真紅のダリアは闇夜に開く 〜本能のまま好きに生きてたら奇跡が起きた〜

琴音

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16 なにをいわれても無理

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 伯爵のカミングアウト以降……俺は別荘での居心地が悪い。家臣の方たちはどこか汚らわしいって目が言ってて冷たいし、ふたりは気にせずラブラブ。夜は三人でな。手ほどきして欲しいからってな。要請でさ。まあそれはいい。エッチ自体は好きだし。

「エル様……堪りません!」
「いやあッ」

 テオドール様のちんこはもうね。堪んないのよ気持ちいい。下手くそではあるけどさすが島の人と思うよさなんだ。

「そうだ!テオとだったら確実か?」

 絶頂してくったりしてると伯爵が突然。何言ってんだか。俺はのそりと顔を上げて、

「そんなはずないでしょう。彼は番じゃないし発情期以外はめったに子は出来ないのです。番以外じゃ奇跡レベルなんですよ」
「そっか……ならふたりが核を使ったら出来るかも」
「コワッ止めて下さいませ伯爵」

 横になって真面目な顔。やだなあ本気かよ。

 俺はここに来て三週間。居心地は部屋から出なければ悪くはないが、そうもいかず。家臣や他のメイドさん、清掃などの下働きの人の冷たい目は見ないことにする技を磨くことに専念してるんだよ。

「私に子をくれよエルヴィーレ」
「無理ですよ」

 本気の目つきにこちらが嫌になる。番以外でも赤ちゃんが生まれるベータの人とは違うんだよ。俺達はさ。俺は深い溜息が漏れた。

「ならお前が産んだ子を養子にくれ」
「はあ?子を愛する島民には無理な相談です。大人になってここに来たいってなら考えますが」
「それじゃあ遅い。赤子の頃から慈しみたい。親子をやり直したいんだ」

 また無理なことを。島にも親のない子はいるけど、身内にそれは大切にされてるから難しい。それにな。俺旦那ふたりだろ?もう番は見つかんないはずなんだ。なくはないのは知ってるけど今どきは見かけない。先代の島の王様が妻を三人持ってたけどさ。夫のどちらかが死ねば分からんが、それは俺が耐えられないもん。テオドール様の匂いも嫌いじゃないけどぉときめかないのも事実。

「試そう。エルヴィーレ」

 真顔で言うな。

「嫌です。そんな変なので作った子がまともかも分かんないし」
「そうだが……」

 なんて堂々巡りをしていた。赤ちゃんを諦めればすむことなのになあ。実子はいるんだしさ。俺は諦めず説得を試みた。そしたら伯爵は苦悶の表情で唸りだした。

「あれは……正直私の子どもと思いたくない。義務で育てたが私の子とは思ってない」
「酷い!」

 俺が怒鳴ったら困り顔。テオドール様を抱き寄せて、

「仕方なかろう。愛してもいない人の子なんだぞ。妻の血があの子たちにはある。もうゾワッとするんだ。ならお前ならと考えてみろ」
「はあ……」

 想像の中の男と寝てるんだと頑張った成果だそう。萎えそうになるのを必死で頑張った。妻には失礼だとは思うが、一度真実を人に話したらもう戻れない。テオだけがいいし、テオの子が欲しいそうだ。そうだろうけどさあ。

「私の子でなくても良い。テオの子であれば」
「なら一度島に行きましょうよ。きっと彼の番が見つかるから」

 それもそうかと伯爵。でもなあお前の子がいいってウダウダ。相手はどこの馬の骨かも分からんのも嫌。それ言ったら俺もだろうよ。エッチしながらこんな話もないもんだが、これは重要案件だ。

「旦那様。私の番はお嫌ですか?」

 腕の中のテオドール様が見上げるとうーんと唸る。

「私の子ではありますし、島の気質的にエルヴィーレ様のようになるはずです。ねえ」
「う、う~ん」

 伯爵が悩みだして中断。簡単に答えは出ないものだよな。テオ様の子でいいと言うまでひと月掛かった。もう少し説得かな。興が覚めたと体を洗浄してお酒を飲むことになった。テオドール様がでは支度しますねと服を着始める。

「エルヴィーレを返すのか……う~ん」
「そして裁きは受けましょう」
「それな」

 難しい顔で腕を組み伯爵は考え込む。簡単に考えてたけど俺は誘拐されてんのよね。それも王宮から。これどうすっかなだな。

「それがなあ。貴族特権でも有耶無耶には出来なさそうでな。家にも迷惑になるし、そろそろ国が踏み込んで来てもおかしくない。ファティーニ公爵が動いていると耳にしたし……今更だがやり過ぎた」
「なら今すぐエルヴィーレ様を返しましょう。そして取りなしてもらうのです」

