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第6章
第11話 薔薇柘榴が見せる夢
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薔薇柘榴島に着いてから本島の異変を知り、けれど戻ることも出来ずに夕刻になった。ギルドクエストを引き受けている限りは、その日のノルマを放棄するわけにもいかず、私、クルル、アルダー王子の三人で雑魚モンスタの排除を行う。場所は海軍詰所から少し離れた草原地帯、整備があまりされていないせいで、モンスターがたまに住んでしまうらしい。
「てゃっ! はっ!」
「光よ……モンスターを祓いたまえっ」
ザシュッ!
島に生息するモンスターはイノシシやスライム系のものが大半でそれほど強くない。私の剣とクルルのお祓いで大体は弱まる程度だ。が、鉱石の発掘作業を邪魔するスキルは高いらしく、早めの討伐が必要だった。
あとは、アルダー王子が草むらに魔法薬を撒いてモンスターが人間の住む区域に立ち入らないように仕掛けをするだけだ。
「さてと、幾つか排除したらこのモンスター除けの薬を撒いて……」
「一応、モンスターを全滅させるわけじゃなくて、棲み分けを促すのが目的なのね」
「まぁ、同じ生き物同士だし。仕事の邪魔さえしないでもらえればいいって考えなんじゃないかな」
作業終了を確認して、モンスター排除を行った区域をアプリに記入しギルドに報告。モンスターデータなども送信して、今日のギルドクエストの終了マークがアプリに記された。
『クエスト終了確認、お疲れ様でした!』
機械音がクエストの終了を教えてくれて、ホッと胸を撫で下ろす。
「はぁ。何とかクエストが終わったわ。初日から、タイムオーバーしたらどうしようかと思った」
「お嬢様、アルダー王子。これで堂々と、リーアさんにも連絡が出来ますね」
本当はもっと早く終わるはずのクエスト内容だったが、本土で起きた事件の影響でクエスト参加が大幅に遅れた。けれど、日が完全に落ちる前に終わってしまって良かったと思う。
「そうだね。オレらがクエストでトチったら、それこそ兄さんの面目が潰れちゃうし、自分達がやるべきことをやらないと」
「アルダー王子、だいぶ元通りになったんだ。一時は顔面蒼白だったもの……安心したわ」
「ふふ。ごめん」
ギルド旧本部に魔族が襲撃して来たとのニュースを見た時は、気が気ではなかったけれど。テレビの報道を見る限りリーアさんは、無事に状況を切り抜けたことになっている。ヒストリア王子を彷彿させるあの人が、リーアさん本人なのか否かは私には判断出来ない。けれど、今は報道の内容を信じるしかない。
* * *
予定ギリギリだが宿に向かうバスに乗り、宿泊施設に挨拶をしなくてはいけない。手続きをしながら今日の簡単な状況を説明して、正式に宿泊登録を済ませる。
「今日からお世話になります。ええ、本土のギルドから派遣された……」
「おや、よく間に合ったね。本土のギルドは今日いろいろあったし、そうか一応戻るかどうかも検討してから……うん。じゃあ、本土はもう平気そうだから、クエストを続行と……」
その後は滑り込みで晩御飯を食べて、お風呂に入り就寝というスケジュールだ。受付でドワーフ族の女将さんから鍵を受け取り、今日のアメニティを貰う。
「はい、部屋の鍵だよ。お嬢さんは一人部屋で、男の子は二人部屋ね。それから……女性限定の化粧品のアメニティ! クエスト参加者限定で、アメトリンのチャームをプレゼント中だよ」
化粧水や美容液のアメニティはよくあるグッズなので何となく分かるが、アメトリンという聞き慣れない鉱石のチャームは初めて見る。小さな半透明の巾着袋を開けると、紫色と黄色が混ざり合った不思議な石が入っていた。
「このアメトリンって鉱石も、この薔薇柘榴島の名物なのかしら? 綺麗ね」
「アメトリンはアメジストとシトリンが偶々混ざって出来た希少鉱石さ。値段はそれほどじゃないけど、天然ものは珍しいからお守りとしても人気だよ。お嬢さん運がいいね、アメジストは恋愛運、シトリンは金運が上がるんだ。アメトリンは両方の効果が期待出来るの」
「えっ両方? 凄い! スマホカバーにでもつけておこうかしら」
早速スマホカバーのストラップ穴にアメトリンのチャームを取り付けて、金運と恋愛運の向上を願う。たかが天然石一つに、いろんな願いを託すのもどうかと思うけど。効果があると謳っているのだから、多少は期待してもいいだろう。
「へぇ、なかなか可愛らしい天然石だね。ここの鉱石は、魔法鉱石以外にもこういうものが取れるんだ。しかも、アメジストとシトリンが混ざって……混ざる? まさか、兄さんも……」
スマホカバーに取り付けたアメトリンを覗き込んできたアルダー王子が、途中で表情が変わり一瞬考え込む。この天然石に何か気になる点でもあったのだろうか?
