新米祓魔師と吸血姫―最強の吸血姫と契約した少年は、普通の学園生活を送りながら厄災へと立ち向かう―

椿紅颯

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第三章【ありふれた日常にこそ幸せがある】

第18話『森夏から訊く伊地守について』

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 僕達は、教室の一角にて向かい合っている。

「ああ、明確な攻撃を加えてくる超絶毒舌暴言美少女っていうのは伊地さんのことを言っていたんだ」
「物凄くオプションがいろいろと付いているような気がするけれど、どうやらそういうことらしい」

 ようやく得られたヒントから導き出された答え。

「それで、どういうやつなんだ?」
「うーん、まずはフルネーム――伊地守さん。彼女とは去年同じクラスだったからある程度はわかるよ」
「さすがは森夏、頼りになるよ」

 森夏は頼られているのが心地良いのか、整った顔の小さな鼻を嬉しそうに指で擦っている。

「伊地さんは、成績は常にトップクラスだね。運動も人並み以上にできるという、しかも文武両道であの外見でしょ? 一年生の時は凄いもので、学校のアイドルと言えば伊地さんって感じだったんだよ」
「ほう、確かにあの外見だけであれば騙される人は続出してもおかしくないだろうね」
「あっ、もしかして天空くんも惚れちゃった感じ?」
「いや、冗談はやめてくれ。もしもあんなのが彼女になったら心臓が何個あっても足りやしない」
「あはは、想定外にお似合いだったりするかもよ?」
「ハッキリ言っておこう、それはありえない」

 天と地がひっくり返ったとして、僕と彼女がくっつくということはない。
 年齢=彼女いない歴の僕だけれど、もしも初めての彼女ができるとしたならば、森夏のような清楚で雅な奥ゆかしい美人さんが良いと思っている。
 童貞丸出しな意見だと笑う者もいるだろう、でも、夢ぐらい抱かせてくれ、夢ぐらい語らせてくれ。

 だからこそ僕は、胸を張って姿勢を正し、手のひらを森夏に突き出す。

「まあそうなっちゃうのも仕方ないよね。天空くんが体験したように、伊地さんは他人に対する態度がほんの少しだけ冷たいんだよね」

 あれでほんの少しなの? という流れを止めてしまう言葉は飲み込み、質問する。

「ということは、森夏もあんな対応をされたのか?」
「まあ、ね」
「マジか」
「でも、私は話しかけ続けたんだよ。だってほら、そんなことを続けちゃえば後がどうなるかなんて想像するに容易いでしょ? だから、猛アタックは繰り返したんだよね」

 森夏という人間の蓋を見られたような気がする。
 最初こそ、なんて面倒見のいい清楚系超絶美少女なんだと思っていたのだけれど、この年にして人間ができすぎている。
 考えを改めなければいけないかもしれない。
 『清楚系大和撫子な超絶美少女の皮を被った――天界から君臨せし、人間の心を癒す慈悲深い天使』と。
 大袈裟なのかもしれない、だがしかし、こんな肩書を用意されても違和感が仕事しないと胸を張って言える。

 絶からツッコミが入ると思ったけれど、今回はなかった。

「ん? 私の顔に何か付いてたりするのかな?」
「いや? ずっと眺めていたいぐらいだ」

 そんなことを思っていたせいで、森夏の顔をガン見していたらしい。

「え? ……ダメだよ、そういうのは好きになった女の子に対して言ってあげることだよ。もしも勘違いしちゃう子が現れてしまう前に、そのからかい方は修正しておくことをお勧めするよ」
「すまない。変なことを言って流れを止めてしまった」

 いや、森夏に勘違いされるなら別に構わないけどね。
 そのほんのりと染まる頬は、陽の光なのか、熱さなのか、期待していいのか、果たして正解はどれなのか。最後のであってほしいなって淡い期待を抱いてみたり。

「そうだよ、もう。――それでね、私なりに考えたんだけど、伊地さんって他人に対して冷たく接しているんじゃなくて興味がないんじゃないかなって思ったんだ」
「ほほう? というと?」
「詳しくはわからないんだけど、見下しているわけではないと思うんだ。誰とも関りを持とうとしてないし、近づけさせない。まるで自分のテリトリーを守っているかのように」
「なるほど……?」

 森夏に猛アタックされてなびかないってどんだけだよ。
 僕なんか、出会ったその日から尻尾を振り振りしているんだぞ。
 伊地守って、どんだけ強靭なメンタルをしているんだ? 鋼とかそういう次元じゃないぞ、ダイアモンド並みってか? そんなの化け物じゃん。

