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秘密のB坊工場 続編

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「B坊社長。」

化けの皮がはがれても強がるB坊がかわいそうだったので、テケレケ君はB坊の社長ごっこに付き合ってあげることにした。

「何だね、テケレケ君。」

相変わらず、B坊の態度は偉そうだった。


「B坊社長!この会社では、どういった物を作っているのですか?」

「うむ、良い質問だね。B坊工場株式会社は顧客のニーズに応じて小さな物から大きな物まで色々な物を作っている会社だよ。ワッハッハハッハー。」

「そうなんですか。」

微妙に分かりにくい回答だった。


「B坊社長!小さな物とは具体的に言って、どんな物を作っているのですか?」

「やはり気になるかい?小さな物と言えば、精密機械に使われているネジやワッシャーといった小さな部品だね。ワッハッハハッハー。」

社長と呼べば、B坊は喜んで何でも答えてくれた。


「B坊社長!それでは、大きな物は何ですか。」

「大きな物かい?う~ん。たくさんあるけど1つだけ挙げるとしたら、やっぱりロケットかな。ワッハッハハッハー。」

「ロケット!」

「声が大きいよ、テケレケ君。企業秘密だから、あまり多くの人に話したりしたら駄目だよ。取材や見学が殺到して、対応に困っちゃうからね。ワッハッハハッハー。」

B坊の口から想像していた以上に大きな商品名が飛び出て、テケレケ君はビックリした。


ロケットと言われて大気圏を突破して宇宙まで飛んでいくロケットを想像したが、勘違いしてはいけない。

先程、B坊は小さな部品を作っていると話をしていた。

小さな町工場の技術が、実は宇宙開発を支えている。

夢のある話だ。


「B坊社長、ロケットに使用されているどの部分の部品を作っているのですか?」

「何を言っているんだ!テケレケ君。」

あれ、おかしなことを言ったかな?

