転生公爵令嬢改め、乙女剣士参ります!

星井ゆの花(星里有乃)

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第1章

第12話 色違いの似ている2人

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「はあああっ! 喰らえっ。駆け出しスラッシュッ!」
「プルルーン!」

 ガーネットの攻撃、プルオレンジに10のダメージ。プルオレンジを撃退した!

 緩やかな丘を登りながら、途中出くわすモンスター相手に剣を振るう。最初は雑魚モンスターのプルピンクにすら馬鹿にされる太刀筋だったが、だいぶ慣れてきたみたい。色違い亜種のプルオレンジには、勝てるようになってきた。
 冒険者スマホから、バトル成功のメッセージが流れて無事に戦闘に勝利出来たことを確認する。

「ヤッタァ。また、勝っちゃった。コツを掴んだら、剣を持つのが怖くなくなったわ、この丘そのものが鍛錬エリアになってるとは思わなかったけど」
「お見事ですがお嬢様、少し手首を痛めてるみたいですよ。今、痛み止めのポーションを……はいっ。無理しないで下さいね」

 アルサルの錬金術は、想像してたよりも高度なものらしく、打ち身や捻挫くらいなら一瞬で治すことが可能だ。けど患部を確認するたびにアルサルの大きな手が、私の小さな手に触れるため、不思議と意識をしてしまい心臓に悪い。

「あっありがとう、アルサル。そうね、これから試験なのに怪我したら元も子もないものね」

 変な気持ちだ、庭師アルサルのことは前世で乙女ゲームをプレイしていた時だってそれほど意識していなかったのに。やはり、昨日の夜何もなかったとはいえ、同じ部屋で泊まったから異性として意識してしまっているのだろうか。

 それとも……?

 これまで、庭師としてうちで働いていた時のアルサルは、お仕事がしやすいように作業用のラフなファッションで、砕けた感じだった。けれど、今は水色のシャツとブラウンのジャケットで、いわゆるよそ行きっぽいトラッドファッションだ。
 バンダナを巻いて作業していることが多かった髪の毛も、綺麗にセットされてウェーブがかったこげ茶の髪の毛が艶めいている。整った目鼻立ちはとても端正で、どこかの王子様かと錯覚するような……。

 そう、整えたアルサルはまるで身分を隠してお忍びで旅をする王子様のように、感じる時がある。田舎育ちを気にしているわりには、動作のひとつひとつが洗練されているように見えるのだ。

 まるで『ヒストリア王子』のような、アルサルをどこか少しずつ変えたらヒストリア王子になってしまうような。そんな錯覚をしてしまう自分が、ちょっぴり憎かった。

(きっと、初めての旅で疲れているんだわ。もうすぐ、本物のヒストリア王子に会えるし。2人が並ぶのを見れば、馬鹿な考えも消えるはず)

「はははっ! なんだ、ガーネット嬢もアルサルも、突然無言になって。やっぱり、疲れが溜まっているんだろうな。だが、見違えるほど剣の腕は良くなったぞ。あと5分くらいで香久夜御殿だから、頑張れよ。どうだガーネット嬢、剣の調子は」

 気を遣ってくれているのか、騎士団長エルファムさんから励ましのお言葉をいただく。

「えっ? あっはい。あと一息ですよね。プルオレンジにしかまだ勝てないけど、入門試験はどうかしら。数時間前はプルピンクにすら、勝てなかったけど」

 今のところ、冒険者スマホの討伐モンスターリストに記録されているのは、水まんじゅうのようなモンスター『プルオレンジ』のみ。残念ながら、最初に遭遇したプルピンクは自力で討伐出来なかったため、リストは未登録だ。

「ふむ、プルオレンジはプルピンクの亜種、いわゆる色違いというやつだ。色が違うということは、その生き物の特性が違う」
「ああ、確かに。プルオレンジは、遭遇してすぐに直接攻撃してくるけど。プルピンクは、仲間を呼んで応戦してきたっけ」

 もしかすると、同じプル族に所属する2匹の体力などは近しいのかも知れないけれど。直情型で当たって砕けろ的にぶつかってくる『プルオレンジ』と、自分が非力なのを理解していて上位のモンスターを呼び出す『プルピンク』では、バトルスタイルが全く違う。

「どちらの方が強いというより、色が違うから性質も攻略方法も異なるぞ。兄弟だからって、同じ人間ではないのと一緒で……おっとおしゃべりが過ぎたな」

 一瞬だけ、いつも他人に気を遣うアルサルの目が、ギロリとエルファムさんを睨みつけた気がした。目上の人には、そんな態度を取らない人なんだけど。エルファムさんも突然そそくさと先に行ってしまって、何だか気まずそうだ。
 いわゆる、『禁句のようなこと』を言ってしまったのだろうか。


 * * *


 やがて、丘を登りきるとゴール地点でヒストリア王子が待っていてくれて、出迎えてくれた。王子様としてではなく、『ギルドマスター賢者ヒストリア』として。

「やぁ、最初はどうなるかと思っていたけど。遅からず早からず、そこそこ良い体力の配分だったね。お疲れ様、ガーネット、騎士団長……。それに、アルサル」

 天使が青年になったような、美しい笑顔でニッコリと微笑んだのも束の間。よそ行きファッションのアルサルと対峙して、少しだけ時が止まった。



 一瞬、どこか物憂げで……そんな表情をヒストリア王子から読み取れた。

 いつも煌びやかなファッションのヒストリア王子は、今日は賢者仕様のコスチュームで黒のシャツに落ち着いた紫色のマントとシックな装いだ。それに対して、アルサルは通常時よりも品が良く……何が言いたいのかというと、つまり。
 普段は遠い雰囲気だった2人が、ちょっとだけ歩み寄ってしまったのだ。

 ゆるくウェーブがかった髪の毛は、金髪か栗色かの違い。大きな目元は、澄んだ青か落ち着いた茶色かの違い。
 2人が似てると感じたのは、どうやら思い込みではなかったらしい。

 先程、騎士団長エルファムさんが突然、バツが悪そうにそそくさと逃げてしまった意味が直感で分かった気がする。

 色が違うと性質が違う、兄弟だからと言って同じ人間ではない。まるで、色違いのように似ている『ヒストリア王子』と『庭師アルサル』のことを指しているかのようで。

 その言葉の意味を私がもっと深く理解するようになるのは、まだほんの少し先のことだ。
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