SHU 特異性保持中学生部隊

未田不可眠

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第1部 SHU始動編

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 参加宣言より一週間。ヒナタはようやく自身の特異性を操作できるようになっていた。
 彼の特異性は複製固定ペーパーバック
 能力者の身体、触れたものを複製し空間に固定するものだ。
 固定されたものは破壊されず、また移動もしない。
 そして複製されるものはそのコピーの瞬間、物体のサイズ分任意の方向に素早く移動する。
 例えば直径3センチメートルのボールを複製すると、任意の方向に3センチメートルボールが移動し、複製品が空間に固定される、というものだ。
 これを応用して、ヒナタは高速移動を身に着けた。
 SCHと「再現可能性がゼロではなかったら物品作成に必ず成功する」発明家スラップスティックという特異性を持つ2年、斉田サイダテスラが開発した装備、アクティブユニットActive Unit外骨格のおかげで、柔軟で素早い動作を得た彼の主力武器は、2本(と予備の2本)のサバイバルナイフだ。
 このAU外骨格はいわば身体に密接する鎧のようなもので、例えるならば某特撮ライダーに近い見た目をしていた。
 その見た目も装着者本人が必要とする機能・外見を色彩以外は自由に決めることができるので、隊員ごとに異なるAU外骨格を持っているように見える、と言った代物だ。
 後にも先にもこれがスラップスティックの最高傑作だという人物は多い。
 帰宅部だが元々身体能力の高いヒナタの戦闘適正はAU外骨格のおかげで更に引き上げられ、他の生徒よりも秀でている。
 結果、この部隊の主力メンバーの一人となった。
 実際組手の時も負けはなく、軍人上がりのカガミハラから賞賛を得る程だった。
 一方カイトはまだ自身の特異性に慣れていないようである。
 特異性は導線接続カウボーイ
 能力者が放った攻撃が少しでもダメージを与えたとき、能力者と攻撃対象は一本の線でつながれる。
 この線は能力者の意思以外で切断することはできず、また最長160メートルまで伸ばすことができる。
 この線でつながれた対象は能力者が思うように「振り回される」。
 例えば宙に持ち上げられたり、そのまま叩き落されたり、ブラックジャックのように扱われたりといった具合に振り回される。
 抵抗は出来なくはないが、大抵の場合能力者が与える力の方が強いので、逆らうことはほぼ不可能だ。
 遠距離からでも能力が成立する性能から、彼は二丁拳銃を愛用している。
 同時に接続できる数の限界が2本だからその点においても都合がいい。
 AU外骨格によって身体能力も上昇し、線を利用したターザンのようなトリッキーな動きも可能ではあるが、いかんせん線の扱いにまだ慣れていない。
 能力の発動は完璧に制御できるようになったが、その他が問題だった。
 カイトの役職もまた戦闘員であるが、彼には中学生部隊長の役割も担っていた。
 中学生とSCH間の連絡を任されている。なので事実彼がこの部隊最強だ。
 部隊名は「特殊特異性保持者部隊Special Holders Unit」となった。
 決定権はSCHスタッフ含む誰にも与えられていなかった。
 このSHUは三つの兵種に分かれている。
 カイトやヒナタたちが所属する「戦闘班」。
 テスラたちが所属する「支援・補給班」。
 ナツメたちが所属する「オペレーション班」。
 戦闘班には56人所属しており、9小隊に分かれている。
 ヒナタを小隊長としカイトが所属する第1小隊を筆頭に、作戦目的に分けて分配されている。
 支援・補給班は40人所属、戦闘内外の医療支援、装備配給など、裏方の前線を張っており、彼らがいなくなった場合SHUは消滅する。
 それほどまで重要な役職だ。
 オペレーション班は戦場の総括を行う。攻撃許可や前進撤退の指示も彼らが行う。
 戦域を24時間体制で監視しており、一番気を消耗する役職かもしれない。
 オペレーション班に所属している隊員の特異性は皆偵察、監視、情報管理に秀でた能力を有しており、場合によっては敵地侵入も行うとのことらしい。
 総指揮権はカガミハラにある。彼自身かつて軍事組織に籍を置いていた、優秀な人材だ。

