白鳥サノバビッチ

えすくん

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第6章 〝ネクロポリス〟死の都

第060話 完全なる変態

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「妖怪を退治しろと言われても……」

 マギは胸の痛みのせいで立ち上がることさえできない。

「民を助けることが公爵の務めでしょ?♡ 頑張れ♡ 頑張れ♡」

 リケイカインの応援など励みにはならない。
 とは言え、のんびりしていられない。
 2体の妖怪が接近してきたのだ。

「あれは……?」
「超鳥。ぼくらの兄弟だね」

 そう言われてもマギは納得しづらい。
 近づいてくる妖怪はどちらもマギにもリケイカインにも似ていない。
 片や猫に似ていて、こなた人の手に似ている。

「超鳥の姿形には個体差があるの♡ マギ、あっちは任せたよ♡」

 当たり前のようにリケイカインが指示を出す。
 戦いが始まる。
 そしてあっさりと戦いが終わる。
 マギが動けないからだ。

「マギ、どうしてぇ~」

 喚くリケイカイン。
 その声はマギに届かない。

「……何も聞こえなくなったぞ……」

 相手の固有能力により、マギとリケイカインは糸で拘束され、更に聴覚を奪われた。
 為す術のないマギとリケイカインの目の前で、敵2匹は、

「こいつらに私たちの【魅了━ファスツィナツィオン━】は効かないの?」
「残念だけど、私たちよりこいつらの方が強いからね。こっちが魅了されてしまう前に殺さなきゃ」
「どうせこの程度の強さなら死刑だもんね」
「やっちゃお」

 その会話さえマギは聞くことができない。
 体は糸でぐるぐる巻き。
 まるで繭に包まれているような状態。
 ただ視界を頼りに、死が迫ることを知るのみであった。

 ――このようなところで死ぬなど嫌ぞ!

 絶望の中でマギはただ死にたくないと願った。

 マギは変態した。

 ――自由になりたい。

 願った。
 ただ願うだけで体に巻き付いた糸がほどけた。
 聴力も復活した。

「なんで!?」
「こいつの能力ってことぉ?」

 敵の超鳥は驚きつつも冷静にマギとリケイカインに狙いを定める。
 だからマギは願った。

「余に近寄るな」

 それだけで決着がついた。
 2体の超鳥は制止した。
 彼らはマギに逆らえなかった。

「……すっごい……♡」

 大喜びしたのがリケイカイン。
 当のマギは呆然としている。

「マギ、信じてた♡ ようやく完全に変身できたね♡ しかもすっごく強い♡ マギ、大好きぃ♡」
「……変身……?」
「かっこいいよ♡」
「余は……どうなった?」

 マギはなんとなく自分の体の変化を実感していた。
 例えば手を動かそうにも感覚がない。
 手がなくなっているのだろう。
 見下ろせば見慣れない足がある。
 真っ白な羽毛の生えた奇妙な形の足。
 着物は破けて、今やマギは全裸である。

「余は……余は……人間らしさからまた遠ざかってしまったのか……?」

 抱きつくリケイカインを振り払う余裕もない。

「余は一体どうすれば……」
「自害せよ」

 その声は急に轟いた。
 油断していたマギとリケイカイン。
 新たな敵の出現と頭ではわかっていても体が動かないのは、その声の威圧感の賜物だ。

「はい」
「死にます」

 言われた通り自決をしたのは敵だった超鳥2匹。

「弱き者に生きる資格はない」
「そちは……何者ぞ?」

 声の主を見つめるマギ。

「吾輩は皇帝である」

 自己紹介の途中だが、リケイカインが黒鳥を伸ばす。
 だが、あっさりと皇帝の翼に弾かれる。
 皇帝はゴミを見るような目をリケイカインに向けて、

「いかなる目的のために戻ったか?」
「お前を殺すため!」
「〝試し〟に合格できなかった分際で、いけしゃあしゃあと」
「ほら、マギ! こいつをやっつけるよ。こいつを生かしておいたら、たくさんの人間が殺されちゃう。民を守るのが公爵の務めなんでしょ!」
「浅ましいことよ」

 皇帝は歩いて2人に近づきながら、

「吾輩は妖怪のために尽力している。それがわからぬか」
「できれば人間にも優しくしてほしいぞ」

 マギが口を挟む。

「協力すれば無駄に血を流さずに済むぞ。何よりも優先すべきは民の命ではないか?」
「生命の本質とは増殖である。生命の運命は進化と淘汰である」
「……なるほど」

 本当は全然わかっていないマギであった。
 ただなんとなく戦いが避けられなさそうなことは理解できた。

「民を守るためなら余はそちと戦うぞ」
「参れ。貴様に〝試し〟を与えてやろう。吾輩に勝てば貴様は妖怪の次期皇帝である」
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