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本棚から薫姉さんに貰ったノートを出した。しおりを挟んだページを開いて、最後に書いた日記を読んだ。
〈メッセージの返信がこない。やっぱり宮瀬くんを怒らせちゃったのかもしれない〉
「……宮瀬くんが告白してくれた日の、前の日?」
僕はあれからずっと日記を書いていなかったらしい。一ページずつ日付を遡った。
テストの手応えについて、宮瀬くんの家で勉強会をして、同じ日に賭けをしたこと、発表がうまくできなかったこと。色々な出来事を読んだけど、宮瀬くんのことがたくさん書かれていて驚いた。特に僕が恋を自覚してからは、何をしていてかっこよかったとか、優しかったとかそんなことばかりだ。
一枚一枚乾いた紙を指が滑る。そうこうしているうちに、美容院に行った日のページまで戻っていた。
そこには何で髪を切ったのか、僕の想いが綴られていた。
「釣り合う人になりたいって……」
髪を切れば、吃音も治ると思ってたのかな。
新しく何か書こうかと思って、勉強机の方を振り返った。その時、ひらひらと小さな紙のかけらが落ちてきた。何だろうと思って紙を拾う。ガタガタした紙の側面に、心がざわめいた。裏返して書かれている言葉を読んだ。
〈さっきの話の続きだけど、俺は宮本の言葉が聴きたい〉
宮瀬くんがこの言葉をくれた日のことを覚えている。授業が終わった後、宮瀬くんがわざわざ振り返ってくれたことも、嬉しそうに目を細めてくれたことも全部。
大切な紙を机に置いて、代わりにあの日の日記を開いた。僕の細くて頼りない文字が、他のページよりも饒舌に言葉を並べていた。
〈僕は宮瀬くんが好きだ。いつかこの気持ちを宮瀬くんに伝えたい〉
最後の行に息を呑んだ。宮瀬くんがくれた紙をそのページに挟んで、本棚に戻す。
一つ息を吐く。
部屋を勢いよく出て、階段を降りた。リビングを抜ける時に、驚いた目が僕のことを追っていた。
「ちょっちょっと、で出かけてくる!」
母さんたちの声が背中から聞こえた。さっき姉さんたちとご飯にいくときに持って行った鞄がお行儀悪く玄関に残っていた。鞄を手に取り、靴を履いて玄関を抜けた。
宮瀬くんの家までは、徒歩で二十分。その二十分は惜しかった。
走るたびに揺れる鞄が足に当たる。鞄を胸に抱え込んで走り続けた。
迷いつつも道を何度か曲がったら、見覚えのある道に出た。宮瀬くんの家はすぐそこだろう。息が切れて脇腹が痛い。気持ちが変わる前に伝えないといけない。
宮瀬くんの家まで着いて、一度表札を確認した。玄関までのアプローチが異様に長く感じる。震える手に勢いをつけてインターホンを押した。しばらく反応がなかったが、マイクがオンになるプツッという音がする。
「はーい。どちら様ですか?」
若い女性の声に、宮瀬くんのお姉さんが在宅なのだと気づいた。
「あっあの宮、宮本奏です。み、宮瀬くん、いいますか?」
「奏くん……」
インターホンの向こうのお姉さんは少し逡巡するように黙ってから宮瀬くんの不在を伝えてくれた。
「今日は部活なの。試合とかじゃなくて学校でね」
「そ、そうですか……あ、ありがとうございます」
カメラに向かってお辞儀をする。このまま駅に向かおう。
最寄り駅まで走った。こんなに暑い日に全力疾走している高校生に、すれ違う人たちが怪訝そうな目を向けてくる。途中で宮瀬くんと行った寿司屋が見えた。
駅に着いた頃には汗がダラダラと流れていて、夏の鈍い風がシャツを遊ぶように揺らした。階段を登って、改札を目指す。
目前、癖で手を入れたポケットに定期がないことに気がついた。慌てて鞄をまさぐるが、定期は入れていない。財布の中身を確認してわずかばかりの現金で切符を買った。
電車が音を立てて進む。僕の心は興奮して、座っていることも立っていることもままならなかった。まだ立ってる方がマシで吊り革に捕まりながら、車窓の景色がゆっくりと流れるのをただただ見送った。
