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第4章
第04話 乙女剣士の宣誓
しおりを挟む異世界転生者である私、『紗奈子・ガーネット・ブランローズ』が、タイムリープの魔法により純潔と時間を巻き戻して一週間が経った。今朝は意気揚々とメイドチームが私の旅立ちのために、身支度を手伝ってくれるという。
「いよいよ紗奈子お嬢様が、乙女剣士として旅立つ日がやってきましたね。我々メイドチームも全力で、お嬢様の旅立ちを支援いたします!」
「あはは……ありがとうみんな。こうして公爵令嬢として、身の回りのお世話をしてもらうのも、今日が最後になるのね。さてと、駆け出しの剣士らしい格好に着替えないと」
本来ならば一番張り切りそうなのが、一番のお付きメイドクルルなのだが。実は彼女……いや彼の正体は、私を守るために女装してまでメイドとして働いていたエクソシストだった。
例の前世の記憶が蘇るブローチ事件の翌日、『実は……実は、僕、お嬢様を悪魔から守るために使わされた悪魔祓い師……本当の性別は男なんですっ』と、美少年全開の潤んだ上目遣いで私にカミングアウト。
尚且つ、『紗奈子お嬢様のこと……密かにお慕いしておりました。それと実は僕、初代乙女剣士の末裔なんです。これで正式に、お嬢様の婿候補として立候補出来ますね。男として、お嬢様だけのエクソシストとして……』と、中性的なイケメンとしての自分をアピりながら、本職への転向を表明。
そんな流れから、今回の身支度にはクルルは参加していない。その代わり、アルサルと共に修行の旅にボディガードとして同行してくれるそうだ。他のメイド達が、クルルの正体を知っていたのか否かは、定かではないまま身支度が進む。
「ドレスの時はコルセットが必須でしたが、これからのお嬢様はウエストを絞るよりも、命を守るための胸当てが必要になるのですね」
「まぁね、修行とはいえ実戦が伴うわけだし。万が一のことも考えて、命を優先していかないと。けど、最近の剣士衣装は結構オシャレだと思わない? ショートパンツ型のインナーの上にミニスカートを履いて黒のニーソを合わせて、一見すると若い女の子特有のファッションだわ!」
「ふふっお嬢様の隠された美脚が、大衆の目に触れる日が来ようとは……我々メイドたちの秘密でしたのに。けど、胸元の水色のリボンに金のブローチ、赤い髪に似合う金の髪留めはご令嬢らしさを失わずに済みますね。さっ……あとは皮のベルトを用意して……」
これまでの社交会やら何やらのドレスやメイクとはうって変わって、ナチュラルなヘアメイクと、冒険者特有の装備の準備に慣れない様子だ。剣を装着するための皮のベルトは、今まで身につけたことがなかったもの。コルセットが定番だったご令嬢が、銀の胸当て必須になるなんて想像もつかなかったのだろう。
着替えの一部始終を見守っていたお母様が、レースのハンカチで涙を拭いながら労いの言葉をかけてきた。
「……公爵令嬢として、背伸びしたドレスやメイクが定番だったけれど。ようやく、年相応の紗奈子らしくなった気がするわ。きっと紗奈子の人生は、今日からが本番ね! けど、今まで箱入りだった貴女がモンスターと戦うかと思うと、心配で……」
「泣かないで、お母様。私、乙女剣士の修行をするの楽しみにしているんだから」
「まぁ! 私の若い頃を思い出すわ……ほんの少しだけお転婆だったから。そうね紗奈子、貴女はこれから乙女剣士としてのお役割を果たす代わりに、何人かの男性から運命のパートナーを選ぶことが出来るわ。もちろん、ヒストリア王子のことが好きなのであれば、そのまま彼と結婚することもできるでしょうけれど。乙女剣士の末裔五人から相手を選ぶのがしきたりよ」
