R18/君が婚約破棄するというので、絶対離さないと分からせるまで愛するのをやめない

1, お前なんか婚約破棄だっ！

「エリザリケ・メディス・ド・フローレ！余はこのエルペーニャ王国の王太子として今この瞬間貴様との婚約を破棄する！」

華やかな宴が催されている王宮の大ホールに、余の声が高らかに響き渡った。

ふっ……決めてやった。
婚約者の入国を歓待する舞踏会に美女を連れて颯爽と現れ毅然と宣言する余。
めちゃくちゃカッコイイ。

その証拠に、宴を楽しんでいた者は皆シンと静まり返っている。
余の威厳に言葉が出ないのであろう。

少し向こうに玉座に座ったパパ上が見えた。
顔色がみるみる青ざめていく。
後で怒られるかな。でもパパ上が悪いんだ。
男と結婚しろなんて言うから。
余は嫌だと言ってるのに。

更に相手は成金フローレ大公の庶子だぞ？
いくら持参金が莫大だからって冗談じゃない。
どうせ離婚できるから10年我慢しろとか、10年て何！？もういくつ寝なくちゃいけないのさ！

「悪く思うなよ。余は真実の愛に目覚めてしまったのだ。この美しいミレイナ嬢と出会って！」

隣に立つグリハルド家男爵令嬢のミレイナ……に扮した側近のシュンツがそっと体を寄せてくる。

「嬉しい！ルチアーノ殿下！！愛していますわ！！」

女にしてはハスキーな声で腕にすがりついてくるシュンツ。
まあ、男の裏声だから声はギリギリだけどなかなかの演技だ。
顔もシュンツの元々の美貌ととにかく盛りまくったメイクで愛らしい令嬢にしか見えないはず。
伝統的な細工が施された豪奢な髪飾りを纏った銀糸のような巻き髪が夜会によく映える。カツラだけどね。
よく見ても全然わかんない。よしよし。

少し離れた所で同じく側近のコーツがヒヤヒヤした顔で見守ってるけど、あいつは心配性すぎるんだ。
見よ、全部計画通りに進んでるだろ？

自分たちの作戦の出来を確かめるために、改めて今引導を渡した相手、エリザリケを見やる。

艶やかで夜空が流れているようなブルネットの髪に、涼しげな切れ長の瞳。
肖像画家が目一杯美化して描いたとしか思えない顎の完璧なライン。
驚きに目を見開いているが、その端正な顔の印象は全く崩れない。
美形は驚いても美形か。面白くない。
……いやいや、余の方が断然カッコイイけどね！

「男のくせにわざわざ大好きな金儲けを放り出して、性別まで変えて正妻気取りでこの国に来てもらった貴様には悪いが……」

余が言うと、その場にいた貴族たちがクスクスと笑いだす。
いい感じの悪口をコーツに教わっといてよかった。