〈メッセージの返信がこない。やっぱり宮瀬くんを怒らせちゃったのかもしれない〉
「……宮瀬くんが告白してくれた日の、前の日?」
僕はあれからずっと日記を書いていなかったらしい。一ページずつ日付を遡った。
テストの手応えについて、宮瀬くんの家で勉強会をして、同じ日に賭けをしたこと、発表がうまくできなかったこと。色々な出来事を読んだけど、宮瀬くんのことがたくさん書かれていて驚いた。特に僕が恋を自覚してからは、何をしていてかっこよかったとか、優しかったとかそんなことばかりだ。
一枚一枚乾いた紙を指が滑る。そうこうしているうちに、美容院に行った日のページまで戻っていた。
そこには何で髪を切ったのか、僕の想いが綴られていた。
「釣り合う人になりたいって……」
髪を切れば、吃音も治ると思ってたのかな。
新しく何か書こうかと思って、勉強机の方を振り返った。その時、ひらひらと小さな紙のかけらが落ちてきた。何だろうと思って紙を拾う。ガタガタした紙の側面に、心がざわめいた。裏返して書かれている言葉を読んだ。
〈さっきの話の続きだけど、俺は宮本の言葉が聴きたい〉
宮瀬くんがこの言葉をくれた日のことを覚えている。授業が終わった後、宮瀬くんがわざわざ振り返ってくれたことも、嬉しそうに目を細めてくれたことも全部。
大切な紙を机に置いて、代わりにあの日の日記を開いた。僕の細くて頼りない文字が、他のページよりも饒舌に言葉を並べていた。
〈僕は宮瀬くんが好きだ。いつかこの気持ちを宮瀬くんに伝えたい〉
最後の行に息を呑んだ。宮瀬くんがくれた紙をそのページに挟んで、本棚に戻す。
一つ息を吐く。
部屋を勢いよく出て、階段を降りた。リビングを抜ける時に、驚いた目が僕のことを追っていた。
「ちょっちょっと、で出かけてくる!」
母さんたちの声が背中から聞こえた。さっき姉さんたちとご飯にいくときに持って行った鞄がお行儀悪く玄関に残っていた。鞄を手に取り、靴を履いて玄関を抜けた。
宮瀬くんの家までは、徒歩で二十分。その二十分は惜しかった。
走るたびに揺れる鞄が足に当たる。鞄を胸に抱え込んで走り続けた。
迷いつつも道を何度か曲がったら、見覚えのある道に出た。宮瀬くんの家はすぐそこだろう。息が切れて脇腹が痛い。気持ちが変わる前に伝えないといけない。
宮瀬くんの家まで着いて、一度表札を確認した。玄関までのアプローチが異様に長く感じる。震える手に勢いをつけてインターホンを押した。しばらく反応がなかったが、マイクがオンになるプツッという音がする。
「はーい。どちら様ですか?」
若い女性の声に、宮瀬くんのお姉さんが在宅なのだと気づいた。
「あっあの宮、宮本奏です。み、宮瀬くん、いいますか?」
「奏くん……」
インターホンの向こうのお姉さんは少し逡巡するように黙ってから宮瀬くんの不在を伝えてくれた。
「今日は部活なの。試合とかじゃなくて学校でね」
「そ、そうですか……あ、ありがとうございます」
カメラに向かってお辞儀をする。このまま駅に向かおう。
最寄り駅まで走った。こんなに暑い日に全力疾走している高校生に、すれ違う人たちが怪訝そうな目を向けてくる。途中で宮瀬くんと行った寿司屋が見えた。
駅に着いた頃には汗がダラダラと流れていて、夏の鈍い風がシャツを遊ぶように揺らした。階段を登って、改札を目指す。
目前、癖で手を入れたポケットに定期がないことに気がついた。慌てて鞄をまさぐるが、定期は入れていない。財布の中身を確認してわずかばかりの現金で切符を買った。
電車が音を立てて進む。僕の心は興奮して、座っていることも立っていることもままならなかった。まだ立ってる方がマシで吊り革に捕まりながら、車窓の景色がゆっくりと流れるのをただただ見送った。
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