海の聲~WWX(千年放浪記-本編2)

しらき

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異変

ミライ・スコープ

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ミライ・スコープ


 「岩村、いるか…?」
「…“俺は”います…。」
その“俺は”という言葉がやけに強調されていたように聞こえたため、扉を開けるのが怖かった。いや、扉を開けずとも岩村と話をすることだけで充分怖かった。だが俺は知らねばならない。これは艦長という立場とかではなく須藤康成という一個人として、そしてあいつの親友として。
 扉を開けるのはやめた。今岩村の顔を見てはいけない気がしたし、向こうだって俺の顔を見づらいだろうから。だから俺はこれだけ、聞いた。
「明日、その部屋の点呼は何人で完了だ?」
「…1人です。いえ、厳密にはこの部屋に軍人はいないので点呼は必要ありません。」
「そうか。一応お前も隊の1人として数えられるからその部屋は1人だな。…そう更新しておく。」
「…お願いします。」
ひどくあっさりとした会話だった。いや、今はそれでいいのだ。自分の部屋に戻ろうとした時、人の気配を感じた。


 「…なんだよ。」
俺をつけてきていたのはいつにも増して不機嫌そうな松岡だった。
「いや、それはこちらのセリフだ。何故俺をつけてきた。」
「俺だって気になってたからだよ…。それにお前の後をつけたかった訳ではない。あの部屋に行きたかっただけだ。」
「今お前を岩村のところに連れていく訳にはいかない。」
「じゃあ倉持は…。」
「…。」
「なんで、なんでだよ!あいつは誰よりも自信に満ち溢れていたじゃないか!夜になっても現れないって聞いて確かに諦めかけていたけど…僅かな希望は持っていた。あいつがどこかにいることを期待していた。」
「205号室は1人だ。…そう、更新してくる。」
「っ…せめて2人のままにしておいてくれよ…!」
「それじゃあ今後人員の管理に支障が出るだろう。」
「お前は倉持の生存を完全否定するのか!?」
「それがルールだ。」
「ルールって…なんだよ、それ…。」
「ここではルールは少なくとも個人の感情よりも強く作用する。そういうものだ。」
「…全部お前が訳の分からないやつを拾ったからだ。」
「なんだと?」
「被害が出始めたのは岩村海翔が来てからじゃないか!絶対あいつ何かあるって!そもそも何日も海に漂っていたのに生きてるっておかしいでしょ!なんでそんな得体の知れないものを拾ったんだ、お前は!」
「…根拠の無い噂や感情に振り回される馬鹿と会話する暇などない。」
「おい!待てよ、須藤!馬鹿はお前だ。好奇心に負けて自らを滅ぼした大馬鹿野郎じゃないか!」

「…知ってるよ。」


 「おかえり、須藤さん。」
星を見に行く、と言って外出していたらしい剣崎だったが俺よりも先に戻ってきていた。
「なんだ、戻っていたのか。どうだ、星は綺麗だったか?」
「とびきり綺麗な赤い星が2つあったなぁ。」
「赤い星だと?それは寿命が近いから脳に焼き付けておいた方がいいぞ。」
「うーん、あの星は消滅しない、というよりはできないだろうなぁ。」
消えることのない赤い、2つの星…。それは夜空に無数に存在するその“星”を指しているわけではないようだ。
「それは…夜の間だけ見えなくなりそうだな。」
「…そんな話はいいんだった。須藤さん、昨日はどんな夢を見たの?」
「夢?なんでまた…。」
「いいから。」
「昨日…か。いつも通り海戦の夢だったな。雲行きが怪しいところで目が覚めたが。」
「いつも通り?昼みたいにってこと?」
「それもあるが、大体出撃の予定がある日の前夜は夢の中でも海にいる。」
「夢の中でも指揮してるの?」
「…したい訳では無いがな。」
「出撃予定が無い日は見ないの?」
「あー、そうだな。ただ何故か予定がないのに夢を見た時、緊急で出撃命令が出ることはあった。」
「まさか予知夢の能力…?」
「…言われてみれば最初、俺達がまだ調子の良かった時は夢に見たとおりの展開になっていたような…。」
「なるほど、予知夢の能力もあるってことか…。」
「どういうことだ?さっきから話が見えん。」
「プロジェクトMMのカラクリがわかったかもしれない。」
「プロジェクトMM?…ああ、あったなそんなの。だがそれが今の話のどこに関係あるんだ?」
「須藤さんの得た予知夢の能力はそいつのせいだよたぶん。」
「だとしてもなんで俺たちなんだよ。」
「須藤さん、前言ってたじゃん。被験者の処分について。」
「そうだな。合法的に、もしくはそう見えるように人を殺す手段が…そうか。」
「気付いた?」
「…何か理由をこじつけて戦争をするのが1番じゃないか。」


