石焼鍋短編集

石焼鍋

文字の大きさ
上 下
2 / 3

温もり

しおりを挟む
目を開けるとそこは一面の雪原だった。
ああ、そうか。私は彼氏とスキーに
来ていたんだっけ。
寒さが痛い。
どうやら吹雪が近づいているらしい。
スキー場内の人はもうほとんど屋内に
移動したようだ。
ふと、左手が暖かいことに気づく。
横を見ると、そこには彼がいた。
彼の手の温もりかと思って
地面についた左手を見るー
と、そこに彼の手はなかった。
いや、そもそもそこに雪原など
広がってはいなかった。
広がっていたのは私の血だ。
左手はその生温い血の海に浸かっていた。
次第に意識が薄れてきた。
瞼が完全に閉じ切るまでの間
彼氏の声だけが響いていた。
しおりを挟む

処理中です...