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イベントクエスト-spring-
ひな祭り編5:私達のひな祭りは、これからだ!
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あっという間に過ぎ去った3月3日のひな祭りクエスト。自分の手持ちの人形を、それぞれが所属するギルドの特設ステージに飾るというシンプルなクエスト内容である。だが、お雛様達からのお礼の品が想像より豪華だったため、参加しなかったのを悔やむ者もいた。
「あーあ……細かいことは、気にしないで私もひな祭りクエストに参加しておけば良かったかなぁ」
スマホのアプリ画面に表示される他の冒険者の報酬に対する喜びのコメントや、限定装備を見て落ち込む少女が1人……ハーレム勇者イクトの双子の姉である萌子だ。お嬢様学校寄宿舎の談話室で、スマホ片手にがっかりする姿を通りすがりのルーン会長に見られてしまう。
「んっ? 萌子さんどうしたんだ……何か困りごとでも?」
「あぁ、ルーン会長……実は……。私、異世界転生時にマルスさんと婚約破棄になったっていう話じゃないですか。それを気にして、今回のひな祭りクエストに参加しなかったんです。ほら、お内裏様のモデルが決まらないから……」
悪役令嬢でもないのに、何故か婚約破棄という謎のルートに突入してしまった萌子のアバター。
女性向けライトノベルの流行なら、婚約破棄後の展開は『私は自由に暮らしたいだけなのに、さらにハイスペックなイケメン王子に溺愛されて、困りますぅっ! 他の女どもに対してざまぁ』展開などが待ち受けているはずだ。
しかしながら、このスマホRPGは美少女ハーレムものだし、なおかつ萌子は悪役令嬢ではない。
ついでに、このゲームシナリオ作者の予定表には女性向けジャンルに進出する予定は一切ないため、永遠にその手のシナリオは回って来ないだろう。
「そうか、そういえば異世界では萌子さんは大変だったんだよね。マルスさんがアカウントBANされた影響でそのあたりの記憶のみ、みんなうろ覚えなのが不思議だが」
「ええ、さらに言うと寄宿舎の自室でもお雛様を飾っていないし。学校に飾ってあるお雛様は、生徒全体のものだし。実家のお雛様は、もうほとんど妹の私物として扱われているし。今更だけど、今回のイベントくらい参加しておけば良かったのかなって」
「ふむ……しかし、3月3日は過ぎてしまったし。んっ? 待てよ、まだ間に合うかもしれない。旧暦ではまだこれからがひな祭りのはずだ! それまでに、折り紙で雛人形を作って飾れば寄宿舎の自室で今年のひな祭りが出来るぞ」
さすがは博識のルーン会長、まさか旧暦とは。
「えっ旧暦? そうか、その手があったのね。ルーン会長すごい!」
「ふふっ褒められると照れるな。さぁさっそく雛人形の制作だ! 私の部屋に折り紙セットがあるから、今すぐ始めよう!」
* * *
もうすぐ卒業を控えたルーン会長の部屋は、以前訪問した時よりもすっきりとしていた。写真立てやクレーンゲームの戦利品であるぬいぐるみも仕舞われていて、パソコンに似た小型の電子メモ帳だけがちょこんと机に置かれている。
「折り紙は、卒業式の飾りの準備で購入してあるからね……はい、ノーマルと和柄の折り紙だ。組み合わせれば、雛人形っぽさが増すと思うよ」
「わぁ! 綺麗な和柄……本物の着物の柄みたい。でも、いいんですか。こんなにいいものを材料として提供してもらって」
「えっ? あぁ萌子さんには、私の新作ファンタジーWEB小説の主人公のモデルになってもらったし。モデル料だと思ってくれ」
現在執筆中のルーン会長オリジナルファンタジーWEB小説。主人公のモデルとして選ばれたのが、何故か私……結崎萌子だ。
「会長……どんな内容なのか、ちょっとだけ聞いてもいいですか? 自分が主人公のストーリーが……どんなあらすじなのか知りたくて」
「ああ、そういう約束だったしな……」
ルーン会長の新作であるファンタジーWEB小説は、ごく普通の女子高生が異世界でギルドライフを送る正統派ファンタジーWEB小説だ。
流行に左右されないシンプルで、真面目なストーリー展開。ルーン会長の誠実な性格が良く出ていると言えるだろう。
「すごい、会長のストーリー……素敵です。私、あらすじを聞いただけで感動で泣いちゃった!」
「そうか、嬉しいよ。異世界ファンタジーで女主人公。女性向けジャンルではなく、ファンタジーでしかも正統派RPGだ。おそらくもっとも難しいカテゴリーになってしまうが……」
「でも、私……ルーン会長の正統派ファンタジー小説、読んでみたいです!」