「ロケット本体に決まっているじゃないか。」

「ロケット本体!」

一気にスケールのデカい話になった。


様々な民間企業が宇宙ビジネスに参入しているが、最先端の宇宙開発は国家的プロジェクトだ。

テスト用の小さなロケットを作るだけでも、莫大な予算が必要になる。


「ええっ~と、ロケット花火とかペットボトルロケットですか?」

「バカにするな!ロケットと言ったら、宇宙船のロケットに決まっているだろ。」

「そうですよね。」

信じられないが、B坊は宇宙船だと言った。

宇宙船は、人が乗って宇宙空間を飛行できる乗り物のことだ。


「なんだい、その疑うような目は!もしかして、ボクの話を信じていないのかい。」

テケレケ君の疑念が、顔に出ていたのだろう。

B坊は敏感に反応してきた。

「滅相もございません。」

「いや、その目は信じてないね。口で説明しても分からないのか。」

B坊は、唇を噛んで悔しがった。

テケレケ君は丁重な言葉で受け答えしたが、普段見せないその態度はB坊を余計にイラつかせた。


「アッ、良い物がある。」

B坊が、何かを見つけた。

「ちょっと待ってて。」

そう言うと、B坊は新聞や本棚が置いてある展示スペースへ走って行った。

「はあはあはあ、これが我が社のB坊ロケットだ。」

急いで戻って来たB坊が手にしていたのは、一冊のパンフレットだった。


パンフレットの表紙にはロケットの写真と一緒に、大きな文字でB坊ロケットと印刷されていた。

まるで、まとまな経営をしている健全な会社みたいだ。

まとも過ぎて、逆に怪しい。

テケレケ君は、出資金詐欺に使用されるのではないかと不要な心配をしてしまった。

それぐらい、精巧に作られた本格的なパンフレットだった。


テケレケ君がパンフレットをペラペラとめくって見てみると、たくさんの種類のロケットが紹介されていた。

パンフレットには製品名・型番・仕様に加えて、スペックや用途・コストパフォーマンスや開発コンセプトなどの詳細情報まで書かれてあった。

用途に分かれて短距離から長距離までの種類があり、64発連続発射タイプの珍しいロケットまであった。

空気抵抗が少ない無駄を省かれた美しい流線形のデザインのロケットは、勢いよく遠くまで飛びそうだ。

唯一不満があるとしたら、価格が時価(要相談)と書かれており具体的な金額が分からなかったことぐらいだ。

っとパンフレットを見ていても、飽きることはない


「これ、ミサイル(爆弾)だよね。」

「ロケット(宇宙船)だよ。」

B坊は宇宙船だと主張するが、どう見てもロケットはロケットでもロケットミサイル(兵器)の方だった。


「B坊はロケットと言っているけど、このロケットは小さいから人が乗ることは出来ないだろ。」

「テケレケ君の目は節穴かい?パンフレットの説明文に無人ロケットと書かれているだろ。」

「あっ、本当だ。」

宇宙空間の観測や惑星探査を目的とした宇宙探査機が打ち上げられている。

パンフレットには大型ロケットも掲載されていたが、テケレケ君の見ていたのは探査用の無人小型ロケットのページだった。


「ロケットミサイルだと思ったけど、攻撃力がない無人ロケットだったのか。」

「いや、我が社では顧客のニーズに応じて悪魔や悪霊に対抗するための攻撃タイプのロケットも製造販売しているよ。」

「それ、本当にロケットなの?」

「ほら、パンフレットの後ろの方にも載っているだろ。」

警察に逮捕されないのか?

