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外編
02
しおりを挟む「ほら、一応これ……アタシがシスターハンナと同じ記憶を持っている証拠の品だよ。いつか、誰かに見せようと思って、記録しておいたんだ」
カナリヤは、自分と同じくパラレルワールドの記憶持ちであろうシスターハンナに、『夢見の手記』を手渡した。
A4サイズほどの焦茶色の表紙には、鍵がかけられていて秘密の日記帳という雰囲気だ。
この手記は、パラレルワールドでの聖女セシリアとのギルドクエストの記録や、何気ない修道院での日常を記したものである。
「えっ。そんな大切なもの、本当に見て良いの?」
「もちろん! この手記はきっと、シスターハンナに読んでもらうために書いていたんだろうね」
「ふふ。嬉しい……ああ、そっか。向こうの世界ではカナリヤさんも、同じ修道院で暮らしていたんだっけ」
カチャッ!
小さな鍵を捻って、手記を開く。
薄暗い物置部屋でランタンの灯りを頼りに読む手記は、まるでそのままパラレルワールドに引き込まれるようなリアルな内容だった。
聖女セシリアの提案で、畑を作り次第に修道院内の食生活が豊かになっていった様子。メイドになる予定だったシスターハンナが、お針子仕事をみんなに教えたエピソードも細かく記されていた。
「セシリア様も、もちろん素晴らしいけど。あの時、ただの白い布で済まされていた修道院のクッションやランチョンマットを、ハンナの提案で刺繍したり、ハギレを組み合わせたパッチワークに変えたり。色がどんどんついていく感じが楽しかった」
「嬉しい……こんな細かいことまで覚えていてくれたんだ。私も、カナリヤさんがサバイバルの方法をギルドクエスト慣れしてないみんなにレクチャーしてくれたことよく覚えてる」
「あはは! まぁ向こうじゃ貴重なバトル担当だったからね」
カナリヤの現在の職業は『墓守』であり、彼女は修道女ではないはずだが、明確に修道院内の様子も記されていた。
「そっか。このフルーツコンポートは、修道院のレシピなんだ! どうりで懐かしいと思った。こちらの修道院では、食糧不足でフルーツコンポートなんて食べれないから」
「こちらの世界では貴重なフルーツコンポート、修道院のみんなと作った思い出の品だ。きっと、他の人にそんなこと言ったら、頭の病気だって言われちゃうだろうけど」
カナリヤは、おそらくシスターと同じ悩みを抱えている。彼女も幾度となくパラレルワールドの記憶を持つことで他者との違いに戸惑いを覚えていたのだろう。
「そんなことないよ! けど他の人には、もうパラレルワールドについて話す必要なくなったね。私とカナリヤさんの二人が共有していれば、それで良いんだと思う」
「ありがとう! そして、そんなアタシ達をまとめて繋いでくれたのが聖女セシリア、いやルイーゼ•ルードリッヒ嬢だ」
「彼女は……ルイーゼ様は、この世界には本当にいなかったのかな。それとも、存在していたけど消えてしまった?」
こちらの世界での記憶を辿るが、ルイーゼ•ルードリッヒ嬢はいつの間にか行方不明になっていて、まるで架空の存在のような扱いに変わっていた。彼女が聖女セシリアだと仮定すると、どこかの分岐点で存在そのものが消えるというロジックに成立する。
「実はさ、墓守が秘密裏に管理している遺跡周辺に、聖女セシリアの痕跡が残っているんだ。もしかすると、詳しく調べれば彼女が消えた手がかりがあるかも知れない」
「痕跡があるということは、特定の場所には存在消去のロジックが適用されないということになるわよね」
「うん、そういうこと! 魔物多い地域だから、アタシみたいに戦闘慣れしている墓守しか任務につかないんだ。シスターハンナがサポート役でついてくれたら、正式に2人でルイーゼ嬢のことも調べられる」
その誘いは、まるで夢の世界のギルドクエストのようで、ハンナは迷わず頷いていた。
* * *
遺跡調査のキッカケは、たまたま墓守が管轄していた地域に古代遺跡が発見されたこと。依頼者は、大手のギルドだという話だが、少人数で秘密裏に進めたいという。
【墓守特別任務・遺跡調査】
①聖女セシリアが儀式に使ったとされる地下の空間を調査。内部の様子はピクチャーカードに保存して、資料として提出すること。
②パラレルワールドの境界線を調べることも、今回の任務の目的。古代人は代々、パラレルワールドに飛ぶための儀式をここで行っていたという。
③出没モンスターの種類を調べて、提出。戦闘の有無は問わないが、怪我のおそれがある場合は退避推進。
【参加メンバー】
①墓守カナリヤ:メインスキル物理
②修道女ハンナ:メインスキル補助魔法
「かつて、古代人達はこの辺境地に闘技場を作って、賭けに興じていたそうだ。まだ、都市が栄えていた証拠だともされていてね。歴史調査としても、価値のある一歩になるよ」
聖女セシリアの巡礼派遣から数日後、正式に遺跡調査に加わることになったシスターハンナは細かくメモを取りやる気充分の様子。
「カナリヤさんはベテランのようだけど、サポート役のハンナさんは大丈夫かな」
「はい! まだ初心者ですが、補助魔法やアイテムなどで足を引っ張らないようにするつもりです」
「うーむ。まぁ今回は、バトルが目的ではないし。無理な相手なら戦わず逃げることを優先するように! 約束してくれたまえ」
墓守のカナリヤはみるからに女剣士という風貌で、伝達に来たギルド職員も納得のようだ。が、サポート役のシスターハンナは魔法使いとしても、荷物係としても頼りなく見えた。
「何度もイメージトレーニングしています! 頑張りますね」
「アタシもイメージトレーニングはバッチリさ! 聖女セシリア様のご加護のもと、きちんと任務をこなしてみせますよ」
「はぁ。なら良いのですが。お気をつけて」
心配をよそに意気揚々と出掛ける2人の背を、ギルド職員は大きなため息で見送った。
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