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44-2 壊れたオモチャ
しおりを挟む「にいに~~にいに~~~」
「ちょ、ちょっと待って」
ああ、ヤバい、妹がいるのにこれは……
「はーーーーーーなーーーーーーーーれーーーーーーーーーてええええええええええええええええ」
やっぱりきたあああああああああ!!!
「にいに~~にいにって、やだあああにいに~~~~~」
「お兄ちゃんは私のなのおおおおおお」
「やだああああああ、にいにいいいいいいい!」
会長を引っ張る妹と俺にしがみつく会長、この阿鼻叫喚な状況……ちょっと待て、先生がいるのにこんな事したら
「え、え、えええええええええええええええええ、栞さん、やっぱり……」
ああああ、やっぱり先生にバレた……
「ちょっと待って、離れて、ちょっと」
「にいに~にいに~」
「私のお兄ちゃんからあああ、離れてえええええええええ」
「え、えええええええええええええええええ!!!」
「はい……もう好きにしてください……」
暫くほっておいたが改善しない……とりあえず会長が俺から離れてくれないと……
試しに兄になりきってみたら……
「葵、ちょっと離れてくれる?」
「ええええ、にいにどこにも行かない?」
「行かないから、ね?」
「はーーーーーい」と素直に離れて椅子に座り、ニコニコと俺を見て笑う会長……やべえこんな感じでデレるとは……
「うううううううお兄ちゃん、でれでれしないいいい」
妹が俺の横で腕に抱きつく、ああもうこの妹は俺の事となると本当に空気を読まないというか、読めないというか……
「ああああ、葵も~~~~」
今度は会長が俺の腕に抱きつく……なにこの凄く嫌な両手に花状態……
「えっと、一つ聞いてもいい?」
暫く黙っていた先生が俺たちを見てようやく口を開いた、いや開かなくていいです……
「いや、駄目です」
「あなた達って兄妹よね?」
「いや、だから駄目って……」
「まさかとは思うけど、あなた達って」
「愛し合ってます!!!」
妹が俺の腕を抱く力を強めながら宣言するって、俺は言ってないぞ!
「いやいやいやいや」
「本当に?」
「いや、嘘でもないけど、本当でもないって言うか、えっと……」
愛してるとは言ってない、俺は言ってない……でも完全否定するのも……
「にいに、私も愛してる~~」
あああ、会長……なぜこんなお姿に……
「いやいやいやいや」
「あなた達って……まあいいわ、あなたと妹さんの関係は後でじっくり聞くとして、会長は一体……」
「にいに~~~愛してる~~あおいね、ずっと会いたかったの……寂しかったんだよ~~」
「なんか……すっかり子供になってますね、会長……」
「うーーん、これって……ひょっとして幼児退行?」
「幼児退行?」
「うん、大学で勉強したけど、精神的ストレスやショックな事、過去のトラウマ、色々な事から逃れる為に現実逃避する精神疾患って……」
「退行……って事は何かしら原因が……ってやっぱり」
「まあ、副会長かしらね、でも辞められただけでこうなるかしら?」
「とりあえず、副会長と話せば、先生!!」
「今電話してみるわね」
先生がスマホを操作……しかし
「ホームルームは終わってるはずだけど、出ないわねというか、着信拒否されてるみたい」
「今日2年生は!」
「朝礼は明日だから今日はもう帰宅、あ!」
「今行けば!!」
俺は生徒会室を出ようとするが……
「にいに、にいにどこ行くの、やだあああああ、行っちゃやだあああああああああああ」
俺の腕にしがみつく会長……
「行かないから離して、ね」
「嘘! 嫌! 行かないでえ、にいに、もういやだ、あおいを一人にしなでええええええええ」
号泣する会長……えっと、これってかなりヤバイ状況……生徒会室の外で誰か立ち止まっている気配がする。
「しーーー、行かない、行かないよ、ね、だから泣き止んで……」
「ほんと?」
「ほんとだから、ね」
そう言うと会長は俺を見てニッコリと笑う、赤い目で笑う姿にウサギのような可愛さがってそんな場合か!