 ほとんどの生徒改め隊員が能力を自在に扱えるようになったのを確認して、カガミハラは次の行動に出た。
 仮想戦闘訓練だ。
 フランスから提供された訓練プロトコルは、VR・AR技術を応用して作られた、ほぼホログラムのような仮想標的と戦闘するといったものだ。もちろん怪我はしない。
 捕獲した特異獣の行動を分析し、それをホログラムの標的が再現するため、目下の目標「捕獲した特異獣の処分」を達成するのにも役立つ。
 生徒たちはこの技術を聞いて、正直ワクワクしていた。
 アニメやゲームでしか見たことなのない「ホログラム」とか言うのを今から使おうとしている、特に男子は興奮しているようだ。
 だが実際、まったく楽しいものではなかった。
 精巧に作られたホログラムは特異獣等身大の姿を映しており、正面から見据えた時の高さは3メートル。体長は6メートルもある。
 イノシシに特異因子が影響したものらしく、その見た目はイノシシの面影はあるものの、まるで膨張したかのように爛れた体表や暴力的に汚れた牙、勝機を感じさせない赤い眼はまさしく狂気、あるいは恐怖そのものだった。
 生徒たちの間で、弱弱しく怯えた息が漏れていた。
 一週間前に覚えた死の恐怖、あれはまだ抽象的なものだったが、今ここではっきりした。
 いつか死ぬのかもしれない。
 確かな現実は子供たちを脅かすのに十分すぎる役割を担っていた。
 初めに選ばれたのは第1小隊のメンバーだった。
 オペレーションは3年、ヒイラギオオカ、「左目の視界を球体に移し、その球を操作して視界を確保する」特異性、視野拡張ヴォイドを操るオペレーター班副班長が担当する。
 体育館を特異性によって改装して造られた、耐久性に優れた訓練施設のフィールドに第一小隊、かつてギャラリー部分だった施設内部側面を拡張した観測部兼オペレーティングシステムにその他の隊員。
 カガミハラがシステム内部のマイクへ声を発した。
 「いいか、ではホログラムを建設する。」
 そう言って、右後ろのコンピューター前に待機していた技術者に合図を送ると、何回かのキーボード操作音が鳴ったのち、第一小隊の15メートル先に巨体が現れた。
 誰もが身じろぎした。
 「じゃあ、あとはオペレーターに任せる。」
 「はい。」
 オオカは直径2センチメートルほどのガラス球を取り出すと、眼を閉じて左瞼に当てた。
 球から手を放しても、球は落下せず、宙を自在に飛び回っている。
 球はそのままシステム内部の窓からフィールドへ向かい、ホログラムの周りを飛び始める。
 「ここからはコードネームで指示を出します。ネームの確認をします。小隊長、ペーパーバック。」
 「はい。」
 ヒナタが応える。
 「カウボーイ。」
 「はい。」
 カイトが応える。
 「速度乗算ヘッジホッグ。」
 「はい。」
 「泥化潜水移動ディープ・ディープ・ラヴ。」
 「はい。」
 「地図拡張ピクセル。」
 「はい。」
 「灼炎レッド。」
 「はい。」
 「確認しました。第1小隊、アクティブユニットAU展開。」
 「AU展開!」
 背負っている無機質なバックパックからいくつもの金属が流動して小隊員の体表を滑っている。
 それはやがて身体全体を覆い、各々に適した形状へと変化した。
 金属が顔を覆いきると、双眸の位置が発光し、内側ではAUの視界アシスト機能が起動した。
 作戦に関わる情報が、戦闘の邪魔にならないように整理され、オペレーターの声も内蔵スピーカーから鮮明に聞こえる。
 「展開完了。」
 小隊長が報告した。
 「了解。行動開始まで30。」
 徐々にカウントが下っていく。
 相手はホログラムだ。
 怪我の心配はない。 
 とはいえ、怖いものは怖い。
 「カイト。」
 「・・・なに。」
 「大丈夫?」
 その問いかけに答えるのに、カイトは長い時間を使った。
 隊員が各々武器を構えはじめてやっと、答えた。
 「うん。大丈夫。」
 そう言ってホルスターから銃を抜いた。
 「OK。」
 ヒナタは次に小隊全員に向かって声を掛けた。
 「全員、行動内容は判ってるね?」
 問題ないという趣旨の返答が返ってくる。
 「カウント終了後、素早くポジションへ移動。僕が初撃を入れてから、一斉に攻撃を開始する。」
 「了解。」

 「行動開始まで5。」
 握る武器に力が入る。
 「4。」
 ホログラムの相手を見つめる。
 「3。」
 息を整え、
 「2。」
 姿勢を低くした。
 「1。」
 足に力を籠める。
 「開始。」
 と同時に、6人が飛び出した。
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