俺は悲しみに堪えて前を向く 〜君の存在があれば生きていける〜

琴音

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14 新婚旅行で別荘に向かう

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 手の空いているメイドや家臣のジジイどもに見送られ出発。穏やかな晴天で気分もいい。

「領内はご挨拶まわりで結構見たけど、別荘地とか観光はしてなかったから楽しみですわ」
「そうだな」

 俺も楽しみである。屋敷ではどこかしらに他人の目があるからな。二人っきりなんて寝室くらいか。いや、不寝番もいるから完全な……とはいかないか。なんて考えていると、

「イリアス楽しみそうじゃない返事ね」
「え?そんなことない。楽しみだよ」
「そう?」
「うん」

 向かいに座るリリアナはせっかくの二人っきりなのにって少しむくれている。フフッかわいい。

「そう聞こえたならごめん」
「わがまま言っていい?」
「なに?」

 ソワソワしたようになり、上目遣いで隣に行っていい?抱っこしてって。もちろん喜んで。

「ほら」
「うん」

 揺れる馬車だから、俺は彼女の手を取り隣に座らせる。そして腰に手を回して自分に寄せた。

「んふふっ」
「なんだよ」

 リリアナは俺に寄りかかり、わたくしは幼い頃の夢を叶えた。イリアスのお嫁さんになれてこうしていられる。昨日本当の夫婦にもなれた。夢みたいだと少し震えている。

「どうした?どこか痛いのか?具合が?」
「バカッ」

 顔をのぞき込むと瞳が揺らいでいる。え?本当に具合が?と聞けばバカッと胸を叩かれた。

「幸せなの!」
「あ、ごめん」

 こんなところがイリアスらしいけど、察しなさいと叱られた。これはまた相すまぬ。

「時々ズレてるのよねあなたは。お詫びにキスして」

 俺は彼女の頬を撫でた。すると目を閉じて頬を染める。俺の肩に頭を……

「リリアナ愛してる」
「わたくしも愛して……ンッ」

 少しするつもりだったが……なんか、そのなんだ。止まらん。

「リリアナ……リリアナ」
「イリアス……あ…ああ…ッ」

 なんとなく激しくなってしまった。昨日の夜の熱再燃って感じで、俺はつい体をまさぐり始めてしまった。するとダメって手を掴まれた。

「ハァハァ……キスだけで。夜に」
「うん」

 俺は唇が名残惜しかったが顔を離した。そして見つめ合い……抱きしめた。

「君は本当にかわいい。愛しくて堪らない」
「んふふっありがと」

 別荘までは少し遠めで昼前後の到着予定だ。途中の街で休憩を挟みつつ向かう。まあお昼に間に合わなければ途中でお昼を食べてもいいかな。ね?リリアナと見つめれば、

「ならばジル様の街のレストランに気になるところがありました。そこがいいですわ」
「どこ?」
「んとね。珍しいコーヒーがあるって看板に書いてあったところです。イリアスが最近扱いはじめたんでしょ?」
「ああ。暑い国でコーヒーを栽培しててな。うちの国ではまだ珍しい飲み物かな」

 そこがいいってリリアナは目がキラキラ。ならそこにするかな。コーヒー……な。これまたあんまり流行らないんだよ。ミルク入れても砂糖入れても苦いって大半の女性には受け入れられてはいない。だが、代わりに男性には人気。眠気が飛ぶってさ。確かにそんな効果があると農園の主は言ってたよ。俺は寝られない仕事の時に良く飲んでて、胃が痛くなった思い出もある。そんな話をするとリリアナはへーって。

「わたくし飲んだことないのですよ。母様が嫌いって家には置いてくださらなくて」
「あはは。女性で好きな人は少ないんだよ。いい香りで俺は好きなんだけど、色も黒いし見た目で嫌がられるんだ」
「ふーん」

 温かく飲むのが通常だが、夏は冷やしても美味しいらしく、叔父のジル様は夏は氷の魔道具買って売り出してやるって笑ってたが……どうなんだろ。行けば分かるかな。叔父上の街で試験的に売ってるだけだし、売り上げはそこそこだよって話だったが。

「あら。この辺ならジル様の街の手前かしら。楽しみだわ」
「そうね。あんまり期待すると残念って思うかもよ?」
「それはそれ。新しいものは残念に思うのも体験で楽しいですわ」
「ふーん。君はなんでも前向きだな」
「あら。当然でしょ」

 俺に抱かれ幸せそうに微笑む。わたくしはなんでもやりたい。失敗してもいいから寝込んでた時間を取り戻したい。病からお友だちにお付き合いを断たれたりもしたのよって少し憂いたような。え?と俺が驚くと、仲良しグループは誰も離れなかったの。でもねって。

