Prisoners(千年放浪記-本編4)

しらき

文字の大きさ
11 / 23
Noir

3

しおりを挟む
 「ねぇ、あの落ちこぼれはこのまま帰って来ないかな。」
「…まったく、いつになったら呼び方を改めてくれるのですか。ホルニッセ王子はあなたの兄君ですよ。」
「ふん、あんなものが僕の兄なんて納得できないね。父上だって大袈裟なんだよ、あれが失踪した程度で国全体の催しを禁止するなんて…」
「確かに経済へのダメージは大きいですが…。でもそれくらい国王はホルニッセ様のことが大事なのでは。」
「まああれは”蜂の名”を持つからね。死んだとは限らないのに既にお通夜ムードにもなるよ。」
”蜂の名”…王家の長男は代々Hornisseと名付けられ、王位が約束されるというしきたりだ。確か今の国王が5代目だから、仮に兄君様が即位されればHornisse=Zacharias6世になるのか。基本的に他の兄弟に王位継承権が移ることはなく、もし兄君様がこのまま帰らなければ前代未聞の出来事である。
「国王がホルニッセ様を大事にされているのはそれだけではないでしょう」
「他に何があるんだい。父上だってあんなルールが無ければ僕を国王にしたいだろうに。」
「いや、国王だってこれ以上…」
「これ以上、なんだ?」
「あ、いえ…」
しまった、アルフォンス様の前で亡き王妃の話は禁句だった。だが王もこれ以上家族を失いたくないという焦りからあそこまで大袈裟なことをしているに違いない。国民に負担をかけることで早くこの状況から解放されたいと思った彼らはホルニッセ様の捜索に協力的になるかもしれない。そうだ、きっと王はそれを考えて…!
「そういえばアマリア、お前の弟は確かあの出来損ないの近衛兵だったな。」
「…!」
そういえば最近マルコの姿を見かけていない。まさか…
「可哀想に、あいつの身勝手な行動ゆえの失踪の責任を負わされるんだよね。まあ居場所がなくなったら僕の護衛として拾ってあげるよ。お前の弟ならまあ使えるだろうし。」
「は、はあ…。それはありがとうございます。しかし、ホルニッセ様の身勝手な行動とは?」
「え、知らないの?あいつ見張りの目を盗んで一人で街をうろつく癖があるんだよ。ほら、お前ら姉弟を見つけてきたのもたぶんその時。」
確かに言われてみればなんとか色々なところで働いて食いつないでいた私たちを王子自らスカウトしたことだけでも奇跡のような出来事であったが、あの時王子は護衛も付けず1人だった。”うちで働かないか”とスカウトされ、たどり着いた職場が王宮だった時には腰を抜かしたものである。
「それは…随分と困った方ですね。」
「でしょ!そのことについては父上も手を焼いていてさ。王族なんだからもっと気を付けろってさ。だから今回のことを聞いてざまあみろって思ったよ。」
「こら、そんなこと言ってはいけませんよ。」
「だって自業自得じゃないか。あいつ魔法も使えないくせに変に鍛えちゃってさ、魔法が使えないなら自分がその分強くなればいいとか言ってるけどさ、そもそも僕たちは先頭に立って戦う必要ないの!なのにあの脳筋は…」
しかしそうは言いつつもアルフォンス王子は兄君様の話をしている時が一番生き生きとしているように見える。2人の間に何があったか詳しくはわからないがこの悪態も構って欲しさゆえのものだとしたら可愛らしいとは思う。
「そうだ、なんか最近あのポンコ…兄上の無事を祈る歌みたいなのが街で流行っているって聞いたんだけど。」
「ああ、確かPiece Noireの烏丸エリックがプロデュースしている獅子堂倫音のことですね。ライブ配信の形を取っていたので禁止されていたイベントには含まれないという…。全く、上手い抜け道を見つけたものですね。」
「Piece Noire?だったら別にそんな抜け道探さなくてもいくらでも父上とのコネを使えば良かったのに…。いや、さすがに今回ばかりは特例を許したら国のイメージが悪くなるか。」
やはりどこの国でも国の中枢との繋がりによって儲けを得る輩は絶えない。しかし烏丸は一体どうやって王家とのコネを得たのだろうか。裏金?でもPiece Noireは歴史の浅い、新興企業だという話だ。設立者の烏丸エリックはまだ23歳。元々資産家の生まれ?彼の才能?それとも他に…?

 「…あ、姉さん。」
「マルコ!なんでここに…」
いや、元々私もマルコも他に行き場が無かったため王宮に住まうことを許可されている。別に彼がここにいることは何もおかしくはないが…
「しばらく街で会った旅人さんと色んな宿や空き家を点々としていたんだけど、ちょっと用があってさ。」
「ホルニッセ様のことがあってから1度も顔を見せなかったじゃない!…良かった、無事で…」
「大袈裟だなぁ。おれはあの時別件で護衛から外れてたんだけど、それでもここには戻りづらいから街中をうろつきながら情報を集めてたんだよ。」
「…そう。」
久々の家族との再会に声が震えそうになる。それにしてもあのマルコが随分と強くなったものだ。いや、それはお互い様か。
「そうだ、それでさ、姉さんに頼みたいことがあるんだった!」
「頼みたいこと?」
「うん。おれには難しいけど姉さんならもしかしてと思ってさ。今話題のアーティスト、ロンって知ってる?」
「うん、知ってるよ。それがどうしたの?」
「ロンをプロデュースしているPiece Noire、烏丸エリックが契約時のルールを破ってまで彼を売り出しているんだ。例えばプライバシー保護を約束しておきながら烏丸自身が情報を流したり、後はそもそも契約の条件だった彼の実家への金銭的支援の約束を反故にしたり…」
「マルコ…」
「ロンがおれの友達だってのもあるけど、そんな悪徳企業を放っておくなんて出来ないよ!お願い…」
「…ごめん、それは出来ない。」
「…そっか。確かに姉さんは王子の側近であって国王の側近ではないもんね…。」
「…そうだね、私の立場じゃ無理な問題かな。」
 マルコは残念そうに笑いながら帰っていった。だが国王の側近だとしても、いや国王の側近ならば尚更一市民の生活ではなく、国に必要な力を取るだろう。それが例え悪だとしても。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...