魔獣の姫に黒の騎士

すずひも屋 小説:恋川春撒 その他:せつ

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サナリア・アルテミナとリリィ・ブラック9

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岩盤帯を砕ききった所で、そろそろ帰らなければウロボロスの就業時間に間に合わない時間になった。
急ぐほどではないので、サナリアの様子を確認しながらノンビリ歩いてサナリアの元へ向かった。
リリィが迎えに来るだろうと予想しているらしく、サナリアはソワソワとしながら多少研究設備の片づけ等をしている様だった。
一通り片づけ終わったのだろう、ソファーに寝そべってウトウトとし始めた。
リリィの口元がゆるむ、今日は久しぶりの研究に没頭しているサナリアを机から引きはがす作業はなさそうだと機嫌よくサナリアの居る魔道部棟に向かった。
異変が有ったのは、リリィがウロボロスの正門に差し掛かった時の事だった。
サナリアの研究室が開いて、誰かが入ってきた。
病み上がりで体力が落ちているのか、リリィ程で無いにしろ、用心深いサナリアが人の気配に気づかず眠っている。
場所はウロボロス内、よもや危害が加えられる事は無いだろうが、以前の女性騎士団員の例も有る。人間嫌いと有名なサナリアの研究室に了解を得ずに勝手に入って来る様な輩だ安心は出来ない。
門で入出の度に行う身分確認が終わったとたんリリィは全速力でサナリアの元に駆け出した。
入り口を無視して一直線にサナリアの研究室を目指した。
幸いサナリアの研究室は二階、リリィなら窓から入れる。トラップを無視すればだが、リリィはすれ違う他の職員の驚く様子も無視して大剣二本を引き抜くと発動し始めたサナリアのトラップを物ともせずに突っ込んだ。
窓近くの木を駆けあがり、太い幹をばね変わりにして空中に躍り出る。その勢いを利用して体を捻って回転しながら発動した魔道トラップを右手の大剣で切り捨てて、そのまま左で持った大剣で窓を大破させて部屋に飛び込んだ。
侵入者とサナリアの間に仁王立ちになって、建物が揺れる程の本気の咆哮を上げた。
侵入者は、あまりの恐ろしさに腰を抜かしてその場に座り込んだ。
侵入者の両腕から、持っていた物がこぼれ落ちた。
『紫スライム』とナイフだった。
「・・・ひ。」
侵入者が引きつった声を漏らす。
「お前・・・第二騎士団の・・・ザクスだったか。」
侵入者は、ガルゴリリィの取り巻きの一人、第二騎士団の飛行隊の中堅隊員で、例の女性隊員に嫌がらせをした疑いで、昔リリィの下の第一から第二に移動になった男だった。
「紫スライムを扱うとは・・・また勇気が有りますねぇ。貴方、飛行隊でしたっけ?魔獣取り扱いの知識はお持ちですか?」
リリィの後ろからその様子を覗き込んでサナリアが溜息交じりに呑気そうな口調で言った。
「ちゃんと、革袋に詰めて運んできましたか?」
「・・・・え?。」
戸惑いサナリアを見つめるザクスの両手は紫スライムの分泌液に塗れていた。
上着の中にでも入れて来たのかシャツの腹部分にもシミが出来ている。
「・・・・・・皮膚吸収って言葉知ってます?」
サナリアが哀れな物を見る目でザクスを見ながら言った。
数分後、ザクスは素手で持ってきた紫スライムの催淫液で自滅して、さらにリリィに紫スライムをボトムの中に突っ込まれ。アンアン喘ぎながら第二騎士団の陸行隊に担がれて出て行った。
リリィはリリィで設備破壊の叱責を受け、始末書を書く破目になった。
「御免、罠張ってたんだ。最近よく不審な気配がドアの外でウロウロしてたから。リリィが遠出する時に仕掛けて来るかなって思って。知らせておけば良かったですね。」
サナリアが始末書を書くリリィの背中に頬を着ける。
「謝らなくて良い、知ってても同じ事だったさ、窓から入ろうとした時いつも俺には発動しないハズのトラップが発動した時点でおかしいとは思ったんだ。ただ次からは頼むから事前に教えてくれ。あいつは曲がりなりにも元第一騎士団だった男だ、心臓に悪すぎる。」
リリィがペンを置いてサナリアを見つめる。
サナリアは困った様な微笑みでもう一度
「すみません」
と言って、リリィにキスをした。
リリィがそっと掴んだサナリアの手首は、やはり以前よりもずっと細かった。


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