異世界の神性と本懐と僕と女の子と

inoino

文字の大きさ
30 / 40

第30話 聖騎士と僕の

しおりを挟む
 聖騎士に会う日となった。僕らはリンを宿屋において出かけ、スーネたちと合流してこの町の南側の高台に向かった。その高台はこの町の代官が持つ土地の一部となっており、紹介がなければ入れないようになっている。そしてこの高台に入る際に紹介状が必要になっており、基本部外者は入れない。なので周囲に聞かれたくない話をするときなどはピッタリな場所となっていた。

 僕らはヘレナさんから預かっている紹介状を使い、高台に入っていった。そこは広場があり、この町の眺めを一望できる場所だった。そしてテーブルと椅子が置かれ、三人の騎士が僕らを待っていた。

 先頭にいるのは噂の聖騎士である。この町に入ってくるときと同様の姿で微笑みを浮かべ、僕らを歓迎している。そしてその後ろにいる二人は、僕と同じくらいの年齢の女の子の騎士と少し年老いた騎士である。女の子のほうは、身長が僕よりも低い。聖騎士と似た金髪を持ち、幼い顔つきをしている。だがそのかわいらしい顔に反して、僕らを軽く睨んでいた。もう一人の騎士は男で、少し顔に皺があるものの精悍な顔をしている。いかにも年齢とともに経験を蓄えたベテラン騎士の風情である。灰色の髪が渋さを強調し、油断のない眼差しをしている。真面目な表情をしているが、こちらの動きを見逃さないようにしているのがわかった。

 僕らは近づくと聖騎士である彼女が挨拶をする。

「お待ちしておりました、皆様。本日は私の要請により来てくださってありがとうございます。私は聖騎士フィン・フィレノナ・ロナウドールと申します。フィンとお呼びください。以後お見知りおきを」

 彼女は柔らかい物腰で礼をした。それに対し僕らの代表としてルイが挨拶を返す。

「初めまして、フィン殿。ボクは死神様の使徒であるルイスラート。ルイと呼んでね。それでボクの隣にいるのが一緒にゾンビを倒した仁。後ろの二人は案内役で来てるスーネとウービ。よろしくね!」
「こちらこそよろしくお願いします、ルイ殿。ゾンビから村を救っていただいた皆様には感謝しております」

 彼女は僕の目を見て微笑む。

「あとここは公の場ではありませんので、私に敬称は不要です」
「わかったよ。じゃあフィンと呼ばせてもらうね」
「ええ、それでお願いします。それと私の後ろにいるのは部下の騎士の二人となります。私の給仕と護衛をする者たちですのであまりお気になさらず」

 後ろの二人が紹介に合わせて礼をした。その後、聖騎士は僕らを見て当然の疑問を口にする。

「ルイ殿。確か村を救っていただいた方は三人だったと記憶していますが、もう一人はどうされましたか?」

 この質問の答えは用意されている。リンは仮病で朝起きたら腹痛がひどいため、来れないという話で通すことになっている。ルイはその質問に対してやれやれといったふうに答える。

「リンなら今朝からお腹が痛いらしくてね。朝から子どもの癇癪かんしゃくのようにうるさいから置いてきたよ。だから来てない。でもゾンビ退治の話ならリンはいなくてもできるから大丈夫だよ!」
「そうでしたか」

 リンの名前に聖騎士は特に反応しない。どうやら名前は知らないようだ。ただルイはリンのことを必要以上に子どもっぽく伝えた。ルイはこんなときでもイタズラっぽい。僕はルイに横目で呆れた視線を向けた。

 それから僕たちは椅子に座り、ゾンビ退治のことを話した。そのとき当然ルイ以外にも話を振られたが、なぜか僕とスーネとウービの三人が聖騎士の名前を呼ぼうとすると女の子の騎士の目が鋭くなった。どうやら呼び捨てで呼ばせないために目で牽制しているようである。僕はその視線に耐え切れず、聖騎士をフィンさんと呼んだ。だがスーネとウービはその視線を無視して呼び捨てで呼んだままだった。なんならウービはその視線に対してニヤッとして返した。女の子の騎士とウービの視線がバチバチしていた。ちなみにスーネはその視線に気づいた素振りがなかった。

 それともう一つ気になるのが、フィンさんがたまに僕の目を見つめていることがあることだ。僕は自分に話が振られていないときは高台の景色を眺めている。なかなか見ることができない光景だからだ。だがふと気づいてフィンさんを見ると目が合う。僕はそのことを素直に尋ねる。

