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八十、沼地の未来
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「キサラっ!おめでとっ!」
「…早くないですか?」
「墨マサ様っ!」
「全部聞いたよぉ」
診療所の仕事を終え、机で学生とともに古文書を開いていたキサラに声をかけたのは、マサ。
後ろの方で、ここまでの案内を断れなかったアキが申し訳なさそうな顔をしていた。
古文書に苦戦していた学生は、緊張した面持ちで立ち上がった。
キサラがため息をつくところまで、マサは予想していただろう。
笑顔がうるさい。
「ああ、座って座って。緊張しなくていいからねぇ」
学生にそんなことを言ってから、キサラと学生の前にどかっと座る。
「いいねぇ。勉強してるねぇ」
「何の用でしょうか?」
「ん?キサラに会いたくて」
なんてこともない表情でそう言って片目をつぶる。
キサラはわざと大きくため息をつく。
「今のもナツヒ様に報告されるんですか?」
「報告してほしかったら報告するよー」
「面倒なことになりそうなので、いいです」
「僕はそんなキサラを報告しておくけどね」
「そうですか」
前からキサラに会いに来るマサは楽しそうだと思っていたが、今日のマサは最高に楽しそうな顔をしている。
それを認めたくなくてキサラは無視することにした。
「で、今日のご用事はなんでしょうか」
「まぁいろいろだな。その勉強会はいつ終わる?」
「わわわわわたくしの勉強はあとでもいいので!ま、マサ様のご用事の方がだ、大事かと!」
学生が緊張して言い張る。
マサはそれをなだめようとするが、キサラが静かに立ち上がった。
「マサ様。私たちの勉強はあとでもできます。マサ様が先ですね」
「そうか?」
残念、といわんばかりに、両手を挙げ、マサも立ち上がった。
「外でいい?」
「はい」
「アキ、君もだ」
「わ、私もですか?」
キサラ、マサ、アキで小屋から出る。
この数ヶ月で沼地の周囲はかなり変わった。
キサラが住んでいた小屋は、薬の調合や勉強するためだけの場所になった。
患者達はその隣に建てられた新しい場所で、キサラやアキの診察を受ける。
キサラやアキ、大学校の学生達は、もう一つ新しく宿舎で寝泊まりをしていた。
「よくなったねぇ」
「これも墨家のご助力のお陰です」
「がんばった甲斐があったよ」
新しい建物も、小屋の改修も、橋の強化も。
すべてマサが費用や設計、働き手を手配してくれた。
それがあったからこそ、アキは本格的に墨家本邸から沼地に移り住み、学生も長期間滞在するようになった。
「現当主の叔父も興味を持ってくれている。そのうち、様子を見に来るかもね」
「その際は、ご一報いただけるとありがたいです」
現当主となると、シノなどの河童の一族や、この周辺に住む妖怪達も準備したいだろう。
キサラは沼地を眺める。
キサラがこの沼地を初めて訪れたとき、何もなかった。
河童が沼から顔を出して物珍しそうにキサラをみたものだ。
そんな場所が賑わう日がくるとは思わなかった。
「で、キサラはアキにナツヒのことは言ったの?」
「……まだです」
「キサラ先生?何も聞いていないですよ?」
キサラは、問い詰めるようなアキから目線をそらすように橋に目線を走らせる。
「言った方がいいのか、言わない方がいいのか、わからなかったんです」
「ん~アキは、キサラとナツヒの仲は知ってるよね?」
「ナツヒ様はキサラ先生のことが大好きですよね」
「そうそう。それで、ついにキサラはナツヒに落とされた」
「おおおお‼」
なぜそんなすぐに受け入れることができるのか。
キサラは両手で拍手するアキに驚いていた。
「ぎ、疑問に思わないの……?」
「何をですか?」
アキはきょとん、とした顔でキサラを見た。
「人間と鬼、しかも角ありの鬼で次の当主なのに」
「いいじゃないですか!」
アキはキラキラした瞳でキサラに迫った。
「護国を司る鬼は鬼同士で結婚してますけど、この国は人間と妖怪でできてるっていうのに、私は矛盾を感じてたんです!」
「まぁ、そうね……」
「それに、ナツヒ様とキサラ先生はお似合いだな、と思ってたので、嬉しいです!」
「お似合い?」
そう思ったことはなかった。
キサラの脳裏に、あの夜、ナツヒに声をかけた美人な鬼を思い出す。
あちらのほうがよっぽどお似合いなのに。
「ナツヒ様は私に嫉妬したとも聞きましたし。これで私も安心できます」
「あ、そう……?」
何はともあれ。
キサラやナツヒよりも、アキが喜んでいるように見えて、気まずい気持ちになる。