「お友だちは彼らだけじゃないのよ。女性は女性だけのコミュニティもあるの。そこからはね……フフッ」
「そっか……寂しいな」

 まあねえって苦笑いを浮かべる。

「家の考え方もあるし、わたくしの病が感染うつるなんて言われちゃったら何も言えませんわ」
「はあ?魔物の毒は人から人には感染らないけど?」
「知らない人は噂を信じちゃうの」

 カフェまではまだ少しあるから聞いてって。リリアナは、あなたには言えないような言葉も言われてた。親も兄弟もだろうけど、自分の耳に入れないように立ち回ってたようだけど、全部隠せるものでもない。仲の良かったシルヴィアにお手紙を出した時に最後のお手紙よって書いてあったのと尻すぼみになり、ふうって息を吐いて黙った。

「言わなくていい。うちの領内で君を悪く言う者はいない。みんな魔物の毒の知識があるからだ。辛かったねってみんな言ってたろ」
「ええ。とても嬉しかったの。辛かったわねってソフィアやキャシー、ケイトしか言ってくれなかったの。だから……本当に嬉しかったの」
「うん……」

 想像はつく。未知の病の高位の姫。面と向かってはさすがに言わないだろうけどさ。でも噂話とは厄介で、回り回って聞こえてくるものだ。女性は特にだろう。俺はそっと彼女の頭を撫でた。

「外国との付き合いのある家は気にしないんだが、魔物のことは難しいんだよ。みんな見たことないし」
「分かってるの。でも……ね」

 そのままリリアナは俺の胸に顔を埋めて黙った。俺は優しく頭を撫でるだけ。無理して声を掛けるところじゃないな。

 貴族の世界は狭い。人の悪口は電光石火で飛び交い、尾ひれがつきまくる。物によっては原形を留めないくらいに悪い噂になることもある。火消しなんざできない。しても無駄。みなが飽きるか、新たなスキャンダルが生まれ興味が移るかだ。

 彼女の場合は高位の貴族で一人娘だったから誰も忘れない。何かのきっかけに何度でも再燃するんだ。辛いよな。

「俺が守るよ。お茶会だって好きな人だけ呼べばいいし行けばいい。無理はしなくていい」
「はい」

 今彼女にはたくさんお誘いのお手紙が来てもいいはずなんだ。ガーデンパーティやサロンの開放時期だから。だが、数えるほどしか来ていない。新婚の頃は、嫁ぎ先の話や夫とはどう?など聞きたくて、あちこちから来るのが当たり前なのに。来てるのは仲良しの家からのみで、後は俺のきょうだいや彼女の身内。この事実にどれだけ辛かったかは分かる。

「はあ~落ち込み終わり!さあお店よ!」
「フフッ」
「んふふっ」

 顔を上げた彼女はいつもの彼女。かわいいリリアナだ。街に入ったところで馬車が止まり、いつものカフェでいいかとコリンが窓から聞いてきた。

「いや、コーヒー扱っている店があるだろ。そこで」

 コーヒー?とコリンは悩んでいる。

「うーんと、ジル様の関連の店しかないはずですが、近くはこの先にありますね」
「ならそこで」
「か、かしこまりました」

 コリンの目はマジか?って色があったが御者に伝えて向かう。

「楽しみだわ」
「ジル叔父上のところは当然だがお茶は美味い。だが……」
「だが?」
「飯関係は期待するな。まずいんじゃないが、変なんだ」
「はあ。変とは?」

 不思議そうなリリアナ。まあそうだろう。叔父上の店はエスニックというのかな。南国のカレーとかいうものを置いている。普通の飯はない。全部スパイスの料理なんだ。これ流行るの?と不安だったが、やってみたら流行ってるんだ。人の好みなんざ分からんもんよ。俺はさらっと説明した。

「へえ……少し早いけど食べたいかな?」
「え?辛いし、見た目赤かったり黃色ばっかよ?」
「そうなの?」
「うん。パブリカの赤とターメリックの黄色がメインだね」
「ターメリックってなに?コショウとか唐辛子のの仲間?黄色いの?」
「スパイスではあるかな。辛くはないく、どちらかと言えば苦い」
「に、苦い?」

 なんて話してると、スパイスの香り漂う店の前。馬車の扉が開いて着きましたよってコリン。

「うわあ。本当にスパイスの香りだわ。前は分からなかったのに」
「通り過ぎるだけじゃ分かんなかったんだよ」
「そっか」

 まあいいわって楽しそうにコリンの手を取り馬車を降りていく。俺も後に続く。

「久しぶりかなこの店」
「ですね坊っちゃん。コーヒーは好きですが、私は料理はちょっと苦手かな」
「だな。美味いんだがしょっちゅう来たい店じゃない」
「はい……」

 ワクワクと期待に満ち溢れたリリアナを横目に俺とコリン、あの坊っちゃんここですか?とため息を付くメイド。

「イリアス早く!」
「う、うん」

 満面の笑みで呼ぶリリアナに、みんななんだかなあと無言でついて行くことになった。





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