俺は悲しみに堪えて前を向く 〜君の存在があれば生きていける〜

琴音

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19 日常が戻ったね

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 長くも短い別荘の日々も終わり帰宅。ジジイどもは幸せそうに俺たちを迎えてくれた。

「来月にはご懐妊か?」
「バカヤロウ。んなわけあるかい」
「わからんだろ」
「まあな。つーかさ。人の夫婦生活に興味持つなよ」
「持つだろ!赤ちゃんは我らの希望だ。子爵家の繁栄の基礎になる。もう坊っちゃんしか正当な主はいないんだから期待もするさ」

 坊っちゃん……ここまで来て坊っちゃんかよ。何とかしろよその呼び方。俺は迎えに出てくれたジジイどもやメイドたちをぐるりと見渡した。が、目が泳ぐ。なんでだ!

「慣れちゃったから。そのうち直すよ」
「そうしてくれ」

 こんなやり取りをリリアナは隣で微笑ましく見ててくれた。それにジジイどもは目を細める。

「リリアナ様お疲れでしょう。料理長が腕によりを掛けて食事やデザートを用意しました。さあさあ」
「はい。んふふっ」

 執事のステファンはリリアナの手を取り嬉しそうに案内する。それをみんな嬉しそうに眺める。まいいや。リリアナが馴染んでるから。

 そして居間。

「桃のコンポート添えのゼリーです。爽やかな甘みと冷たさがいいですよ」
「とても美味しいです」
「ようございます。少し合わないかもしれませんが、アイスコーヒーも用意いたしました」
「ほんと?うわあ嬉しいわ」

 当然のように運ばれてきたアイスコーヒーには氷がは入っている。うむ。魔道具買うの早いな。

「美味しい……本当に美味しいです」
「当然でしょう。最高級の豆を用意いたしましたから。飲み物くらいの贅沢は楽しみのうちでございます」
「ありがとうございます」
「いえいえ。坊っちゃんもどうぞ」
「うん」

 俺はついでのようだ。まあいいがな。かわいく素直なリリアナはジジイどもの心を掴んだらしい。俺は安堵とリリアナの社交性に感心した。

「女性の主の存在は嬉しゅうごさいますなあ。場が華やかになります。小鳥のさえずりのような笑い声にうっとりいたします」
「俺の犬の唸りのような笑い声で悪かったな」
「ええ悪いです。早めにかわいい子犬の鳴き声も聞きとうございます。それも何頭も」
「さいですか」

 もう少し私たちにお時間を下さいませとリリアナ。するとふわ~んと顔がくしゃくしゃになるステファン。

「もちろんでございますぅ。坊っちゃんと仲良くする時間は必要ですからね。楽しみに待ちますから」
「ええ。わたくしも出来るだけ」
「な、なんとッさすが高位の姫様ですね。わたくししっかりと奥様をお支えいたします。なんなりとお申し付けくださいませ。何にでもお応えいたします!」
「フフッありがとうステファン」

 ウルウルとし出すステファン。わたくし感動です。こんな素直な奥様が坊っちゃんに。なんてなんという奇跡。こうしちゃいられない。明日からの奥様の楽しみを用意せねば!と、慌ただしく出て行った。なにするつもりなんだか。あーあ。

「イリアス?」
「ああん?君すごいね」
「なにが?」
「ジジイどもを手玉に取ってさ」
「失礼ね。本来の私はこんななのよ。なぜかおじ様たちにかわいがられるの。不思議よね」
「ふーん」

 これも才能か。学生時代には気が付かなかったものだな。そりゃあそうか。ジジイどもはいないしな。いや、先生受けはよかったか。それも年配の人に。そう話すとそうでしょ?って。

「素朴さがいいって評価だろって兄様が言ってたのよ」
「ふーん。俺は華やかな綺麗さだと思うけどな。素朴さかあ。まあ……なくはないかな。俺には美しい姫だけど」
「あ、あの……ヤダイリアス……」

 真っ赤になって照れている。こんなところが素直でかわいい。「当然でしょう」などと受け止めない謙虚さもかわいい。まあ、なんでもリリアナならかわいいんだけど。

「俺にとっては君は美しい妻だ。花がほころぶように笑う君が好きだよ」
「ありがと」

 恥ずかしいのかコーヒー一気飲みしてゲボゲボ。アハハッ

「あんまり人前で褒めないで。恥ずかしいのッ」
「はーい」

 なんともかわいい俺の妻。屋敷にも短時間で馴染む社交性、それとは別のかわいらしさも兼ね備えた淑女。んふふっニヤニヤしてたのか彼女はムスッとする。

「なによ」
「君には負担なことも多い結婚だが、俺はとても幸せだ」
「へ?負担などないですが?」
「あるだろ。身分は激下がりだし裕福さも違う。これから感じるよ」
「どーでもいいですよ。そんなことはね」
「そう?」
「もちろん。イリアスの妻の座を勝ち取ったわたくしは勝者ですもん。不満などございません」

