Prisoners(千年放浪記-本編4)

しらき

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Noir

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 「あ、ロン!久しぶり!調子はどうだ…むぐっ!?」
「マルコ、静かに!あとあまり”ロン”って呼ばないで!」
「え、あ…うん。ごめん…。」
「とりあえずここじゃだめだ、うちの裏口からバックヤードに入ろう。」
獅子堂の青ざめたような顔に違和感を感じながらとりあえず俺たちは喫茶レーヴェの裏口に詰め込まれるように入った。
 「…はあ、ここなら大丈夫かな。」
「ロン!一体何があったの!?」
「…俺にもよくわからない。ただ1つ言えるのは俺の顔やこの店の情報が世間にばらまかれているってことだけ。」
「え…」
「”ロン”ってニックネームと歌の特徴から俺の知り合いが情報を漏らしたのかとも思ったけど、ここのお客さんたちがそんなことをするとは思えないし…。」
覆面アーティスト”ロン”の人気によって獅子堂倫音という個人の私生活が侵害されるような事態が起きているということか。喫茶レーヴェの客は信用できると言うが、本当にそうだろうか。誰だって自分が有名人の知り合いだったら自慢したくなるものではないのか。
「それに問題はそれだけじゃない。俺が活動する条件としてうちの支援があったはずだ。それは2人も烏丸さんとの会話を聞いていたから知っているよね。」
「ああ、それでロンは活動することにしたんだよね、匿名だし。」
「ってまさかその支援が…!」
「その人の言う通り、そのまさかだ。店長に確認したんだけど烏丸なんて人から支援金は届いていないって。」
「それって契約違反ってやつじゃないの!?」
「そう言っても取り合ってもらえないんだ。そもそも俺そういうの苦手だし…」
「おーい、倫音くん!ちょっとでいいから表に出てくれないかい。君を一目見たいってお客さんが止まらないんだ。」
「…今日もですか、店長。はあ、俺なんか見て何が楽しいんだか。」
「…これだ。」
「千、どうしたの?」
「烏丸の言い分は恐らく喫茶店に人が押し寄せれば売り上げも増加し、それが支援したことになる、ということだろう。」
「なにそれ!?ってことはロンやレーヴェの情報を流したのは烏丸ってこと!?」
「…無茶苦茶だ。いずれにせよ契約違反じゃないか。」
「あくまで俺の推測に過ぎないがな。だが烏丸のことは信用しない方がいいだろうな。」
「そうですね、あなたの言う通りです。さて、俺はあっちに行かなきゃ。一応店長には恩があるし、ここに住めなくなったら行くあてがないから。」
「ロン…」


 ”ロン”のライブの再生数は鰻上りだ。特に彼の顔写真などのプロフィールや勤務先兼自宅の喫茶レーヴェの情報を漏洩させてからはさらに盛り上がりが増したように思える。覆面のまま続けるか正体を明かすかはある意味賭けであったが、結果的には彼の正体を知りたがっている客の方が多く俺の判断は正しかったと言える。そもそも元々は”ロン”というアーティスト名及びイメージ画像だけを公開していたため、あの美しい高音の歌声が15歳の少年のものであったことが広く知れ渡ったのは情報公開後であり、それがまた話題となった。つい先日約束していた喫茶店の支援やプロフィールの非公開が守られていないとして獅子堂倫音自ら抗議に来たが、そんなガキの戯言の相手をしている暇はない。我が社、Piece Noirは王室や貴族との繋がりもある。仮に獅子堂が契約違反について訴訟を考えても力で勝るのはこちら側だ。
 それにしても彼は自らの力に気付いていないのだろうか。ああ、確か表から来た人間だったか…。向こうでは魔法など非科学的な現象はフィクションの中にだけ登場するものだと聞いたことがある。だとすればこちらで教育を受けない限りわかるはずがないか。かく言う俺も魔法というものがあまり好きではなく商品を鑑定する時くらいしか使わないのだが、獅子堂倫音の価値は彼の歌そのものではない。彼の集客力はもっと他のところにあるのだ。
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