ここまで喜ばれていいのか、と不安が残る。
「…早くないですか?」
「墨マサ様っ!」
「全部聞いたよぉ」
診療所の仕事を終え、机で学生とともに古文書を開いていたキサラに声をかけたのは、マサ。
後ろの方で、ここまでの案内を断れなかったアキが申し訳なさそうな顔をしていた。
古文書に苦戦していた学生は、緊張した面持ちで立ち上がった。
キサラがため息をつくところまで、マサは予想していただろう。
笑顔がうるさい。
「ああ、座って座って。緊張しなくていいからねぇ」
学生にそんなことを言ってから、キサラと学生の前にどかっと座る。
「いいねぇ。勉強してるねぇ」
「何の用でしょうか?」
「ん?キサラに会いたくて」
なんてこともない表情でそう言って片目をつぶる。
キサラはわざと大きくため息をつく。
「今のもナツヒ様に報告されるんですか?」
「報告してほしかったら報告するよー」
「面倒なことになりそうなので、いいです」
「僕はそんなキサラを報告しておくけどね」
「そうですか」
前からキサラに会いに来るマサは楽しそうだと思っていたが、今日のマサは最高に楽しそうな顔をしている。
それを認めたくなくてキサラは無視することにした。
「で、今日のご用事はなんでしょうか」
「まぁいろいろだな。その勉強会はいつ終わる?」
「わわわわわたくしの勉強はあとでもいいので!ま、マサ様のご用事の方がだ、大事かと!」
学生が緊張して言い張る。
マサはそれをなだめようとするが、キサラが静かに立ち上がった。
「マサ様。私たちの勉強はあとでもできます。マサ様が先ですね」
「そうか?」
残念、といわんばかりに、両手を挙げ、マサも立ち上がった。
「外でいい?」
「はい」
「アキ、君もだ」
「わ、私もですか?」
キサラ、マサ、アキで小屋から出る。
この数ヶ月で沼地の周囲はかなり変わった。
キサラが住んでいた小屋は、薬の調合や勉強するためだけの場所になった。
患者達はその隣に建てられた新しい場所で、キサラやアキの診察を受ける。
キサラやアキ、大学校の学生達は、もう一つ新しく宿舎で寝泊まりをしていた。
「よくなったねぇ」
「これも墨家のご助力のお陰です」
「がんばった甲斐があったよ」
新しい建物も、小屋の改修も、橋の強化も。
すべてマサが費用や設計、働き手を手配してくれた。
それがあったからこそ、アキは本格的に墨家本邸から沼地に移り住み、学生も長期間滞在するようになった。
「現当主の叔父も興味を持ってくれている。そのうち、様子を見に来るかもね」
「その際は、ご一報いただけるとありがたいです」
現当主となると、シノなどの河童の一族や、この周辺に住む妖怪達も準備したいだろう。
キサラは沼地を眺める。
キサラがこの沼地を初めて訪れたとき、何もなかった。
河童が沼から顔を出して物珍しそうにキサラをみたものだ。
そんな場所が賑わう日がくるとは思わなかった。
「で、キサラはアキにナツヒのことは言ったの?」
「……まだです」
「キサラ先生?何も聞いていないですよ?」
キサラは、問い詰めるようなアキから目線をそらすように橋に目線を走らせる。
「言った方がいいのか、言わない方がいいのか、わからなかったんです」
「ん~アキは、キサラとナツヒの仲は知ってるよね?」
「ナツヒ様はキサラ先生のことが大好きですよね」
「そうそう。それで、ついにキサラはナツヒに落とされた」
「おおおお‼」
なぜそんなすぐに受け入れることができるのか。
キサラは両手で拍手するアキに驚いていた。
「ぎ、疑問に思わないの……?」
「何をですか?」
アキはきょとん、とした顔でキサラを見た。
「人間と鬼、しかも角ありの鬼で次の当主なのに」
「いいじゃないですか!」
アキはキラキラした瞳でキサラに迫った。
「護国を司る鬼は鬼同士で結婚してますけど、この国は人間と妖怪でできてるっていうのに、私は矛盾を感じてたんです!」
「まぁ、そうね……」
「それに、ナツヒ様とキサラ先生はお似合いだな、と思ってたので、嬉しいです!」
「お似合い?」
そう思ったことはなかった。
キサラの脳裏に、あの夜、ナツヒに声をかけた美人な鬼を思い出す。
あちらのほうがよっぽどお似合いなのに。
「ナツヒ様は私に嫉妬したとも聞きましたし。これで私も安心できます」
「あ、そう……?」
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キサラやナツヒよりも、アキが喜んでいるように見えて、気まずい気持ちになる。
ここまで喜ばれていいのか、と不安が残る。
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