全ての因果を継承した状態で始まった最後のタイムリープは、真の乙女ゲームのシナリオに沿ったものとなるようだ。即ち攻略対象となる男性は、賢者でもあるヒストリア王子、ヒストリア王子の腹違いの弟アルサルに加えて、ゼルドガイア王家とは縁戚の貴族出身である騎士団長エルファム、修道院にて存在を隠されて育った悪魔祓い師クルル、薬師にして剣士のカズサ、という五人構成。
真ルートというだけあってアルサルがゼルドガイア国王の隠し子だとか、カズサが東方の大領主スメラギ様の御子息だとかいう情報も全てオープンになっていた。また、アルサルの師匠デイヴィッド先生や守護天使様達、女神像ガーネットなどの設定も全て引き継がれているようだ。
私の心は、前回のタイムリープで心を通い合わせたヒストリア王子に、殆ど決まっているけれど。きちんと一人ずつのお婿さん候補と向き合うことが、タイムリープの因果を切り抜けるためには必須だという。
「分かっているわ、お母様。それに、この大陸にかけられたタイムリープの呪いの因果を解けるのも、乙女剣士の剣技だけ。今世こそ、繰り返される人生から抜け出してみせます」
「その心意気よ、紗奈子。まぁ……話し込んでいたらもうこんな時間。そろそろ、お父様に挨拶をして旅立たないと……」
* * *
「おぉ紗奈子! ついに、旅立ちの日がやって来たな。可愛い娘を旅に出すのはワシとて不安だが、道中はアルサルとクルルがサポートするし、拠点ではエルファムが合流予定だ。無事にクエストをこなして、ヒストリア王子が待つスメラギ殿の屋敷にたどり着けば、乙女剣士の認定試験は合格だぞ」
お父様との挨拶のために応接室へと移動すると、ボディガード役として同行する庭師アルサル、悪魔祓い師クルルの姿が。
「へぇ……公爵令嬢のヒラヒラしたワンピース姿に見慣れていたけど、剣士の装備もなかなか似合っているじゃないか、紗奈子。錬金術師でバトルのサポートするから、よろしくな」
「流石は、紗奈子お嬢様! どんなお洋服でも着こなしてしまう麗しさ……僕、お嬢様のお付きになって本当によかった。エクソシストの聖なる回復魔法で、お嬢様を怪我からお守りして見せます」
アルサルは庭師でありながら錬金術師としても優秀で、サポート役にはぴったり。クルルは修道院出身者ならではの、回復魔法を得意とする。攻撃は剣士の私が引き受けて、アルサルがサポート、クルルが回復役という役割分担。
「こちらこそよろしく、二人とも。今日から開始の鳳凰一閃流入門の認定試験……難所のモンスターを討伐して、拠点でスタンプをもらって。さらに先に進んで……スメラギ様のお屋敷入り口で、ヒストリア王子とカズサさんに、認定証を貰えば良いのよね。思ったよりも、認定試験のレベルが高そうなのが気になるけれど」
今回の真ルートの難点は、プレイヤーレベルを引き継いだ代わりに、敵の難易度がちょっぴり上がってしまったことだ。前回の認定試験がイージーモードだとすると、今回はノーマルモードと言える。
「ふむ、その辺りはメンバーとチカラを合わせて、攻略するといいだろう。なに、ワシも若い頃はトレジャーハンターに憧れて、度々屋敷を抜け出してな。まぁいつも強力なモンスターにトドメを刺すのは、若き日のお母さんが放つ呪文攻撃だったわけだが」
「そ、そう……どうりでお母様に、頭が上がらないわけね。認定試験のメンバー構成では、攻撃系の魔法に頼れないけど、チームワークで頑張るわ」
「よく言ったぞ、紗奈子。では剣士らしく、剣による誓いを我が目の前で……」
跪いて鞘からショートソードを抜き、お父様の前で高く掲げる。
「紗奈子・ガーネット・ブランローズ、ここに誓います。私は純潔を胸に、一人の乙女として、運命の因果を断ち切ることを……!」
――それは私が、今世を悔いなく生きるために掲げる【乙女剣士の宣誓】なのであった。
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