「結局、なんでそんな感じなのかっていうのは掴めず二年生になっちゃったから。今はクラスも違うし、疎遠になっちゃったんだよね」
「まあ、さすがの森夏でも他クラスの人間相手ってのは難しいよな」
「え?」

 森夏は絵に描いたようなキョトンとした顔を見せる。
 新たな一面を発見できたと喜ばしいことなのだが、なんとなく森夏という人間を理解できてきた。
 なるほど、この完璧超人は無自覚にそれらの類に首を突っ込んでいるのか。
 そうさせるのは、タダのお人好しなのか、正義感からくるものなのか、誰かに操られてでもいるのか。
 いいや、最後のは失礼だな。言葉に出さなくてよかった。
 こんな善意の塊のような人間に対して、この考えはあまりにもひねくれすぎている。
 言葉には出していないけれど、今すぐにでも土下座して謝罪したい。

 森夏を神格化しすぎているかもしれないが、森夏という人間の上はどんどん上がれど、底を知ることは金輪際なさそうだ。

 そして、今も、当然のように善行を語り始める。

「私はただ、伊地さんがもっとみんなと仲良くなれたらいいなって思っただけなんだよ」

 僕はただ心穏やかに頷く。

「あんなに容姿端麗、文武両道なんだし独りでいるなんてもったいないと思わない? それに、あっ」

 饒舌を回しているところ、咄嗟に何かを思い出したようだ。
 目を丸く開き可愛らしく口を開け、だけどそれを手で隠している。

「そういえば、伊地さんには妹さんがいるんだよね」
「ほう?」

 正直、その話題に興味がそそられた。
 だってそうじゃないか? あの姉にして、どんな妹なのか。
 蛙の子は蛙という、それはつまり、鬼の子は鬼という結果は容易に想像が付くからだ。

「私は一度だけしか見かけたことがないから、ハッキリとは言えないんだけどね。――あれは去年の夏休み前、終業式後解散して帰路に就く頃、校門に一人の女の子が居たの。その子は中学校の制服を着ていて、学校見学にでも来たのかなって思っていたら、まさかの伊地さんに向かって駆け出したの。可愛らしく満面の笑みで」
「それが妹だったってオチか」
「そうそう。でもね、それからが驚愕したんだよね。気軽に名前を呼び合う仲ってのも微笑ましかったんだけど、あの他人を寄せ付けないような伊地さんが優しく微笑んでいたんだよ。慈しんで包み込むように」
「な、なんだって……」
「だよね、私もそれを見てそう思ったんだ。まあでも、それを見て思ったの。伊地さんにもああいう一面があるんだって。だから、これ以上は干渉せず本人がやりたいようにした方がいいのかなって」
「なるほどなぁ」

 今の話は、かなり驚愕的な内容だった。
 あんな鬼女に、新たな一面を見た。でも、特に印象が激変したということはない。だって、怖いものは怖いじゃないか。

 一つだけ、たった一つだけ共感できることがあるとするならば……少し悔しいが、家族を大切にできるやつだったんだな。
 僕にも大切な妹達が居る。だからこそ、そこだけは認めてやろう。

 でも、ふと思う。
 森夏の物言いに、少しだけ、本当に少しだけ疑問を抱いた。
 言い方を変えれば、正義感の押し付けにもなりえり、耳障りのいい言葉は凶器とも化す、のではないかと。
 まあでも、そんなものは誰にでも起きることで、森夏が親切の押し売りをするわけがない。
 これは僕の思い過ごしだ。
 現に、僕は森夏に物凄く助けられている。色々と――そう、色々と。

「そんなわけだから、私が知りえる情報はこんな程度かな。中学生だった頃もわからないし、家庭環境もわからない。なんてことのない極普通なお姉ちゃんって感じ」
「最後の方は理解に苦しむけど。わかった、それだけで十分すぎる。ありがとう」
「いえいえ、お役に立てたのならば光栄だよ。――あっ、天空くん。話、逸らしてたでしょ」
「なーんのことでしょーか。ヒョエッ」

 的確な指摘プラスで鋭い眼光を浴びる。

 森夏はそれをする権利を有しているのだから言い訳のしようがない。
 僕がテストの点数が悪かったばかりに、こういう流れになっているのだから。
 この慈悲深い天使様は、そんな僕を見兼ねて手伝ってくれているのだから、駄々を捏ねる権利は持ち合わせていない。

「えっと、はい……」
「わかっているならよろしい。じゃあ、お勉強会の続きに戻るわよ」
「はいぃ……」

 観念した僕はノートに視線を落とす。
 こうして、僕と森夏の二人だけの放課後教室デートもとい勉強会が再び始まったのだった。
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