折り紙で雛人形を制作しながら、さまざまな話題で盛り上がる萌子とルーン会長。結局、萌子のお内裏様は、超金持ちイケメンハイスペックお内裏様という夢全開の設定で制作され、【ハイスペ・イケメン内裏】と名付けられた。
果たして萌子が運命の男性と真実の恋に出会うのは、いつになるやら……。
「あーあ……細かいことは、気にしないで私もひな祭りクエストに参加しておけば良かったかなぁ」
スマホのアプリ画面に表示される他の冒険者の報酬に対する喜びのコメントや、限定装備を見て落ち込む少女が1人……ハーレム勇者イクトの双子の姉である萌子だ。お嬢様学校寄宿舎の談話室で、スマホ片手にがっかりする姿を通りすがりのルーン会長に見られてしまう。
「んっ? 萌子さんどうしたんだ……何か困りごとでも?」
「あぁ、ルーン会長……実は……。私、異世界転生時にマルスさんと婚約破棄になったっていう話じゃないですか。それを気にして、今回のひな祭りクエストに参加しなかったんです。ほら、お内裏様のモデルが決まらないから……」
悪役令嬢でもないのに、何故か婚約破棄という謎のルートに突入してしまった萌子のアバター。
女性向けライトノベルの流行なら、婚約破棄後の展開は『私は自由に暮らしたいだけなのに、さらにハイスペックなイケメン王子に溺愛されて、困りますぅっ! 他の女どもに対してざまぁ』展開などが待ち受けているはずだ。
しかしながら、このスマホRPGは美少女ハーレムものだし、なおかつ萌子は悪役令嬢ではない。
ついでに、このゲームシナリオ作者の予定表には女性向けジャンルに進出する予定は一切ないため、永遠にその手のシナリオは回って来ないだろう。
「そうか、そういえば異世界では萌子さんは大変だったんだよね。マルスさんがアカウントBANされた影響でそのあたりの記憶のみ、みんなうろ覚えなのが不思議だが」
「ええ、さらに言うと寄宿舎の自室でもお雛様を飾っていないし。学校に飾ってあるお雛様は、生徒全体のものだし。実家のお雛様は、もうほとんど妹の私物として扱われているし。今更だけど、今回のイベントくらい参加しておけば良かったのかなって」
「ふむ……しかし、3月3日は過ぎてしまったし。んっ? 待てよ、まだ間に合うかもしれない。旧暦ではまだこれからがひな祭りのはずだ! それまでに、折り紙で雛人形を作って飾れば寄宿舎の自室で今年のひな祭りが出来るぞ」
さすがは博識のルーン会長、まさか旧暦とは。
「えっ旧暦? そうか、その手があったのね。ルーン会長すごい!」
「ふふっ褒められると照れるな。さぁさっそく雛人形の制作だ! 私の部屋に折り紙セットがあるから、今すぐ始めよう!」
* * *
もうすぐ卒業を控えたルーン会長の部屋は、以前訪問した時よりもすっきりとしていた。写真立てやクレーンゲームの戦利品であるぬいぐるみも仕舞われていて、パソコンに似た小型の電子メモ帳だけがちょこんと机に置かれている。
「折り紙は、卒業式の飾りの準備で購入してあるからね……はい、ノーマルと和柄の折り紙だ。組み合わせれば、雛人形っぽさが増すと思うよ」
「わぁ! 綺麗な和柄……本物の着物の柄みたい。でも、いいんですか。こんなにいいものを材料として提供してもらって」
「えっ? あぁ萌子さんには、私の新作ファンタジーWEB小説の主人公のモデルになってもらったし。モデル料だと思ってくれ」
現在執筆中のルーン会長オリジナルファンタジーWEB小説。主人公のモデルとして選ばれたのが、何故か私……結崎萌子だ。
「会長……どんな内容なのか、ちょっとだけ聞いてもいいですか? 自分が主人公のストーリーが……どんなあらすじなのか知りたくて」
「ああ、そういう約束だったしな……」
ルーン会長の新作であるファンタジーWEB小説は、ごく普通の女子高生が異世界でギルドライフを送る正統派ファンタジーWEB小説だ。
流行に左右されないシンプルで、真面目なストーリー展開。ルーン会長の誠実な性格が良く出ていると言えるだろう。
「すごい、会長のストーリー……素敵です。私、あらすじを聞いただけで感動で泣いちゃった!」
「そうか、嬉しいよ。異世界ファンタジーで女主人公。女性向けジャンルではなく、ファンタジーでしかも正統派RPGだ。おそらくもっとも難しいカテゴリーになってしまうが……」
「でも、私……ルーン会長の正統派ファンタジー小説、読んでみたいです!」
折り紙で雛人形を制作しながら、さまざまな話題で盛り上がる萌子とルーン会長。結局、萌子のお内裏様は、超金持ちイケメンハイスペックお内裏様という夢全開の設定で制作され、【ハイスペ・イケメン内裏】と名付けられた。
果たして萌子が運命の男性と真実の恋に出会うのは、いつになるやら……。
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