「んっどうしたの、アルダー王子?」
「ううん、何でもないよ。お腹ぺこぺこだし、サナちゃんもクルル君も早くごはん食べに行こう」
晩御飯のメニューは豪華な定食といったところ。薔薇柘榴島名物の海鮮丼とドワーフ仕込みのグツグツすき焼き鍋、デザートは柘榴色のチェリーアイス。
「この海鮮丼の薔薇柘榴海老、見たことないくらい大きいけど。これがこの辺りでは常識なのかしら?」
「うん、薔薇柘榴海老は、大きいのが特徴だよ。それにこの島周辺でしか取れないレアな海老なんだ。ほら、ここって巨大な湖の真ん中だけど、水の性質は海水になっているだろう? そういう特殊な環境でしか育たない海老らしいよ」
海鮮丼は伊勢海老ならぬ薔薇柘榴海老が二匹と、赤みのマグロがたっぷり、ホタテも大きくてこれだけでもクエストに来た甲斐がある。
「ドワーフ仕込みのグツグツすき焼き鍋もなかなかですよ!」
「おっ……クルル君も、すき焼き好きなんだね」
(すき焼きか、こんな美味しいすき焼きならヒストリア王子にも食べさせてあげたかったな)
多様な種族で賑わう食堂で頂くご飯は、初めての食材もあったが意外なほど美味しかった。けれど、すき焼きに関してはヒストリア王子も好物だと気づいて、彼は今どうしているんだろうと味よりも先に心が沁みてしまった。
食事の後は温泉に入り筋肉の疲れをほぐして、それから髪を乾かして早めにベッドに潜る。無難に一日が終わろうとしていたが、問題はそこからだった。
* * *
『紗奈子、紗奈子……』
――夢の中で誰かの呼び声が聞こえる。
声の主はまだ年若い少女の声で、どうやらこの島の何処かにある薔薇柘榴の塔の中から聞こえてくるようだ。彼女の呼び声を掻き消すように、記憶の底から民衆の怒号が飛び交っている。
『その女は魔女だ、悪魔だっ! リーア王子を誑かした罪を償わせるべきだっ』
浮かんで来た映像は赤い髪の少女と彼女を処刑するための断頭台、そして斬首を待ち侘びる醜い民衆の姿だった。
『紗奈子、助けて。聖女なんでしょう? 奇跡を起こして……。助けて、助けて、いやだ嫌だいやだいやだ、いやぁあああああああああっ!』
ザシュッッッ!
「「「「「うぉおおおおおおお!」」」」」
民衆は興奮で歓声を上げるが、それも一時的な狂乱に過ぎなかった。人々が去った後、黒髪の少女【紗奈子】が彼女の亡骸に祈りを捧げる。紗奈子は異世界からやって来た聖女で、次期国王アルダー王子のお気に入りだった。
彼女と瓜二つの黒髪の聖女【紗奈子】が、落ちた彼女の首を拾い上げてその首から滴る赤い血を手に受け止める。涙も血と混ざり、紗奈子の髪が徐々に赤く赤く染まっていく。
『ロード、大丈夫よ。貴女は私、私は貴女。心も魂も一つになって、鏡の世界でもう一度やり直しましょう。公爵令嬢ガーネット・ブランローズとして……』
見えないはずの映像が次々とフラッシュバックする。それは私とロードライトガーネット嬢の【最初の融合】の様子。
薔薇柘榴の見せる夢の正体は、私自身の記憶だった。
「てゃっ! はっ!」
「光よ……モンスターを祓いたまえっ」
ザシュッ!