「あのフィンさん、僕の顔に何かついてますか?」
「…いえ、何もついてません。ただあなたのこの町を見る様子が気になっただけです。まるで初めてのものを見たうちの部下に似ていたので、仁殿はこの町の景色は初めてなのがわかったのです」
「?」

 彼女は女の子の騎士をちらっと見てそう言った。僕はこの町の、正しくはこの世界の景色は初めてである。ゆえに正確な観察眼であるといえる。

 フィンさんは僕を見て、僕の持つ槍を見て、さも今思いついたかのように言う。

「…そうですね。せっかくの機会ですから、稽古をしていきませんか?今回ここに来ていただいたせめてものお礼です。この場は北側の森から来るモンスターが町に入ってきた時の対策本部として使えるように広くなっています。それに私はこう見えて聖騎士の一人ですし、あなたは冒険者。経験を積むという点では良いのではないでしょうか?」

 確かに聖騎士の実力は気になる。だが怖い気持ちもある。彼女の今までの振る舞いには品がある。ただし隙はない。僕は歴戦の戦士でもなければ勇士でもないがそう感じた。だからフィンさんとの稽古には消極的である。だがそんな僕の気持ちを無視して、スーネが言う。

「おお!それはいい案だみゃ。聖騎士と戦えるなんて滅多にない機会だから経験を積むべきみゃ。仁の師匠としてその稽古、いや決闘を許可するみゃ!」
「!」

 何でスーネが許可するのだろうか。しかも稽古じゃなくて、決闘になってるし。騎士において決闘とは神聖なものではないのか。そんなのはやりたくない。だが僕以外の三人はせっかくの機会だから経験を積むべしという意見で一致した。

 高台の広場で僕とフィンさんは互いに向き合う。僕は槍を構え、フィンさんは剣を抜く。彼女を見ると余裕そうな目をしている。審判のルイは大鎌を持ちながら立つ。お互いに準備が出来たことが確認出来たためか、フィンさんが言う。

「これは稽古です。仁殿から来てください。それと私は加護を持ち、神性力を扱います。そのおかげで大抵の傷はすぐ直りますので全力でお願いします」
「…わかりました」

 やはり彼女は僕より強いようだ。でなければ稽古にはならない。僕は胸を借りるつもりで答えた。

 僕はあれからルイやスーネたちに訓練をしてもらって、槍や神性力の扱いが少しずつ上達した。神性力も意識すれば漏らすことはなくなったし、自分の体の中の神性力を認知できるようにまでなった。そのおかげで神性力が血液のように体を巡っているのが理解できた。だから今はその流れを加速させることで身体能力を上げることができるようになっている。自分は以前より間違いなく強い。それが実感できていた。とはいえルイに言わせるとまだまだ基本も出来ていないらしいけど。

 僕はその神性力による身体強化をして、突っ込む。そしてその勢いで槍を払う。彼女はそれを剣で受け止める。ギィィンと刃と刃の音が響く。僕はそこで思わず目を見開く。僕は全力を込めて槍を横に払ったが、受け止めたフィンさんの剣が動かない。僕は受け止められた後も力を入れ踏ん張っているが、動かない。彼女は澄んだ目で僕を見ている。まるでそれで終わりかと問いかけているようだ。

「はぁぁぁぁ!」

 僕は再度気合を入れ、槍を振るった。だが彼女はその全てを受け止めた。力で、技術で負けている。まるで要塞を相手にしているようだ。彼女はそれから受けるだけでなく、攻撃もしてきた。僕の槍裁きを受けて僕の力量を理解したのだろう。僕が受けることが出来ないぎりぎりの力で剣を振っている。僕はそれを必死で防いだ。彼女はゆっくりとゆっくりと歩いてくる。僕はそれを止められない。ただ間合いを詰められたくないため、彼女の歩みに合わせて後退することしかできない。そして気づいたら、息切れをして汗をかいていた。そのタイミングで声がかかる。

「やめ!」
「はぁはぁ…」

 ルイの声が聞こえ、緊張の糸が切れる。僕はかなり消耗したが、フィンさんは違う。汗一つかいてない。その後、僕はフィンさんに稽古のお礼を言った。そして最後にフィンさんが『行方不明事件のことで何かわかれば、ご助力をお願いします』と言って、その場は解散になった。

 僕らが見えなくなるまでフィンさんはこちらを見つめていた。それが印象的だった。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから

渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。 朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。 「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」 「いや、理不尽!」 初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。 「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」 ※※※ 専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり) ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...