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2042年の頁「人生最大の汚点、またの名を出発点」
しおりを挟む「…何の用だ。」
「いやぁ…その…」
やや目線を下にしていかにも申し訳なさそうに。例えそんな小細工が通用しない相手だとしてもそう演出する以外に選択肢はない。まさか堂々とするわけにもいかない。
「いいか、俺はお前みたいなガキと違って暇ではない。この後も公演があるんだよ。」
「資料室の鍵を貸してくれればいいんだよ。」
「あそこは関係者以外立ち入り禁止だ。」
「俺関係者だし!剣崎の名を聞けばここの人はみんな…」
「その剣崎の人間であることをやめると言って家出をしたのはどこの誰だっけか。」
「そ、それは…」
そう、恥ずかしいことに俺は自由になるための旅をすると言って家を出たものの、どうしていいかわからず翌日にはのこのこと帰ってきたのだ。
「そもそも何故いきなりここの資料室を見たいなんて言い出したんだ。冒険者ごっこの次は歴史学者ごっこか?どうせならもっと子どもらしい遊びをしろ。」
「子どもらしい遊びって何さ。こんなところ参考にできる他の子どもがいないじゃんか。」
「なら楽器と遊んでいなさい。お前に相応しいのはそれだろう。」
「えー、俺これ以上練習する必要ないくらい弾けるからいいよ!あんたら毎日ピアノ、ピアノってさ…俺はピアノじゃねぇ、剣崎雄だ!」
「お前、よりによってこの誉れ高き月城音楽ホールの中でそんなことを…!」
「最盛期ならまだしも、今はもう閑古鳥が鳴いているような場所だぜ?」
「こいつ…!」
「若槻さん、そろそろ…」
「ああ、もうそんな時刻か。面倒なクソガキを処理できずじまいか…」
「ちょっと、資料室は!?」
「ダメだ。大人しく帰れ。」
「ちぇー…」
旅ができないならせめて月城音楽ホールの伝説について調べようと思ったのにこのザマだ。作り話だとは思うが昔ここ、月城音楽ホールで1人の万能神が人間の演奏家たちに紛れて演奏をしていたらしい。このホールもその神がたった半日で建てたとか。神なんてものが存在するとは思えないが、先程この俺に無礼な応対をしていた若槻という男は謎の錬金術だか黒魔術だかで100年以上生きているらしいし、人間離れした力を持つ者がいてもおかしくはないとは思う。若槻については代々剣崎一族と関わりを持つという点で本当に若返りの術を持っているとしか言えない(つまりあの偏屈な男が1世紀以上生きているのは妄想や作り話とかではない)。あいつのことはさておき、もしも伝説の通り神のような存在がいるなら俺はそいつを上手いこと利用してでも世界の全てを知りたいと思っている。具体的にはそうだな…有能で従順な旅のお供と永遠の命が欲しい。即時的に知識を得たいというよりかは広い世界をこの目で見たいからだ。まあ今の時点では皮算用ですらないが。
「はー、つまんねぇの。一生こんな何もない田舎で楽器弾いて過ごせってか。あー、南の方にあるとか噂の都会ってところに行ってみてぇ…」
「なんだ少年、都会に興味があるのか。」
驚いて振り向くといつの間に現れたのか、和装の男が立っていた。どうやら俺の独り言を聞いていたらしい。
「おじさん、誰?」
「はは、何、俺おじさんに見える?…うーん、一応ナウなヤングでハンサムな見た目にしたつもりだったがなぁ…あ、いやこっちの話。」
「だって、いまどきそんな恰好している人いないよ。趣味が古いね。」
「しまった、服装か。でもこれは譲れないなぁ…洋服ってやつはどうにも馴染まない。」
「さっきから何を言っているかわからないけど、俺に何の用なのさ。」
「おじさんと都会に行かない?」
「え!?」
まさかこんな簡単に都会に行くチャンスが飛び込んでくるとは!いや待て、これでも俺は名門剣崎家の長男。初対面の正体不明の男にほいほいついていくようなアホな子どもではない。
「ん?どうした、行きたくないのか?」
「世の中見返りを求めない親切なんてあるわけないからね!残念ながら俺は家出をしたから剣崎家の財産や地位を目的としているなら無駄だよ!」
「…お前、随分可哀想な子どもだなぁ」
「可哀想?俺が?何言ってんの、だって月城の大人たちはみんな俺のこと可愛がってくれるし、美味しいものだってなんでも食べられるし、練習はつらいけど大人も認めるくらいピアノのスキルはあるし…家柄にも才能にも恵まれた俺が可哀想?まあ確かにこの辺境地に住まわされている点では可哀想だと思うけどさー…」
「ああやはり若槻から聞いた通りだな。全(アキラ)や紬(ツムギ)の代はまだ良かったが清(キヨシ)や麗(ウララ)、要はお前の両親の代だな、そのあたりから剣崎の人間は駄目になったようだ。恐らく月城音楽ホールに人が入らなくなったのもそのあたりか…」
「なんで俺の家族のことを…!」
「だから若槻の知り合いなんだってば。」
「へー。だったら尚更ロクな人じゃないや。」
「いいのか、そんなこと言って。これでもお前の10倍以上生きているし色んなことを知っている自信があるけどなぁ…」
「じゅ、10倍!?嘘だ!そしたらあんたヨボヨボのおじいちゃんのはずじゃん!」
「まあそうなるな。」
「え、でも…あれ…?」
確かに目の前にいるのは、正確な年齢はわからないがどう見ても老人ではない。20代か、若く見える3,40代か…。
「お前だって若槻を知っているはずなのに何故そんなに頭を抱えているんだ。」
「あ…!」
「まあ俺はあいつみたいに非合法的なことはしていないがな。単純に人間より寿命が長いだけだ。」
「おじさん人間じゃないの!?」
「ああ。半分は人間だけどな。なんだ少年、妖の類は初めてか?」
なんかの文献で見たことがある。若市には昔人間と同じくらい、いや人間よりも多くの妖怪が住んでいたと。今でも人間のふりをして生活の中に紛れ込んでいるなんて話もあったが、そんなものはオカルト好きの妄想かと思っていた。だって今は21世紀だ。
「まあ俺が何者かなんてこの際どうでもいいだろう。それよりお前さん、このままおうちに帰る勇気があるのか?」
「え、なんで…」
「それも全部若槻から聞いたんだよ。あいつもお節介なやつだよな、“剣崎の末代がうるさくてしょうがない、旅にでも連れて行ってやれ”とさ。」
「若槻が…」
いやあいつのことだ、俺がうるさいからどこかにやってしまおうと考えたに違いない。しかしこのまま実家で息苦しい思いをするよりは…
「わかった、俺も行く!若槻の顔を立ててやらなきゃな!」
「おう、そうか。俺は新井和彦ってんだ。お前さんは剣崎の…」
「剣崎雄!剣崎雄様だよ、新井さん!」
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