 伯爵は周りが見えなくなるくらい追い詰められていたそうで、俺を捕まえることしか頭になかった。その先のデメリットなどなーんも考えられなくなっていたそうだ。だから今困ってる。そうだろう。

 俺は単純に島に返してもらえればそれでいいと思う。だけどそう上手くいくのかなって不安もある。するとそうなんだよって伯爵。

「エルヴィーレに手紙書かせても私が強要したと思われるし……こんなに日が経ったし」
「まあ……あの…うーん」

 ふたりして悩んでいる。罪を逃れる方法は今のところない。宮中がことを小さくしたいと判断すれば、貴族同士の問題でなあなあにしてくれる場合もある。が、そうするには伯爵の性癖も世間に露わになる。それは?と俺が聞けば「イヤ」って。貴族中に広まるから。みんなはいそうですかと許してはくれまいとまた唸る。

「私はあの島を悪く言ってたんだ。自分の心の安寧につい……」

 それは聞いた。伯爵にとってあの島は天国。もういるだけで幸せだった。護衛にもそんなことは言えず威張り散らしていた。それは悪らつなものだったそうだ。そんで最悪なことに、性癖を公開してる男色の人を悪く責めていたそう。おおぅそりゃあマズいね。

「それにな。ここにも家臣も護衛も少なからずいるし、出入りの業者もいる。人の口には戸は立てられない。すでに噂になってるかもな」
「「あー……」」

 なんか可哀想になっただろ。誘拐はされたけど酷い扱いは誘拐の日だけだったし。ぶっちゃけこのくらいの暴力は慣れていた。お客にいるから。それに泣いたのは帰れないかも、死ぬかもって不安からだし。あの噂は人の口を伝わるうちに次から次へと尾ひれがついて、面白おかしく民に貴族に広がっただけだそうだ。

「なんであんな話になったのやらだ。まあそれだけ私が人前で醜くなっていたということだろう」

 自覚はあるから噂を消そうとはしなかったそうだ。でも酷いよなってため息。

「夜伽を首絞めて殺して裏庭に埋めてるとかありましたが」
「どこの変態だよそれ。夜伽に女は論外だし男なら大事にしたよ」
「そうね」
「それにな。根本的に夜伽なんて雇ったことはない。相手はテオにさせてたから」
「ふーん」

 酒の支度が整い席に着いた。本土の酒は美味い。島に来てない酒も多くとても美味しいんだ。果物もリンゴとかぶとうも品種の違いか甘く大きい。食事もまた違って美味しい。

「前の妻への狼藉や他人への暴言は反省している。自分の言う通りにならないとか、気に入らないからって怒鳴ったり嫌がらせを言ったりしていいはずはなかった」
「それはそうね」

 妻のヘレンは初めから愛してはいなかった。女は不快でもあったが仕事だと諦めて耐えた。ヘレン様は優しく穏やかな人で、妻として母としては問題はない。私の問題なだけ。それが月日の中で耐えられず切れやすくもなった。息子たちにも言えず耐えているうちに「私はこうなんだ」と決めつけ、周りに当たり散らした。今こうなってとても反省しているそうだ。

「もうな。我慢の限界が来ていた。テオドールへの愛も言えないし、奴隷だからと自分に繋ぎ止めることに精一杯なったんだ」
「ええ。私は嫌われてると思ってました。夜伽とメイドのためにお傍に置かれていると思ってましたから」
「すまん」

 愛してるのをテオドール様に悟られたくなかった。いつまでも少年ぽさを残す彼が愛しくて堪らない。島の人だから人目を気にして口調も乱暴だし、ベッドでは多少許してたけどそれでも虚勢を張ってたそう。

「街にいるような自認が女で愛されたい訳じゃない。男としてテオを愛してる。見ての通り私は抱かれる側だし」
「はい」

 俺の股間じゃ気持ちよくないだろ?エルヴィーレと哀しそうに微笑む。俺はビクッえへへって苦笑い。そうだろうなと伯爵は目を伏せた。

「相手を楽しませるやり方を知らないんだ。喜ばせてもらおうって気持ちが強くてな。若い頃から島に行き、言えないからそういったおもちゃを専門店で買い集め、体を慰めたんだ」
「そういう意図で島に来てたんですか?」

