魔獣の姫に黒の騎士

すずひも屋 小説:恋川春撒 その他:せつ

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サナリアとガルゴ1

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ウロボロスに帰ってきた二人は、密やかに時の人となっていた。
最初に気が着いたのは魔道第八の獣人職員だった。
『えぇ、それはもう。未だかつてガルゴ団長の匂いがあそこまで着いている恋人なんて見たことも無い位にどこもかしこもガルゴ団長の匂いがベッタリと着いてました。』とは獣人職員達の話。
では、ガルゴの方はどうなのかと、確かめに行った騎士団獣人メンバーが目にしたのは、が込め直されたガルゴ団長の首飾りだった。
もちろんサナリアの匂いも誤魔化し切れない位着いていた。
「とうとう団長に本命が!」
昼下がり、食堂で副団長のバルと向かい合い昼食を取っていた飛行隊総隊長のベイブリッドが言うと
「イヤ、分からんぞ。よく考えてみろ、パレードの用意で忙しいこの時季に、アルテミナ研究員はともかく団長まで長期休暇を二週間もとって行方を眩ませたという事は、十中八九ガルゴ団長は発情期だったって予想できる、そうなると・・・・」
「あー発情期の後の恒例の失恋!。でも、いつもみたいにキノコ生えそうな程落ち込んでませんよ?。」
「そこな!。でもよ、出来立てホヤホヤの恋人同士がこんな近くに住んでるのに、二日も会わねぇなんて事あり得無くね?。」
ウロボロスに帰って来てからこの二日、二人は全く会ってなかった。
サナリアは自室に殆ど閉じこもり切りで出て来ないし、ガルゴは研究室が開いているかどうかだけ確認する程度でサナリアの部屋までは押しかけようとしなかった。
「えーじゃぁ。まさかの『発情期間中の期間限定のお付き合い』ってやつですか?。」
「しかし、そうなると団長の首の魔石の魔力がアルテミナ研究員の魔力でマンタンになっているのはちょっと説明がつかないというか・・・・。」
コソコソと話す二人の背後に大きな影がのっそりと現れて言った。
「少なくとも俺は熱烈な愛の告白の末に結ばれたつもりなんだがな。」
「「わぁ、ほんにん!」」
二人ががふざけて大げさに驚いて見せる。
「未だ、振られてネェから。未だ!」
面白半分に話す二人の後ろに覆いかぶさる様に立ったガルゴは、二人に捨て台詞を言う様に言い残すと空の盆を片づけて食堂の出口に向かって行った。
本当は放っておこうと思ったのだが、つい言い返してしまった。
「・・・自分で未だとか言っちゃった。」
「まぁ、今までの経験を考えるとな。ありゃ振られる日も近ぇな。そっとしておいてやろうぜ」
「何だ、酒の肴ももうお終いですか。団長に苗字が出来る日も近いと思ったのになぁ」
去り際、ガルゴの耳にベイブリッドのそんなボヤキが聞こえて、ガルゴは耳だけピクリと動かした。
心の中で苦笑する。
「全く、他人の恋愛を面白がりやがって。苗字なぁ。俺が苗字を持てる日なんて来るのかね。」
ガルゴには苗字が無い。この世界では、苗字は血統を表す物としており、名前を覚える前に何等かの理由で家族を失った者には最初苗字が無い、通例、孤児院などで成人を迎えると祝いとして独り立ちの時の為に孤児院の名称を苗字として贈られるが、ガルゴは成人前に出てウロボロスの武闘部門に就職してしまったため、苗字を得る機会が無かった。
相応の地位についた今なら自分で考えるなり、金を出して『名付け屋』という稼業の者に考えてもらい登録する事も出来るが、作戦で偽名を名乗る事が多いガルゴは特に自分にそこまでして苗字を持つ必要性を感じられなかった。
昔、陸行隊の下っ端だった頃に後輩が『じゃぁ、結婚する時相手の苗字に入っちゃえば良いですよ。』と言って以降、ガルゴに恋人が出来ると半分ネタとして苗字の話が上がるようになっていた。
ガルゴに苗字が出来た事は無い。いつも発情期の後に愛想を尽かされて捨てられるから。
今度こそは、と、ほんの少しガルゴは期待していたが、サナリアはスライムの一件以来、全くガルゴに連絡して来ない、ガルゴの常識では、なり立ての恋人同士というものは、よほどの事が無い限り、連絡なり会うなりする物なのだが、サナリアには違うのか、やはり熱烈に求めすぎていつもの様に愛想を尽かされたのか。
向こうから来ないのならば此方から行けば良いという話も有るが、帰ってきているのに『あの研究バカで有名なアルテミナ研究員』が研究室を閉めているとなると、本当に何か忙しいのかとも思え。寮の部屋までは行けずにいた。
しかし、不安は募る。そういえば、『唯一の正解』とは、交際を了承してもらえたという意味では無かったのだろうか・・・・。
団長室に一人戻っり思わずガルゴは呟きを漏らした。
「やっぱ、俺、また振られるのかね?」
そう呟いた直後に、ガルゴの耳にサナリアの足音が廊下の向こうから聞こえて来た。

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