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第三部 転生の階段編

第三部 第8話 変わりゆくエルフの美少女達

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 エルフの里、初めてのモンスターレースは大にぎわい。アズサのような生粋のギャンブラー以外にも幼馴染達のような、いかにも純粋無垢っぽいエルフの姿がチラホラ見られる。
 親子連れやカップル、イベント好きな若者やお年寄りなど。こんなにもエルフ族は人口がいたのかと感心した。

「いらっしゃーい、いらっしゃーいっ。アツアツ美味しいたこ焼き、焼きそば、飲み物もあるよー」

 屋台はすでに行列ができており、特にたこ焼き、焼きそばなどが人気のようだ。
「ううっようやく、エルフの里にもよその食べ物が沢山入ってきたのねっ」
「ねぇママー、焼きそばってなぁに?」

 エルフ族は外食も自然派で、ナチュラルフードの店しか里には存在しなかった。そのため、テレビでしか見たことのないたこ焼き屋台を見て感動し、泣くエルフも見かける。

「いやぁ胡麻せんべいも良いけど、このたこ焼きがいつでも食べれれば、もっと楽しくなるなぁ」

 敢えて言うならコンビニで購入出来るせんべいなどが、貴重な外の世界の食べ物だったのだろう。そういえば、お父さんもコンビニで買える胡麻せんべいをいつも大事そうに食べていた。

 小さな男の子が、アツアツのたこ焼きの熱をフゥフゥと冷ましながら頬張る姿を微笑ましく見守る一家の姿も。

「おとーちゃん! このたこ焼きって食べ物、アツアツで美味しいね! 今度、おウチでも食べたいよ」
「父ちゃんが、たこ焼き器をネット通販で買うてやるからなーボウズ! これからはウチでも、作ったるで!」
「この焼きそばって食べ物初めて食べるけど、美味しいわね。近所の商店にも、材料おいてくれないかしら?」

 このような会話が、いたるところでされている。

「いやぁそれにしても……エルフの里って、今まで偏った生活をしていたんだな」
「私達はいろんな地域に仕事や学校で行っているから感じなかったけれど。流通が偏っていた事は事実よね」
 妹のミーナと率直な感想を述べ合うアズサ。観光客も増えてきたし、これを機に一気に里の雰囲気が変わるといいんだけど。


 * * *


 パーンッパーンッ!

 いよいよレース開始の合図が流れ始めた。
 レース実況は、人気エルフ女子アナを司会に抜擢し、エルフの里のPRを兼ねているのがよく分かる。テレビ中継、ラジオ中継、各新聞社取材陣など、報道陣も今まで見たことのない数が集まった。

「さあ! いよいよ始まります、エルフの里初モンスターレースエルフ杯。司会実況は、私エルフTVアナウンサー香川エルナと、モンスターレースの実況を続けて25年の大ベテラン、魔族ラジオでおなじみの魔族谷マー蔵さんです! よろしくお願いします!」

「いやぁよろしくです。ふひひひひ!」

 まさかの魔族系タレントの登場に一瞬ざわつくエルフもいたが、他の種族とも仲良くしたいという族長の意向なのだろう。

「そして、今日はエルフ杯の記念すべき1回目! なんと、古代帝国バテイ国からバテイ国の姫君パカラ姫と教育係のジイヤであり伝説のサラブレッドである、ディープスカイバテイナーさんにおこしいただいてます」
「パカパカ、この良き日にお招きいただき、嬉しゅうございますヒヒン!」
 さらに、伝説と謳われているウマ族のディープスカイバテイナーまでゲスト出演。

「パカパカ……ジイヤは現役サラブレッドとして賞を総なめした、あの日のことを忘れた日はありません。この記念すべき日に、ゲストとして呼ばれたこと光栄ですぞ」

「あのウマ族は……? もしかしてジイヤさん……?」

 アズサはネオフチュウで出会い、少しだけ冒険を共にした馬族をレースのゲストとして久しぶりに目にした。
「ジイヤさん、やたらくちうるさいと思っていたら、伝説のサラブレッドディープスカイバテイナーだったのかよ? もっとレースのうまい予測方法を聞いておけば良かったぜ!」
 アズサは身近なウマ族の意外な経歴に驚きつつも、やはり自分がギャンブルで勝つことしか頭になかった。

「ねぇねぇアズサちゃん、アズサちゃんってほかのモンスターレース場にも詳しいんだよね? どのレース場もこんなにたくさんの人がいるの?」
「ああ、今日は特別な賞のレースだから特に人が多いけど。いつも賑わってるのは確かかな。食べ物も美味しいし、モンスター達の姿が見れるだけで楽しめるし」

 ファンファンファーン、ファファファファーン!

