白鳥サノバビッチ

えすくん

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第6章 〝ネクロポリス〟死の都

第056話 sugeeeeee

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 田村町は毎日晴れた。

「ここのどこが理想郷ぞ?」

 マギは毎日リケイカインをいびった。

「マギ、ごはん食べて機嫌なおして♡」
「また白米だけではないか! おかずは?」
「ないってさ」
「えぇい、もうこんなところ出て行くぞ」

 食っちゃ寝の生活を手に入れたはいいものの、内容は決して満足のいくものではなかった。
 時々気晴らしに家事の手伝いを試みるが、

「そんなに薪をくべたら家事になっちゃうよ!」
「この洗い物、全然汚れが取れてねぇぞ!」
「寝かしつけた赤ちゃんが起きちゃった!」
「左の袖と右の袖の長さが全然違う!」
「こいつすげえぇええぇぇぇ! 常識ってものを何も知らねぇ!」

 ことごとく失敗して町民を呆れさせていた。

     *     *

「何か用か? ヘンテコ妖怪」

 居場所もなければ仕事もないマギ。
 穴掘り作業を続けるキビのもとに来たが歓迎はされなかった。

「余をもてなせ」
「偉そうにしてんじゃねぇよ。聞いたぞ。お前失敗ばっかして町のみんなに迷惑かけまくってんだってな」
「……」
「尻拭いは黒い方にやらせて、自分は暇潰しか?」

 図星だった。
 言い返さないマギに、キビは追撃。

「さっさと消えろよ、無能妖怪。人間の敵。キモイんだよ。穀潰し。バーカ」

 平民にコケにされて、マギは黙ってはいられない。

「穴を掘ったら雨が降るなんて迷信ぞ。そちのしていることはまったくの無駄。余の方がよっぽど民の役に立っておるわ」
「んなことわかってんだよ」
「!?」
「誰だって苦しい時にはすがるものがほしいんだよ。俺が穴を掘ってる間は、雨が降るかもしれないって期待できるだろ。わくわくするだろ。ちょっとだけ不安な気持ちがまぎれる。それだけで意味は十分あるんだよ。わかったか、バカ」

 正論をお見舞いされて、マギは絶句。
 キビは手を止めて汗をぬぐうと、

「でも本当の本当はもっとつまんねーことのためなんだ」
「……?」
「とーちゃんとかーちゃん、それに町長のじーちゃんに褒められたいってだけ」

 照れ臭そうに笑うキビを見て、マギは少し元気になった。

     *     *

 一方、町でも雨乞いの準備が進められていた。

「リケイカインちゃん、これのお手伝いも頼める?」
「あい!」

 手先の器用なリケイカインはあちこちから引っ張りだこ。
 すっかり町民からの信頼を獲得していた。

「この羊毛を使って衣装を作るの。雲みたいなデザインね」

 雨乞いの儀式当日にキビに着せるための服であった。

「余を呼んだか?」
「呼んでないよ」

 暇を持て余すマギが登場。
 寝ていていいから何もしないでくれと追い払われた。
 あてもなくさまよっていると、見覚えのある顔が視界に入った。

「キビに似ておる」

 話しかけられた女性はにっこり微笑み、

「あの子のかーちゃんだからね」
「むぅ、道理で。キビが会いたがっておったぞ」
「……そう」
「会いに行かないのか?」
「意味ないからね。何かほしいものがあるとか言ってた?」
「いや、別に……ただ、ちょっと寂しそうだったぞ」

 キビの母親の顔がひきつる。
 しかし笑顔を崩さずに、

「仕方ないねぇ。じゃあ後でとーちゃんと一緒に行くかぁ」

     *     *

「作業は順調?」

 一組の男女がキビを訪ねた。

「とーちゃん! かーちゃん!」

 キビの表情が明るくなる。

「ほら、夕飯を持ってきてやったぞ」
「こんなに食っていいのか?」
「もちろん。お前は大事な仕事をしてるんだからな」
「へへっ」

 久々に一家団欒のひととき。
 マギは遠くの木陰から見つめる。

「ところで、体調はどうだ? 風邪ひいたりしてないか?」
「めっちゃ元気だよ!」
「そりゃよかった。お前に倒れられたら雨乞いが延期になる。ペースを落とさずにしっかりやれよ」
「……うん!」

 キビは顔に笑いをへばりつかせる。
 両親によく似ていた。

 銚子の形状をした穴はすでに大きい。
 キビを縦にしても横にしてもすっぽり収まるほどである。
 完成の日は近い。

「……?」

 マギは違和感に包まれた。

 ――胸が苦しいぞ。

 膝をつく。
 気づかれないように、声は押し殺す。

「マギ、早くしてね」
「!」

 いつの間にか、すぐそばにリケイカインが立っていた。
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