 部屋の主は俺よりも先に帰っていた。そもそも食堂に行く以外の目的で部屋から出ていない可能性も無いとは言えないが。
「どこ行ってたんだよ、死んだかと思ったじゃん。」
「ご冗談を。俺が死ぬ訳ないだろう?」
むしろ死にたいくらいだ、という言葉はなんとか飲み込んだ。
「…そうだな。お前は死なないんだった。」
「…倉持の事なんだが、あいつの最期はいささか妙だった。」
「妙?」
「突如空中に機体が現れたと思ったらそれが墜落したんだ。光学迷彩のようなものだったのか…?」
「光学迷彩?いや、そんなものは使ってないだろ…。」
「だとしたらやはり信じ難いが非科学的な力なのか…?」
「非科学的な力ねぇ…。まさか俺も…。」
「何か心当たりがあるのか?」
「いや、なんかさ、ここに配属された時くらいからすごく遠くが見えるようになったんだよ。」
「視力が上がったのか?」
「そんな次元じゃない。なんというか千里眼のような…。」
「これまた人間の力を超えているような。」
「見張り員としてはすごく便利な力だったから良かったけど。」
「確かに。…あれ?見張り員のお前は千里眼、パイロットの倉持は透明になる力…。偶然手に入れた能力にしては役職に合い過ぎではないか?」
「タイミングも良すぎる。だとすれば俺や倉持が特殊なのではなく、ここにいる学生全員が…?」
「聞いて回る必要がありそうだな。」
「だが何故こんなことが…?俺達が政府軍と戦っていることと関係があるのだろうか。」
「生態研究科がやっているMM企画ってやつが怪しい。」
「なんだそれは。」
「剣崎が拾った情報なのだが、マイクロチップによって人間に超能力を与えるといった夢のような、無謀とも言えるような計画だ。」
「生態研究科だと?あそこはうちとの仲は悪い。だとしたら俺たちを実験体にしたということか…。」
「だがもう充分サンプルを得たのだろう、今は処分の段階だ。」
「処分だと!?だから急に被害が出始めたのか…。何かが狂ったように。」
「かなり話が見えてきたな…。」
「待て、それじゃあ俺たち全滅の一本道じゃないか!ただ奴らに利用されて死ぬのかよ!」
「…何か手を打たない限りは。」
「そんな…よりによって俺が…一文路に殺られるなんて…馬鹿な…。」
松岡が発した“一文路”という言葉について尋ねようと思ったが何かに取り憑かれたかのように言葉を呟き続ける彼に聞けることなどなかったのだ。さて、果たして俺はこの事実を伝えるべきだったのか、否か。長く生きていてもそういうことには疎いままだったのだ。


 「はいはーい、こんな時間にどちら様…、なんだお前か。」
「なんだとはなんだ、有益な情報を持ってきたんだから感謝しろよ。」
正直松岡を部屋に一人置いてくることには気が引けたがこちらの問題は早く手を打たないと取り返しがつかなくなる。剣崎と須藤がある程度話を進めていてくれていれば有難いところである。
「有益な情報だと?剣崎が言っていたMMに関することか?」
「ご名答。どうやらおかしな力を得たのはあなただけでは無かったようですよ、艦長。」
「それは知っている。平塚の事故もその超能力のようなものが関わっていたと確信した。」
「平塚さんも?」
「今までは人並外れた的確な距離把握が出来ていたようだがあの日それが狂ったらしい。3mが30mくらいになったと。」
「長さが10倍に…!?なんて恐ろしいバグだ。」
「正確な距離感覚…。平塚氏は確か戦闘機のパイロットだったよな…。となるとここもか…。」
「白城は何を言っているんだ。」
「そういえば確か倉持さんは機体ごと透明になる力を得たんだっけ…。それがおかしくなって墜落したわけだけど…。」
「そうだったのか!?」
「ああ。で、話を聞いてみたが松岡は千里眼のようなものを得たそうだ。偵察機に乗る倉持は透明化、見張り員の松岡は千里眼、戦闘機を扱う平塚氏は正確な距離感覚を得た。」
「そして艦長の俺は予知夢の能力…。それぞれの役職に都合が良すぎる。」
「そうなんだ。これはマイクロチップによって得られる超能力のテストのようなものだったんだ。」
「そりゃあ快勝続きだな。」
「でも最近は負け続きだし被害もどんどん大きくなってない?」
「そこがポイントだ。手法はわからんが向こうが徐々にマイクロチップの性能をバグらせ始めたようだ。」
「何故?」
「凡そデータがとれたのだろう。処分の段階に入ったと言える。」
「処分…。」
「待って、処分ってことはいずれ電子工学研究科は全滅ってこと!?須藤さんはそれでいいの!?」
「そればかりはどうしようもないだろう。」
「なんでそんな落ち着いてるのさ…。」
「だが白城、電子工学研究科の全ての大学生を被験者としてしまえばこの施設はおしまいだ。それじゃ政府も今後困るのではないか?」
「そう。だから俺たちは1つ確かめなければならないことがある。被験者は全員なのか無作為に選ばれた者立ちだけなのか。」
「えっ、そんなのどうやって知るのさ!」
「…2ヶ月。あと2ヶ月命があればなんとかなる。」
「…流石この国のブレーン様は違うな。」
「まあな。…真の戦争はここからだ。」
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