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しおりを挟むオレの最愛の嫁候補、未来の王妃であるアマリアが落馬事故により記憶を失った。万能なアマリアが落馬なんて……と驚いたが、馬に乗っている最中に野良猫が飛び出してきて避けるために落馬したそうだ。
なんて優しいんだろう。
いつもツンケンしていて高慢令嬢なんて呼ばれていたが、オレはアマリアが誰よりも優しいツンデレだと知っている。
オレにはずっと塩対応かツンケンがデフォだった。時折、オレのことを上目遣いの涙目で睨んで、頬を赤く染めるのがまた可愛い。
つまり、オレに惚れている。
彼女はオレにベタ惚れだ。
そんなシャイなアマリアを口説き落として嫁にするのが、オレの王太子として生まれた責務だと考えてたのに。
医師、司祭、前世療法士。
いくつかのエキスパート全てに診てもらった結果、記憶混濁の原因が判明した。
「どうやら、前世の記憶が甦ったようですね。異世界転生者、まさかアマリアさんもそうだとは」
これらの症状を総合でまとめる異世界転生者専門医カルドが、最終的な診断をする。カトル先生は黒髪メガネの典型的な知的イケメン。乙女ゲームの攻略対象としては登録されておらず、結婚出来ないバグと呼ばれる人気キャラらしい。
「なんですって! カトル先生。オレの予備知識では、アマリアは女魔王の生まれ変わりのはずですが。彼女は前世をいくつも持っている?」
「女魔王が活躍してたのはかなり大昔ですし、前々前世くらいが女魔王の可能性も」
「それで、アマリアはオレのことを推しと呼んでいたんだ。どう対応したら良いのだろう」
推し、異世界転生者がよく使う用語で一番好きなキャラや役者、歌手、接待付き飲食店従業員のことを指すらしい。
まさか、彼女の前世の推しだったなんて。
そこまで愛されてたとは。
自分のイケメンぶりが怖い。
「なぁに、不安がることは一切ありません。前世の記憶が甦ると、それをキッカケに悪役令嬢のキャラが豹変するのが定番です。おそらくデレデレになるでしょうから、貴方はそれを優しく受け止めれば良いんですよ」
「出来るだろうか、オレに。これまで、豹変した悪役令嬢に接してたイケメン達は、どういう心境だったんだろうな。人格が変わったことに動揺しなかったのだろうか」
「そこは、男の包容力ですよ。貴方の器の大きさをアピールする機会です。病める時も健やかなる時も、結婚したいのなら尚更」
* * *
かくして、ストーリーは冒頭に戻る。
すっかりデレデレになったアマリアだが、まるで別人のようだった。
高慢令嬢なんて呼ばれたのが嘘みたいに、王太子であるオレにベッタリ。
実は、別人……なのだろうか。
いや、オレは大好きな彼女のハートを手に入れたんだ。
手に入れたはずだ。
本当に……?
(このアマリアは、本当にあの高慢令嬢のアマリアなのだろうか。本当にアマリアの前世の記憶が甦っただけなのか?)
時折、このアマリアは僕のアマリアではない気がした。あんなに大好きだったのに。
本当は好きな女性を手に入れて、嬉しい、嬉しいはずだけど、何故か一筋の涙がこぼれてきた。
「ダーリン? どうしたの。嬉し泣きかな」
「うん。そうだよ、キミと結婚出来るから嬉しくて泣いているんだ」
オレが結婚したかった『キミ』の魂は果たして今どこに居るんだろう?
不思議な違和感が、ずっと心の奥をぐちゃぐちゃにして、抉られた傷が疼くように痛い。
これは、ハッピーマリアージュ?
それとも、バッドエンディング?
高慢令嬢の魂は何処に消えた?
異世界転生者に存在を奪われた愛しのキミをただ想う。
『わたくしと結婚出来るのだから、涙一粒じゃ足りないわ』
どこかで遠くで、オレがずっと恋焦がれた女性の、哀しそうな声が聴こえた気がして。オレは、異世界転生者に奪われたキミの抜け殻の身体をギュッと抱きしめた。
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