島に生息するモンスターはイノシシやスライム系のものが大半でそれほど強くない。私の剣とクルルのお祓いで大体は弱まる程度だ。が、鉱石の発掘作業を邪魔するスキルは高いらしく、早めの討伐が必要だった。
あとは、アルダー王子が草むらに魔法薬を撒いてモンスターが人間の住む区域に立ち入らないように仕掛けをするだけだ。
「さてと、幾つか排除したらこのモンスター除けの薬を撒いて……」
「一応、モンスターを全滅させるわけじゃなくて、棲み分けを促すのが目的なのね」
「まぁ、同じ生き物同士だし。仕事の邪魔さえしないでもらえればいいって考えなんじゃないかな」
作業終了を確認して、モンスター排除を行った区域をアプリに記入しギルドに報告。モンスターデータなども送信して、今日のギルドクエストの終了マークがアプリに記された。
『クエスト終了確認、お疲れ様でした!』
機械音がクエストの終了を教えてくれて、ホッと胸を撫で下ろす。
「はぁ。何とかクエストが終わったわ。初日から、タイムオーバーしたらどうしようかと思った」
「お嬢様、アルダー王子。これで堂々と、リーアさんにも連絡が出来ますね」
本当はもっと早く終わるはずのクエスト内容だったが、本土で起きた事件の影響でクエスト参加が大幅に遅れた。けれど、日が完全に落ちる前に終わってしまって良かったと思う。
「そうだね。オレらがクエストでトチったら、それこそ兄さんの面目が潰れちゃうし、自分達がやるべきことをやらないと」
「アルダー王子、だいぶ元通りになったんだ。一時は顔面蒼白だったもの……安心したわ」
「ふふ。ごめん」
ギルド旧本部に魔族が襲撃して来たとのニュースを見た時は、気が気ではなかったけれど。テレビの報道を見る限りリーアさんは、無事に状況を切り抜けたことになっている。ヒストリア王子を彷彿させるあの人が、リーアさん本人なのか否かは私には判断出来ない。けれど、今は報道の内容を信じるしかない。
* * *
予定ギリギリだが宿に向かうバスに乗り、宿泊施設に挨拶をしなくてはいけない。手続きをしながら今日の簡単な状況を説明して、正式に宿泊登録を済ませる。
「今日からお世話になります。ええ、本土のギルドから派遣された……」
「おや、よく間に合ったね。本土のギルドは今日いろいろあったし、そうか一応戻るかどうかも検討してから……うん。じゃあ、本土はもう平気そうだから、クエストを続行と……」
その後は滑り込みで晩御飯を食べて、お風呂に入り就寝というスケジュールだ。受付でドワーフ族の女将さんから鍵を受け取り、今日のアメニティを貰う。
「はい、部屋の鍵だよ。お嬢さんは一人部屋で、男の子は二人部屋ね。それから……女性限定の化粧品のアメニティ! クエスト参加者限定で、アメトリンのチャームをプレゼント中だよ」
化粧水や美容液のアメニティはよくあるグッズなので何となく分かるが、アメトリンという聞き慣れない鉱石のチャームは初めて見る。小さな半透明の巾着袋を開けると、紫色と黄色が混ざり合った不思議な石が入っていた。
「このアメトリンって鉱石も、この薔薇柘榴島の名物なのかしら? 綺麗ね」
「アメトリンはアメジストとシトリンが偶々混ざって出来た希少鉱石さ。値段はそれほどじゃないけど、天然ものは珍しいからお守りとしても人気だよ。お嬢さん運がいいね、アメジストは恋愛運、シトリンは金運が上がるんだ。アメトリンは両方の効果が期待出来るの」
「えっ両方? 凄い! スマホカバーにでもつけておこうかしら」
早速スマホカバーのストラップ穴にアメトリンのチャームを取り付けて、金運と恋愛運の向上を願う。たかが天然石一つに、いろんな願いを託すのもどうかと思うけど。効果があると謳っているのだから、多少は期待してもいいだろう。
「へぇ、なかなか可愛らしい天然石だね。ここの鉱石は、魔法鉱石以外にもこういうものが取れるんだ。しかも、アメジストとシトリンが混ざって……混ざる? まさか、兄さんも……」
スマホカバーに取り付けたアメトリンを覗き込んできたアルダー王子が、途中で表情が変わり一瞬考え込む。この天然石に何か気になる点でもあったのだろうか?
