沼地の個人医は鬼の次期当主に求婚される

維社頭 影浪

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三十、ナツヒへの客人

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朝、キサラがナツヒの部屋に行くと、ナツヒはすでに起きていて、手紙を読んでいた。

「おはようございます、ナツヒ様」
「おはよう、キサラ」

その横顔はひょうじょうだったのに、キサラを見るとすぐに笑う。
そんな光景になれてしまったキサラの心はもう動かない。

「調子はどうですか」
「今日もキサラに会えて、とても調子がいい」
「お薬は飲めますか」
「もちろんだ」

キサラの差し出す薬を受け取り、ナツヒはそのまま飲んだ。

「キサラ、今日だけど……」

キサラが体の状態を確認していると、ナツヒが言いにくそうに話をする。
面白くなさそうな退たいくつな表情は、キサラが見るいつものナツヒではない。

「今日……客人が来る」
「わかりました。昼のお薬確認はひかえたほうがよいですか?」
「いや、気にしなくていい」

客人。
誰がくるのかはわからないが、キサラの仕事が変わるわけではないらしい。
キサラは客人が誰なのか、気にしないことにした。

「散歩はどうしますか?」
「客人が帰ったあとに」
「わかりました」


 * * *

 
坂城とナツヒの情報を共有してから、自室に帰る途中。
紅家の執事と、客人と思われるこんいろはかまを着た鬼とすれ違う。
とおからでもわかる。
黒い髪の間から、紺色の角。

「あれ、見ない人間だね……」

他の使用人と同様に、廊下の端に寄り、頭を下げる。
しかし、キサラの前でその客人がとまり、頭の上からそんな声が聞こえる。

「今、ナツヒ様を担当しているお医者様です」
「へぇ」

そう言っただけで、興味がなくなったのか、客人はその場を去って行く。
キサラは客人が過ぎ去るまで頭を下げたまま待った。

紺の角と紺の袴。
よく見えなかったが、紺の瞳をしていたように思う。
おそらくあれは、水の鬼、すみ家の鬼だ。
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