
やがて呪いで石化したエルフの少女を救い、もふもふの神獣を仲間に加え、彼の楽園はさらに賑やかになっていく。
一方、ルインを捨てた元パーティは崩壊寸前で……。
これは、追放された青年が、意図せず世界を救う拠点を作り上げてしまう、勘違い無自覚スローライフ・ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる

