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第12話 小森家の姉妹

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 さて、まずは部屋の片隅で埃をかぶっているギターを掃除するところから始めようかな。竜胆さんとのガールズバンド物語、その第一歩である。
 明春フェスが終わり家に着いた私は、そう思考しながら家の扉を開ける。
 すると、リビングから気だるげな雰囲気の少女が出てきた。半袖シャツに短パンのラフな格好だ。口にはソーダ味の棒アイスを咥えている。
 …まだ四月も始まったばかりだぞ。
 夏先取りし過ぎだろ。季節感バカか?

「姉さん。明春フェスどうでした?」

 我が妹、小森 玲奈こもり れなである。ショートカットにくりくりした目をしていて(私に似て)可愛い。まぁ、寝不足なのか目が死んでいるので、いつも魅力が半減するデバフが掛かっているのだが。
こいつ、こんなアンニュイガールな見た目なのに対戦型ゲームのガチ勢なのだ。夜中までずっとやっている。
 なのに頭良いのが憎たらしい。お前、まったく勉強してないじゃん…。私、テストで百点とか取ったこと無いんだが。
 まぁ、なんだかんだ可愛い妹である。偶に鋭く嫌味を言ってくるけどな!

「凄かったよ~。もうね、まじでね、東京ドームだった」

「まじですか。強すぎでは?」

「最強まであったね」

「よく生きて帰って来れましたね…」

 いつもこんな感じで適当に会話をしている。多分、会話の八割には意味が無いと思う。
やれやれ。まったく、困った妹である…。

「てか、それよりも聞いて欲しい。今日も竜胆さんが可愛かった件について」

「それ、昨日も聞きました。」

「いや、今日のはまた違うんだって!」

「あ、フレンドに呼ばれたのでゲームして来ます」

「おいこら」

 妹はそのまま自分の部屋に行ってしまった。
冗談じゃないのかよ…。

 はぁ。妹にはまだ竜胆さんの尊さを理解するのは早いか。人生の九割を損しているな。可哀想なやつめ。

 心の中で悪態を吐きながら私も自分の部屋に向かう。そして、部屋の中央付近に置いてあるビーズクッションの上に寝っ転がった。ふかふか~
 これが私流・帰宅後のルーティン。だらしないね…。
フェスでエネルギーを消費し過ぎたのか、ごろごろしてたら眠くなってきた。この眠気、抗えない…Zzzz…


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「…さん。姉さん!」

「んむ?」

「やっと起きましたか。夕飯ですよ」

 おっと、そんなに寝ていたのか。時計をみると針は十九時を示していた。
 幼い頃からたくさん寝て王子様のキスを待っているのに一向に来る気配が無い。何故だろう。いつでも王子様竜胆さんウェルカムなのに…。

「つまり、戦争が始まるのか…?」

「そうですよ。ここから先、油断は禁物です」

 私と妹は、夕飯の事を戦争と呼ぶ。うちの家族は譲り合いを知らない蛮族なので、いつもおかずの取り合いになるのだ。特に好物が被ると争いは激化する。

「今日の夕飯は、すき焼きみたいです」

「じゃあ、白菜しいたけ交換条約の出番か」

 私は椎茸が好き、妹は白菜が好き。よって、ここには交換条約が成り立つのである。やっぱり平和が一番だよね!

 ちなみにお肉については交渉の余地など無い。闘うしか無いのだ。
 平和?所詮、幻想だよ…(寂しげな表情)


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 すき焼き、美味しかったです。
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