「そっか……あっレース始まるよ!」
「いけーアタシの夢を乗せて走れー」
 なんか、意外と幼馴染達もレースが好きだったんだな……。もう完全に他のギャンブラー達に馴染んでいる。

『パカパカパカパカ』
『わー』
『いけー』
『まくれー』

「ちっハズレか……」
 アズサは大穴を狙いすぎるせいかハズレだった……しかし……。
「えっえっ嘘っ当たったー!」
「アタシも当たってる?」
「えっ2人ともすごい!」

 純粋無垢な幼なじみのエルフ達は、なんと初めてのギャンブルで当たりを引いたみたいだ。ぴょんぴょんジャンプして喜んでいる。ビギナーズラックだろうか……無欲な人に、勝利の女神は微笑むんだな。

「ギャンブルってすごいね! 賭けたお小遣いが、何倍にもなったよ!」
「アタシも貯金全額賭けて、本当に良かった! 毎回貯金、全部賭けちゃおう!」

「貯金全額、しかも毎回つぎ込む気なのか……それは危険なんじゃ……」
「何弱気なこと言ってるの、アズサちゃん! スリルを味わうのも醍醐味なんだって情報誌に載ってたよ。一緒にもっと楽しもうよ」
「あはは……いやぁ」

 アズサはギャンブルに目覚めつつある、純粋無垢なエルフの幼馴染達に危機感を覚えた。
 妹ミーナと両親もアズサにそれぞれのレース結果を報告。
「姉さんどうだった? 私はちょっとだけしか賭けていないから、そんなに儲かってないけど。お母さんは結構大きく当たったみたいよ」
「アズサ……あなたがレースに夢中になって損した分、全部取り返してあげたわよ。でも、あんまり夢中になりすぎちゃダメよ!」
 普段ギャンブルに関心ない人ほどよく当たるな。そういうものなのか?

「ははは、母さんは凄いな。父さんはアズサと一緒で負けの方だな。まあ、こういうのは日頃のストレス解消でやるもんだ。勝っても負けても、笑顔で気持ちよくレースを終えるのがいいんだよ」
「う、うん。そうだよな……」

 そんなこんなで、アズサ達家族とアズサの幼なじみ御一行はモンスターレースを楽しみ、帰りにみんなで自然派レストランで夕飯を食べた後、笑顔で無事帰宅した。


 * * *


 エルフ杯から数日が経ったある日のこと。幼なじみ達とアズサは、ゲートと電車を乗り継ぎ都会のファッションビル街に遊びに来ていた。
 人間族や魔族が殆どで、エルフ族は滅多にすれ違わない。なるべく目立たないように行動したいが……。

「るんるんルーン! お金ギャンブルでいっぱい増えたし、何か素敵なお洋服が欲しいかも!」
「ふふ! ちょっと背伸びして、高級ブランド買っちゃおうかな?」

 明るく可愛いエルフの美少女達は、やはり目立つのか……。それとも、ギャンブルで買ったことを大声で話しすぎたのか……? カネの匂いを嗅ぎつけてヤンキー魔族が絡んできた。

「よー、エルフの姉ちゃんたちさぁ、おカネいっぱい持ってるみたいだけど。そのカネ、オレたちに全額渡してくれねーかな?」
「ふぇっ? あなた達だぁれ……どうしてお金を渡さなきゃいけないの?」
 むんずとヤンキー魔族に腕を掴まれ動揺するエルフ達。一般的にか弱いイメージのエルフなんか、魔族でぢかもヤンキーの男たちからすれば一捻りだろう。

「エルフはおとなしく、森の中で自然保護だけしてりゃいいんだよ! 早くカネよこしな!」
 都会の隙間の人の少ない細い路地でエルフたちはピンチに陥った。
「やめてよ! このお金はモンスターレースで、可愛いモンスターが一生懸命走ってできたお金なんだよ! どうしてあなたたちにあげなきゃいけないの?」
「ウッセーよエルフ無勢が!」

 ドンっ!
 手加減というものを知らないのか、か弱いエルフの娘であるコノハを思いっきり地面に叩きつける。
「コノハちゃん!」
「けっヒラヒラした服着やがって、エルフは都会に出てくんなっつーの!」

 いつもは柄の悪いヤンキーが絡んでくると、剣士であるアズサが助けていた。今日はそれぞれ別の店を廻りたいと二手に分かれていてコノハとスミレのか弱い純粋無垢エルフの2人だけ……。

 ぐいっ! 花柄の刺繍が施されたキュートなバッグの中をガサゴソと魔族が漁っていく。

「へへ! 結構たんまり持ってるな……」
「やめて!」
 必死に抵抗するか弱いスミレ……だが、よくて白魔法をいくつか使える程度の魔法力しか持たないスミレに抵抗する術などなく……。
「うるせーつってるだろ!」
「きゃあぁぁあっ!」

 ドン! 地面に叩きつけられて、かなりのダメージを負う。

「……ふざけろ……」

 先ほど倒されたはずのコノハが、今まで見たことのないオーラを放ちながら、ゆらりと起き上がった。
 エルフ族とは思えない威圧感、可愛らしくネイルアートされた爪が、心なしかいつもより尖っている。そういえば、コノハのエルフ学校での専攻は黒魔法。とはいえ、学生時代は小さな炎を使うのが精一杯だったが。
 怒りに我を忘れたコノハの手からは巨大な炎の塊が渦を巻いており……かなり高度な炎系攻撃魔力が増幅していた。

「……コノハちゃん?」
「エルフなめんじゃねーぞ! ザコ魔族がぁああああああっ。喰らえ……闇の炎の禁呪……焔のダーク・トルネードスラッシュッッ」

 ドゴォオオオオオンッッ!

「グァあああっ。まさかオレ様がこんなエルフの小娘に……まさかこの娘……ヒィイいい」
「間違いねぇ……あの娘……ダークエルフだっ」

 こうして、ギャンブラー兼ダークエルフとして目覚めたコノハちゃんによって、都会のヤンキー魔族は成敗されたのである。

 しかし、これはエルフ族の伝説の序章に過ぎない……。エルフ族が、何故今までおとなしく純粋無垢になるように教育されていたのか、驚愕の真実が明かされる!

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