「先生!」
「うーーーん、間に合わないかな? 私足遅いし……」
窓の外を眺めている先生、今日くらいテレポートしろよ……
「栞!!」
「えーーー、私が行ったらお兄ちゃん会長とイチャイチャするでしょー」
「しない、しないから」
「うーーん、それに私が行っても無駄だと思うな~~何処にいるかもわからなし」
「うーーーーーん」
まあ、そうだろうけど、じゃあ、どうすんだよこれ……
「にいに~~~」
ニッコリ笑う金髪美女……元々顔立ちは凄く綺麗だがあの気の強さが目に現れていた、凄く鋭い目、しかし今やそんな目力は全くなく、俺を見てとろーんとしている……同じ顔なのにここまでイメージが変わるかって位違う顔立ちになっている。
「というか、何で俺がにいになんだ? 会長の兄貴に似てるのか?」
「そうかも知れないけど、感じから言って刷り込みっぽい気がするな~」
「刷り込みって、あの雛鳥が最初に見た者を親って思うあれ?」
「よく知ってるわね、そうそうインプリンティングって言うの」
先生が拍手をする……いやほんとそんな場合かって、そもそもあなたがここに俺たちを連れてきたから……
「いや、それって……、じゃあどうすんだよこれ」
「うーーーん、どうしよっか?」
「どうしよっかじゃないよ先生、もとはと言えば先生が俺たちをここに連れてきたからだろ」
「だってえ、他に言える人がいないんだもん」
「いないんだもんって可愛く言っても駄目です、こう言うのって上司に相談しないとでしょ? ほうれんそうって知ってます、社会人の基本でしょ?」
「だってえ、そんな事をしたら会長が可哀想でしょ? 下手すると停学だよ? 内緒にしてる私も何かしらの処分があるかもだし」
「うーーん……、まあ言われてみれば……でもじゃあ本当にどうするんだ?」
「とりあえず、今日はそっと学校を出て、あとは副会長、あ、元副会長? と話しをするしか……」
「そっとね~、で?」
「で?」
「俺はどうするんだ?」
「何が?」
「これ」
俺は腕を軽く持ち上げる……
「ああん、にいに、離れちゃうううう」
「ああ……、どうしよっか?」
「ほんと、どうすんだよ……、先生、会長の家ってわかります?」
「それはわかるけど、行ってどうするの?」
「どうするって……ああ、会長置いて俺が帰ったら」
「大号泣するわね多分、そして後を追いかけて来るわよ」
「マジか……なにその怖い状況…………じゃあ俺の家にって……連れていける分けないよな……」
美月と暮らすのとわけが違う、いくら適当母さんでも他人が住めば……あら、いらっしゃいで済むはずが………………なんか平気な気がしてきたけど……
「じゃあ私の家しかないか……」
「えええええ、俺が先生の家に泊まるの?」
俺がそう言うと栞が腕をつかむ力を強める……痛い痛い
「そうね、そ、それしか……、あ、勿論仕方なく、仕方なくよ……」
なんか赤い顔で仕方なくを強調してるけど……この間の酔っ払って俺を連れ込んだ事を思い出してるのか? だって俺何もしてないぞ、芋料理食べただけだし……
「先生!!私も泊まります!!」
妹が先生を睨みながら自分も泊めろと言い出す、まあ言うだろうな……
「え! あ、も、勿論よ、じゃあ皆で……」
少し残念そうな雰囲気でそう言う先生、何で残念そうなんだ? 狭くなるから? そんな狭いマンションじゃなかったけど……
「しょうがないそれしかないな、とりあえず栞は一度家に帰って着替えを、母さんがいたら許可もな、先生は会長の家から着替えと手がかりを探してきて、俺と会長は人気がなくなるまでここで待機するから」
「えーーーーお兄ちゃん会長と二人きりでイチャイチャするんでしょ!」
「しねえよ、会長にとって俺は今や兄だろ?、すっかり妹気分になってるし、しかも子供になってるんだ、イチャイチャとかするか?」
「兄とイチャイチャしたくない妹なんていません!!!」
妹が俺の腕をぎゅっと胸に抱き、力強くいい放つ…………それはお前とラノベの妹だけだ!
「………………まあ、いいや、とにかく頼むよ、イチャイチャとかしないから、先生も、そこで引いてないでお願いします……」
「はーーーーい」
「はーーーーい」
さあ、とりあえずここに誰も来ない事を祈って……今はただ時間が過ぎるのを待つだけ……
色々ありすぎた夏休みが終わってようやく平穏な日が始まると思った途端にこれか……
俺の腕にしがみつく会長を見て、はああああっと大きくため息を漏らした。
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