 アハハッいい。リリアナいいよ。そんな君をさらに愛しく感じる。愛してるよリリアナ。俺は笑いながら答えた。リリアナは困った人ねと微笑み、

「イリアスはご自分を過小評価してるわ。あなたを狙ってた方はたくさんいたのよ」
「そうかもね。でも俺は君だけだよ。あの時が俺の婚期。その時に心惹かれなければ意味はない」
「まあそうね」

 俺もリリアナも結婚を決意した時がその時。上手くチャンスが重なったんだ。これも巡り合わせというやつだな。俺はコーヒーを飲みながら幸せに浸っていた。

 翌日からは普通に業務に戻り、俺はあくせくと働く。リリアナはステファンたちがあれこれと世話を焼き、楽しく過ごしていた。……あれだけいたしたのに子はやってこなかったが、リリアナに聞けばその時期じゃなかっただけ。赤ちゃんを作りたくなった時には誘いますってさ。女の体は女が一番知ってる。きちんとコウノトリにお願いするから安心してって。そんなものかと放置した。俺は彼女からの誘いに乗ることがほとんどで、自分からはやはり……ごめん。

 なんて日々を送っていたある日。

 リリアナの元婚約者の公爵領の売上がおかしい。屋敷に卸していたはずの注文が途絶えたんだ。何ごとと調べたら、民間の業者に変更していた。それも民間としては国内最大手のジークバルド商会だ。あそこは貴族と渡り合えるくらいの商会で、我が地とは関係ない北の領地の商人。

 お茶は独自ルートを仕入れ、俺たち貴族の商会とは違う物を揃えている、ちょっと変わったお茶がメイン。王道とは香りや品質の違いにファンが多いのも特徴だ。うーむ。貴族の屋敷でくせ物のお茶は……どうなんだろ?と俺は考え込んだ。

「坊っちゃん。私は悪い噂を耳にしました」
「なに?」

 悩んでいる俺にアルトが声を掛けてきた。かなり難しい顔をしている。

「ちょっと話長くなるからここへ」
「うん」

 応接セットに座れと言うから執務机から移動し、ステファンがタイミングよくお茶を淹れてくれる。話すタイミングを狙ってたっぽいな。

「あのね坊っちゃん。今の若い公爵がリリアナ様の婚約者だったのはご存知?」
「うん知ってる。それが?」

 知ってたか。なら話は早い。嫌がらせですって。マジか。なんて小さい男だよ。はあ。俺のため息にそれ違うって、奥様の方だってさ。あららこりゃマズい。みんなもウンウンとうなずく。アルトの他のみんな来て会議みたいになった。

「リリアナ様の評判は結婚後徐々に変化してきてます。おふたりで参加する舞踏会や園遊会。そこで見るおふたりの仲睦まじい姿にみな様あれ?ってなってきてるんです」
「へえ。俺は普段どおりだけどな」

 アルトはズイッと前のめりになり俺をギロリ。

「それがいいんでしょうね。昔からのお仲間と仲よく過ごし、第二王子妃のソフィア様も何の変化なくリリアナ様を受け入れている」
「当たり前だよ。あそこんちも外国との付き合いはあるし、嫁も婿もクリシュナ王国関連貴族に出してるお家だよ」

 王族は当然のように魔物を知っている。当たり前だ。外遊にも行くから騎士団所属で魔法使い(国外に移住禁止は他国の魔法師団に所属するってことなら届け出制で許可が出る※友好国のみだけど)をかなり雇っている。いなきゃ怖くて国の外に行けないよ。盗賊や輩なんかはいいけど、魔物は魔法使いじゃなきゃダメなのも結構いるんだ。そうなんですがねとアルト。

「我らのように外との付き合いのある領地や貴族ばかりではありませんからね。夢物語にしか感じてない民も貴族も多いのです。悲しいことに宮中の官僚すら外に出ない者はその程度です」
「うん。まあ」

 それを前提として聞けとアルトは茶をすすり、ここからが大事だよって。ちゃんと聞けって。聞きますよ。はよ話せ。












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