上 下
35 / 110

ルークの初恋 3-7

しおりを挟む
明確にルークの勘が『この人は恐い』と言っている。
「恐れ多いです。主人を迎える用意をしなければならないので、失礼いたします」
わざとらしくても良い、とにかく早く離れよう。そう思って再度礼をとって素早く踵を返そうとしたその腕を、あっさり掴まれた。
身体能力の低い灰色蜥蜴族と勲章をジャラジャラアと胸に下げる実力派騎士(たぶん)では遊びにも成らなかったろう。
「まぁ、待ってよ。『主人』て、君さっき『自分は彫金職人』だって言ってたよね?」
好奇心を隠しもせず、青年はルークの腕をがっちり掴んで顔を覗き込んで来た。
「・・・嘘じゃ有りません。本職は彫金職人です。ただちょっと・・・」
そういうと、青年は大方の事を察したらしく、『ヴェフ』っと妙な息を噴出してルークの腕を掴んだその手はそのままに、ルークから顔をそむけた。
肩が小刻みに揺れている。ルークの腕を掴んでいる腕までがプルプルと震えていた。
爆笑しそうなのをこらえているのだ。
ルークは憮然としながらも、感情を隠さなくて良い程身分の高い人か職業なんだな、と心の中で判断した。
いよいよ、ルークの警戒心は強くなる。公的立場が高い人物ならば、たとえどんなに腕の立つ武人でも必ず最低二人は警備する騎士なり使用人なりが付いて来ているはずだ。
こんな繁華街を独りで行動している事はまず無い。
それが辺りを探ってもそれらしい者は一人も居ない、という事は最悪裏社会で立場が上の人物という恐れがある。関わりたくない、せっかく、せっかくあの地獄の様な貧民街から抜け出したのに・・・。

しおりを挟む

処理中です...