B坊が胡散臭いのは今に始まったことではないが、製造や販売が許可されているのか疑いたくなる話だ。

物騒な話だが、テケレケ君はB坊の言葉を聞いてホッと胸をなでおろした。


「そうなんだ。でも、悪魔や悪霊限定のロケットだから人間には害がないんだね。」

「バカ言っちゃいけない。」

「?」

「人間に効果がない物が、悪魔や悪霊に効くわけないだろ。当然、人間にもダメージを与えるに決まっているだろ。」

あくまで悪魔に対抗するロケットだとキレイごとを言っているが、使い方を間違えると大変なことになる商品だった。

B坊が、だんだん悪魔のように見えてきた。


「大丈夫。大切なのは、使う側の問題だ。取引相手には気を付けて販売しているから、問題ないよ。」

「問題、大ありだよね。」

テケレケ君は、B坊の目を見た。

B坊の目は、工場排水が垂れ流しされたドブ川のように濁った目をしていた。

大金に目がくらんで、平気で悪魔に魂を売りそうだ。

全然、大丈夫ではなかった。

この時、テケレケ君は全てを理解した。


これまでのB坊の話が全て真実だとすると、この会社の社長はB坊で間違いない。

社長と言えば、会社のトップだ。

悪の組織の親玉の可能性が高い。

今度の敵は悪のロボット軍団だと思っていたが、真の敵はB坊だった。


「B坊が、悪の組織の親玉だったのか!」

「何言ってんの。今回は、ボクは本当に関係ないからね。」

B坊は否定したが、B坊の言葉を信じてはいけない。

B坊工場株式会社のことを忘れていたのと同じように、悪の組織のことを忘れている可能性だってある。


「おいおい、ボクが悪の組織の親玉?そんなわけないだろ。」

「とぼけるのも、いい加減にしろよ!」

「証拠がないのに、ボクを悪者扱いにするのは止めてくれないかな。」

「状況証拠は、揃っているだろ。」

「状況証拠だけで犯人にされたら、警察と裁判所はいらないね。」

「正直に言え!忘れているだけだけで、本当は悪の組織の親玉なんだろ。」

「神であるボクに誓っても良い。今回の件に関して、ボクは本当に無関係だ。」

B坊は往生際が悪く否定したが、テケレケ君の追及が終わることはなかった。


「ハッハハッハー。よく来たな、貴様ら。」

どこからか、高らかな笑い声が聞こえてきた。

「誰だ?」

B坊とテケレケ君が声のする方向を見ると、ゆっくり階段を降りて来る人物がいた。

「お、お前は・・・。」

B坊が、驚きの声を上げた。

テケレケ君は、またB坊の知ったかぶりが始まったと思った。

「お前は、ブロッケリー博士。」
「B坊社長、お久しぶりです。」
違った。
二人は知り合いだった。


「B坊の知り合いなの?」

よく考えると、B坊に顔と名前を覚えられていることはスゴイことだ。

B坊の知り合いをまともに紹介されたことは、今までに一度もない。

それだけブロッケリー博士は、B坊にとって大切な存在だということが分かる。


「ああ。彼の名は、ブロッケリー博士。B坊工場株式会社の開発責任者だ。」

ブロッケリー博士は、博士と言った感じの賢そうな人だった。

研究者らしく清潔な白衣を身にまとった白髪頭の初老の男性だ。

ブロッケリー博士の頭脳が、B坊工場株式会社の発展に貢献していることは容易に想像できた。


「テケレケ君に分かりやすく紹介すると、B坊ロケットの開発者だ。」

「メチャクチャ危ない人じゃん。」

B坊ロケットは対外的に宇宙船だと言って販売されているが、テケレケ君の見解ではロケットミサイル(爆弾兵器)だ。


「ブロッケリー博士が、真の黒幕なのか?」

「何を言っているの?そんなわけないだろ。」

B坊はブロッケリー博士のことを信じて疑わないが、今回の件とブロッケリー博士が無関係だとは思えない。

B坊とブロッケリー博士が共謀して悪だくみしていたと言われた方が、まだ信じられる。


「悪の組織の親玉かどうかは、ブロッケリー博士に聞けば分かるだろ。」

「そんなの聞いても、素直に答えてくれるわけないだろ。」

「ブロッケリー博士、おまえが悪の組織の親玉か?」

「そうじゃ。ワシが、悪の組織の親玉じゃ。」

「「エッ?」」

「今、何て言ったの?」

「ワシが、悪の組織の親玉じゃ。」

聞いても無駄だと思ったが、ブロッケリー博士はあっさりと答えてくれた。


「ウソだ!ウソだと言ってくれ、ブロッケリー博士。」

B坊に深い悲しみが押し寄せた。

「ブロッケリー博士が悪の組織の親玉だと言うのは分かったけど、どうしてロボットを使ってB坊を襲ったりしたの?」

「そうだ!なぜ、ブロッケリー博士がボクを狙ってくるんだ!」

「それは簡単なことじゃ。ワシの夢である世界征服を実現するためには、B坊社長が最大の障害になるじゃからじゃよ。」

B坊に個人的な恨みがあって命を狙ったわけではなく、ブロッケリー博士の目的はあくまで世界征服だった。


B坊さえ倒せば世界を手に入れることが出来るというブロッケリー博士の見解は、あながち間違いとは言い切れない。

B坊は、平和を脅かす敵と何度も戦い世界を救っている。

B坊がいなかったから、とっくの昔にこの世界は滅亡していただろう。

この事実を知っていたら、絶対にB坊と敵対しようとは考えない。