 ああってグラスを傾ける。幸せだったよ。店にいる時は素直になれた。押し込まれる本物の股間の熱さ、先の張りの感触に震えるほど。だから滞在は長くなる。時間の許す限り島に滞在したそうだ。

「家臣に悟られないようにオメガが多い店を選んでいたりな」
「そっか。だからうちには来てなかったのか」

 うちはほとんどオメガなんだ。少しだけアルファの子たちもいるけどさ。

「それにお前のところは高いんだよ。毎日じゃ懐に優しくないし、私は滞在日数が多くてな」
「そっか」

 このひと月でそれはよくわかる。初日に抱いた時、尻がやたらに柔らかくてな。すぐに解れるのを不審には思ってた。入れてくれって言われた時もおかしいとは感じたし、ものすごく悦んだから。俺の技かと思ってたけど、それもあっただろうけど(言い訳だが俺のプライドもある)違ったんだ。

「お前はオメガなのにいい股間だよな」
「島の者はこんなですね。ただ脱がしただけじゃアルファかオメガか、ベータの人には区別が付きにくいんですよ」
「そうか」

 それも羨ましい。自分が小さいのは自覚してる。それもあって妻に強く当たったそうだ。劣等感が乱雑な動きになってしまっていたそうだ。それは分からんでもない。

「私は気にしません。旦那様であればそれで」
「ああ。ありがとう」

 ふたりは俺の見てないところで話し合って愛を深めたそうだ。彼を誘拐したのもこのため。アルファでよかったと、テオドール様が成人した時思ったそうだ。誘拐した家臣には、オメガでないとはどういうことだと叱ったそうだけど。

「自分が庶民であれば島に移住しただろう。子を持てなくても傍に置いてくれる人はきっといたはず。貴族では出来なかったんだ」
「そうですね」

 確かにいるんだよ。夫婦はふたりが多いんだけど、三人目の夫や妻がいる人が。同性が好きな本土や他国の人も迎え入れてんだよね。島の人を好きになり傍にいるんだ。来るもの拒まず。番以外も俺たちは愛してくれる人を愛したいと考える。

「島民はね。自分を愛してくれる人をとても大切にする。番でなくとも出来るだけ愛を注ぐのです」
「知ってる。私がどれだけ島に通ったか知らんだろ」
「フフッ」

 そんな夫婦が羨ましくて仕方なかった。でも逃げても島じゃすぐに見つかるし無理。そして俺の行いの醜聞で家名に傷がつく。もうどうにもならなかったんだと、伯爵はムッスリお酒を口にする。

「今までも島に通いすぎて「好き者」としての醜聞はあったが、これは男としては勲章だ。精力が強くてって自慢になる。本土でもオメガを買うのは女を買うと同じと考えられてるんだ」
「ええ。存じてます」

 だからバレずにここまで来れた。彼はもうすぐ四十になるそうだ。寿命が見えはじめ不安に駆られたそう。我慢するだけの人生はどうなんだろう?家を守るだけが人生なのか。自分の幸せを願ってはならぬのかと。

「それでな。愛する人との子が欲しい。どうにも欲しくなった。それで色々試したんだ」
「ふーん」

 変な核の話を聞いて奔走したのもそのせい。お互いの精をかければ子が生まれるって魔女は言った。大金も払ったんだと。うわッ

「使えるか使えないかは分からぬ。でも必ずオメガか女を用意しろって言われたんだ。ふたりで精を掛ければって」

 女かオメガ?それ完全に騙されてないかな?俺はそう思った。

「……それはどちらかの子種で子が出来るだけじゃないのですか?」
「ああ。冷静になった今なら理解する。北の国でもあれは不妊を手助けするだけの物らしいな。子種を活性化させるとか、女の方を出来やすい体質に変えるとかそんなのだそうだ」

 それを魔女の力で男同士でも受胎出来るように魔法を掛けた。出来ます!と断言されたそうで信じちゃったらしい。追い詰められてて正常な判断力はあの頃なかったんだって、テオごめんねって横を向いてキスをする。

「フフッとても気持ちいい…です」
「うん」

 頬を撫でながらキスを楽しんでさ。もうね。最近こんな。ふたりはいちゃいちゃしてて俺は辛い。こういうのを見てると本気で島に帰りたい。アレッシオとベルベルトの胸に収まりたい。俺を知り尽くしてるふたりに、意識が飛ぶほど責められたいと思う。が、中々ね。

 俺は仕方なく愛し合うふたりをさかなに酒を煽っていた。




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