「んっどうしたの、アルダー王子?」
「ううん、何でもないよ。お腹ぺこぺこだし、サナちゃんもクルル君も早くごはん食べに行こう」
晩御飯のメニューは豪華な定食といったところ。薔薇柘榴島名物の海鮮丼とドワーフ仕込みのグツグツすき焼き鍋、デザートは柘榴色のチェリーアイス。
「この海鮮丼の薔薇柘榴海老、見たことないくらい大きいけど。これがこの辺りでは常識なのかしら?」
「うん、薔薇柘榴海老は、大きいのが特徴だよ。それにこの島周辺でしか取れないレアな海老なんだ。ほら、ここって巨大な湖の真ん中だけど、水の性質は海水になっているだろう? そういう特殊な環境でしか育たない海老らしいよ」
海鮮丼は伊勢海老ならぬ薔薇柘榴海老が二匹と、赤みのマグロがたっぷり、ホタテも大きくてこれだけでもクエストに来た甲斐がある。
「ドワーフ仕込みのグツグツすき焼き鍋もなかなかですよ!」
「おっ……クルル君も、すき焼き好きなんだね」
(すき焼きか、こんな美味しいすき焼きならヒストリア王子にも食べさせてあげたかったな)
多様な種族で賑わう食堂で頂くご飯は、初めての食材もあったが意外なほど美味しかった。けれど、すき焼きに関してはヒストリア王子も好物だと気づいて、彼は今どうしているんだろうと味よりも先に心が沁みてしまった。
食事の後は温泉に入り筋肉の疲れをほぐして、それから髪を乾かして早めにベッドに潜る。無難に一日が終わろうとしていたが、問題はそこからだった。
* * *
『紗奈子、紗奈子……』
――夢の中で誰かの呼び声が聞こえる。
声の主はまだ年若い少女の声で、どうやらこの島の何処かにある薔薇柘榴の塔の中から聞こえてくるようだ。彼女の呼び声を掻き消すように、記憶の底から民衆の怒号が飛び交っている。
『その女は魔女だ、悪魔だっ! リーア王子を誑かした罪を償わせるべきだっ』
浮かんで来た映像は赤い髪の少女と彼女を処刑するための断頭台、そして斬首を待ち侘びる醜い民衆の姿だった。
『紗奈子、助けて。聖女なんでしょう? 奇跡を起こして……。助けて、助けて、いやだ嫌だいやだいやだ、いやぁあああああああああっ!』
ザシュッッッ!
「「「「「うぉおおおおおおお!」」」」」
民衆は興奮で歓声を上げるが、それも一時的な狂乱に過ぎなかった。人々が去った後、黒髪の少女【紗奈子】が彼女の亡骸に祈りを捧げる。紗奈子は異世界からやって来た聖女で、次期国王アルダー王子のお気に入りだった。
彼女と瓜二つの黒髪の聖女【紗奈子】が、落ちた彼女の首を拾い上げてその首から滴る赤い血を手に受け止める。涙も血と混ざり、紗奈子の髪が徐々に赤く赤く染まっていく。
『ロード、大丈夫よ。貴女は私、私は貴女。心も魂も一つになって、鏡の世界でもう一度やり直しましょう。公爵令嬢ガーネット・ブランローズとして……』
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