B坊を倒すためにロボット軍団を送り込んでいたブロッケリー博士なら、知っているはずだ。

テケレケ君は、ブロッケリー博士の強気な言動が気になった。


「B坊社長、今更じゃな。あなただけは、ワシの夢が世界征服だと知っているはずじゃ。」

「ブロッケリー博士はああ言ってるけど、B坊に心当たりはある?」

「ボクは知らないよ。ブロッケリー博士の勘違いじゃないか?」

「フッ。」

ブロッケリー博士は、笑った。


「何がおかしい、ブロッケリー博士。」

「ワシが入社試験の履歴書の『あなたの夢』の欄に、世界征服と書いていたのを忘れたわけじゃあるまい。」

「アッ。」

「本当なのか?B坊。」

「ああ、本当だ。今、思い出した。」

履歴書に世界征服と書く方もどうかと思うが、それを知っていて採用する会社の経営者(B坊)もイカレテいると思う。


「どうしてブロッケリー博士なんか採用したの?」

B坊が採用しなければ、ブロッケリー博士は世界征服を実行に移すことはなかったかもしれない。

「世界中の制服を集めるのが夢の世界『制服』だと思ったんだよ。」

せいふく違いだった。


「普通、制服と征服を間違えるか?」

「だって、ブロッケリー博士の趣味がコスプレだったんだもん。」

B坊が、ほおを膨らませながら言った。

コスプレか。

まじめな就職面接でコスプレの話をしたら、印象に残るかもしれない。


「そうは言っても、面接そっちのけでコスプレの話をしたわけではないだろ。」

「いや。面接そっちのけで、制服やコスプレの話をしていたよ。」

「それ、面接じゃないよね。」

「確かにワシは履歴書の趣味の欄にコスプレと書き面接ではコスプレの話しかしなかったが、B坊社長が勝手に勘違いしただけじゃろ。」

「エッ、本当なの?」

前代未聞の面接だ。

面接官と求職者の2人が本当だと言っているのだから、間違いはない。


『あなたの趣味』:コスプレ

『あなたの夢』 :世界征服

これが履歴書に一緒に書かれてあったらコスプレで世界征服すると、B坊でなくても勘違いするかもしれない。


「B坊社長、邪魔なあなたは今ここで死んでもらう。」

ブロッケリー博士が、急に攻撃的な口調になった。

「クッソー!ブロッケリー博士、よくも裏切ってくれたな。」

B坊が、急に怒り出した。

「コスプレマニアだと言っていたのは、ボクをダマすためのウソだったのか!」

B坊が血の涙を流し、怒っている。

こんなに怒っているB坊は見たことがない。


「ブロッケリー博士、答えろ!二人でコスプレについて熱く語ったのは、ウソだったのか?」

信じていただけに、憎しみも大きかった。

よほど悔しかったのだろう。

B坊の怒号は、さらに続いた。


「コスプレは他人に着せて楽しむより、自分で着て楽しんだ方が興奮すると熱く語っていたじゃないか。」

「その言葉に、ウソはない。」

「ウソつけ。言葉では何とでも言える。本当だと言うなら、証拠を見せてみろ。」

「良いじゃろう。ワシの本気をご覧くだされ。」

ブロッケリー博士は、バッと白衣を脱いだ。


「ゲッ、ナース服。」

白衣の下から現われたのは、ナース服を着たブロッケリー博士の驚きの姿だった。

ブロッケリー博士は有名コスプレイヤーを凌駕するポーズを決め、ほほ笑んで立っていた。

ブロッケリー博士は、確かな証拠を見せつけた。


「変態じゃねーか!」

ブロッケリー博士の真実の姿を見たテケレケ君は大声で叫んだ。

「信じてたよ、ブロッケリー博士。」

B坊は、涙を流して喜んだ。


テケレケ君の本能が、今度の敵は危険だと告げている。

出来たら、これ以上はブロッケリー博士と関わり合いたくない。

もし知り合いと出会ったら、ブロッケリー博士とは無関係だと全力で主張したい。


「ブロッケリー博士の本気にボクも答えよう。」

B坊も、負けじと警備員の服を脱いだ。


「ゲッ!ナース服。」

目の前にナース服を着た男が2人立っている。

警備員の服を脱いだら、下にナース服を着ていた。

よくあることだ。

B坊もまたブロッケリー博士と同様に、ナース服のコスプレ愛用者だった。

「ワシの目に狂いはなかったようじゃな。」

B坊の姿を見て、ブロッケリー博士は涙を流して喜んでいた。


「これで互角だな。こんなこともあろうかと思って、服の下にナース服を着て来て正解だったよ。」

「お見事ですじゃ。似合っておりますぞ。」

「お前もな。まぶしいぜ。」

「フッフッフッ・・・。」

「ふっふっふ・・・。」

「ハッハッハッー。」

「はっはっはっー。」

B坊とブロッケリー博士は、お互いを称賛し大きな声をあげ笑い合った。

ナース服を着た変態が2人に増え、テケレケ君は2人の会話について行くのにやっとだった。


B坊とブロッケリー博士は、無言のまま火花を散らし見つめ合っていた。

ナース服を着た2人の男が対峙した以上、もう誰も2人の戦いを止めることはできない。

テケレケ君も、戦いを止めようとは思わなかった。

『神』を自称するB坊と超帝国の血を引くブロッケリー博士の壮絶な戦いが今、始まろうとしていた。



こうして、世界に平和が訪れたのだった。

めでたしめでたし。
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