51 / 60
(5)
しおりを挟む------今後、貴方は今後必ず、私達王族の力を……私を必要とする時が来る。そしてその時、私には「兄」が必要なのです。
嘘偽りなどない一切無い瞳でこちらを見つめてくるフルスタ様に、俺は息を呑んだ。
------泰平の政治において、必要な「剣」こそ兄のような人間です。私は、あの人から様々な事を教わったのだから。
そう、フルスタ様はラティの本質にずっと前から気付いている。そして、それは子供の頃からずとそうだった。
------私に……僕に、兄さんを返して。僕は一人でこの国を背負えない!
だからこそ、俺はこの人を蔑ろに出来ないのだ。未だに心の底から尊敬の念を持って「フルスタ様」と敬称で呼んでいる。
「ダメだ、今、ラティを外に出したら。俺の手の届かないところに、行ってしまうかもしれない」
昔、ラティが酷く冷酷な目をして言った事があった。
-----器のない権力への執着は、余りにもみすぼらしく見える。大国スピルの貴族として、もう少し楚々とした丁寧さも身に着けて欲しいよ。
ラティは昔からそうだ。
自信の無さそうなそぶりの裏で、その実誰よりも「王族」らしかった。これからの「泰平の世」を担う、アイツは……あの方こそが——。
「……これからのスピルの〝剣〟だ」
対照的に、たかが「盾」でしかない、戦しか能の無い俺は平時には無用の長物となる。
それに気づいたラティは、一体どう思うだろう。
子供の頃から「ケイン、ケイン」とキラキラした瞳で俺を見てくれていたのに、あの目を俺じゃない、もっと別の誰かに取られてしまうかもしれない。
「……ラティ、どこだ?」
ジワリと背中に嫌な汗が流れるのを感じつつ、窓から中庭を見渡す。しかし、先ほどからどこを見てもラティの姿はなかった。
「……どこに、行った?バラを、見てるんじゃないのか」
俺は妙な胸騒ぎと共に、ラティの部屋を出た。
まさか、ラティが逃げ出すような事は決してないのは分かっている。だって、ラティには俺しか居ない筈なのだ。文通の手紙にも、いつだって「ケイン」の事ばかり書いてあった。それ以外には何もなかった筈だ。
「っラティ……!」
しかし、中庭に出てもラティの姿はどこにもない。
その瞬間、脳裏に前回の「文通相手」に送られた、ラティの最後の手紙の文章が思い出された。
≪こんにちは。いつも私の話を聞いてくれてありがとう。
そういえば、ずっと私の話ばかりをしていたね。よければ、今度はキミの話を聞かせてくれない?
食べ物は何が好き?昼と夜ではどちらが好き?好きな場所はどこ?なんでもいいんだ。私は、君の事が知りたい!教えて!≫
いや、前回だけじゃない。
ラティはひとしきり相手に俺の話を伝えきると、最後は「あなたの事を教えて?」と無邪気な興味を俺以外に向け始める。
そうなった瞬間、俺は耐えられなくなってラティに「もう手紙は続けられなくなったらしい」と口にしてしまう。その度にラティが悲しそうな表情を浮かべるのを、俺は見て見ぬフリをしてきた。
俺は、どこまでも臆病な卑怯者だ。
「ラティ、どこだっ!どこに行ったんだよ……!」
庭園を、まるで迷子になった子供のように走り回る。しかし、金色のバラにうっとり見とれるラティの姿はどこにもない。
「……まさか」
俺は庭園の周囲を取り囲む森の入口に目をやった。
ラティが外に出た?まさか、そんなはずはない。絶対に外には出ないように言ってあるし、そもそもラティ自身が外に出たいとは欠片も思っていない筈だ。
けれど、その瞬間、胸を締めつけるような嫌な予感が膨らみ、気づけば森の木々を抜けて、離宮の敷地を駆け出していた。
そして、森を抜けた先で、俺の最悪の予感が現実となって目の前に突きつけられた。
「ラティと……ショート?」
そこには、ラティと弟のショートが楽しそうに話をしている姿が目に入った。
「なんで、二人が一緒に」
何を話しているのかまでは分からない。けれど、ラティがあんな風に無邪気に笑うのを……俺はここ数年で、初めて見た気がした。
「……ラティ、ラティ?」
ラティは俺を見る時、いつでもどこか申し訳なさそうな顔をしていた。自分はとんだ無能で、俺の恩情によって生かされているのだ、と。常に後ろめたさを抱いているような目で俺を見る。
そんな事ないのに、生かされているのは俺の方なのに——そう思い、ラティの元に書け出そうとした時だった。
「っ!」
ショートの腕がラティの背中に添えられた。ラティもそれに従い歩いて行こうとしている。俺に背を向けて。
目の前が真っ赤になる。
これは、バーグに攻め込んだ時と似た感覚だ。あの時は、俺の大事なモノが侵された怒りにだった。しかし、今度はどうだ。
「っはぁ、っは。ラティ、お前は……俺を、見捨てる、のか」
ラティが俺以外を選んで、外に目を向けてしまうのではいかという……絶望に近い嫉妬心だった。胸の奥が冷たく締め付けられる。置いていかれる恐怖に、ただ感情のまま駆け出した。
ショートは俺なんかよりずっと弱い。頭も悪いし、要領も悪い。でも、いつも俺よりも周囲からは構われていたし、母親も父親も、ショートにはどこか甘かった。
------ちぇっ、兄貴ばっかりズリィよなぁ。
どこがだよ。俺ばっかり親父に殴られて。お前はいつだって周囲から愛されていたじゃないか。
ショートは確かに、俺より弱い。
「クソ、クソ……。なんだよ、俺にないモノばっか持ってる癖に。どっちがズリィんだよ」
でも、これからの世の中「強さ」にどれほどの価値があるだろうか。
-----でも、ぼぐはっ、フルスタみたいに、立派じゃないから……ケインを、とっ、とられたら、いやだよぉっ……!
幼い頃、フルスタ様に俺を取られたくないと泣いたラティの気持ちに、やっと俺も追いついた。いや——。
「ラティ、ラティ……可愛い、俺のラティ」
とっくの昔に、追い越していた。
100
あなたにおすすめの小説
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。顔立ちは悪くないが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
2025/09/12 ★1000 Thank_You!!
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった
cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。
一途なシオンと、皇帝のお話。
※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。
平凡なぼくが男子校でイケメンたちに囲まれています
七瀬
BL
あらすじ
春の空の下、名門私立蒼嶺(そうれい)学園に入学した柊凛音(ひいらぎ りおん)。全寮制男子校という新しい環境で、彼の無自覚な美しさと天然な魅力が、周囲の男たちを次々と虜にしていく——。
政治家や実業家の子息が通う格式高い学園で、凛音は完璧な兄・蒼真(そうま)への憧れを胸に、新たな青春を歩み始める。しかし、彼の純粋で愛らしい存在は、学園の秩序を静かに揺るがしていく。
****
初投稿なので優しい目で見守ってくださると助かります‼️ご指摘などございましたら、気軽にコメントよろしくお願いしますm(_ _)m
王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は未定
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い
・本格的に嫌われ始めるのは2章から
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる