30 / 60
30, 何か出てきた
しおりを挟む
未遂ですが、受けが攻め以外のキャラに襲われる描写があります。
ーーーーーーーー
頷いて良いか一瞬迷ったけど、俺にこの状況を嘘で切り抜ける技量はない。
諦めて頷くと、2人は改めて礼をしてくれた。
「あ、お気遣いなく……。」
こんなときにどうしたらよいか分からず、アタフタしてしまう。
「ようこそ我が国にお越しくださいました。暮らしには慣れましたでしょうか。」
「あ、はい。オー、大公様が良くして下さるので。この国は、とても素敵な所ですね。」
俺が無難に返すと、2人は怪訝そうに顔を見合わせた。
な、なんだ?
「あなたは、本当にドロテオ様ですか?」
エディオと名乗った大臣に聞かれて心臓がはねる。
「えっ!な、何故?」
「私の妻はウィンスラントの貴族出身でして、向こうの晩餐会でドロテオ様をお見かけしたこともあるのです。何と申し上げますか、印象がまるで別人で。」
こんなド社交辞令で接しても疑われるって、ドロテオマジでどんだけ非常識なやつなんだ……。
「あ、え!?嫌だなぁ!私はまごうことなくドロテオですって!あはは、あは。あっ、ちょっと用事が……失礼しまーす!」
これは、ボロが出る前に退散しよう。
そう判断した俺は、言うなりきびすを返してその場を後にした。
それからは、反省して部屋を出ずに過ごした。
大臣2人が追ってこなくて良かったよ。もう晩餐会が終わるまで引きこもっていよう。
そう決めて、暇だからベッドに横になっていたらいつの間にか寝てしまった。
コンコン。
無くなった意識が、部屋に響いたノックの音でふと戻った。
オージかな、と思い起き上がって扉を開けにいく。
「開けるのが遅い。」
「へ?」
開いた扉の外に不機嫌そうに立っていたのは昼間に散々悪口を言ったウィンスラントの第二王子で、それを認識する前にぐいっと部屋に押し入られてしまった。王子からは仄かに酒の匂いがしている。
「は?ちょっと、何ですか?」
「昼間にここから出てくるのを見かけたから、来てみたんだ。オズバルドとの逢い引き部屋か?お盛んだな。」
「ち、違います!仕事が終わるのを待ってるだけで……」
「その、俺と婚約していた時と全然態度が違うのが気に食わない。お前、まさかあの呪われた大公に本気で惚れたのか?死ぬのに愚か極まりないな。」
反論しようとしたところで、第二王子に腕を掴まれて力付くでベッドまで引きずられた。
そのままマットに押し倒されて、上から覆い被さられる。
力は相手の方が強いから、逃げたくても逃げられない。それに、すごく怖くて体がすくんでしまった。
「俺にはちっともヤらせなかったくせに、あいつとはヤりまくってんのか?確かめてやるよ。」
ズボンに手をかけられ、引きずり降ろされそうになった。
嫌だと思ったそのとき、急に視界が真っ暗になり、意識を強い力で引っ張られるような不思議な感覚に襲われた。気がつけば、真っ暗な空間の目の前に四角いスクリーンが浮かんでいるような、そんな場所にいる。
スクリーンの向こうには、さっきまで自分がいた部屋の光景が映し出されベッドで揉み合うドロテオと第二王子の姿があった。
「ざけんじゃないよ!私の体に触れて良いのはあんたでもオズバルドでもない!一人だけなんだから!」
スクリーンのドロテオが叫び、思いっきり第二王子の顔を引っ掻いた。それこそバリっと音がしそうなくらいに。
なんだ?ドロテオを動かしてるのは俺のはじゃないぞ。
俺の意識は完全に俯瞰でその光景を見ている。
怯んだ第二王子を思いっきり突き飛ばす光景まで。
そこまで見て、今度はスクリーンに吸い込まれるように体が浮いて強くそっちに引き込まれ始めた。
(ちょっと!信じらんない!何で戻るのぉ!)
そんな叫びと、全身が真っ白な幽体みたいな姿のドロテオとすれ違ったのが一瞬見えた。
次の瞬間には、俺は部屋に戻っていていた。
目の前でうずくまる第二王子が立ち上がる前に、慌ててベッドから起き上がって扉に逃げた。
部屋から出るときに、鳩が目に入る。
「オージを呼んで!」
「カシコマリマシタ!」
部屋を出ようと扉を開けたら、目の前にオージがいた。もう来てくれた。安心して思わず名前を呼んで抱きつくと、抱き留めてくれる。
「何が起きてるんだい?」
緊張した顔でオージが尋ねるのに、何が起きたかを端的に伝える。
「第二王子が襲って来た。」
「なんっ……ヴィグトール殿、どういうことですか。」
部屋の中で立ち上がった第二王子がオージをみる。
「あんたオズバルドか。そんな素顔だったんだな。豚みたいに醜いから隠れてるんだと思った。」
何だこいつ、本当にムカつく!
「ドロテオの言うとおりなら、こちらも黙っていませんよ。」
「そいつが誘って来たんだ。祖国を追放されたような人間の言葉を鵜呑みにするな。」
はぁ!?俺は違うとオージに伝えるためにぶんぶん首を振った。
ーーーーーーーー
頷いて良いか一瞬迷ったけど、俺にこの状況を嘘で切り抜ける技量はない。
諦めて頷くと、2人は改めて礼をしてくれた。
「あ、お気遣いなく……。」
こんなときにどうしたらよいか分からず、アタフタしてしまう。
「ようこそ我が国にお越しくださいました。暮らしには慣れましたでしょうか。」
「あ、はい。オー、大公様が良くして下さるので。この国は、とても素敵な所ですね。」
俺が無難に返すと、2人は怪訝そうに顔を見合わせた。
な、なんだ?
「あなたは、本当にドロテオ様ですか?」
エディオと名乗った大臣に聞かれて心臓がはねる。
「えっ!な、何故?」
「私の妻はウィンスラントの貴族出身でして、向こうの晩餐会でドロテオ様をお見かけしたこともあるのです。何と申し上げますか、印象がまるで別人で。」
こんなド社交辞令で接しても疑われるって、ドロテオマジでどんだけ非常識なやつなんだ……。
「あ、え!?嫌だなぁ!私はまごうことなくドロテオですって!あはは、あは。あっ、ちょっと用事が……失礼しまーす!」
これは、ボロが出る前に退散しよう。
そう判断した俺は、言うなりきびすを返してその場を後にした。
それからは、反省して部屋を出ずに過ごした。
大臣2人が追ってこなくて良かったよ。もう晩餐会が終わるまで引きこもっていよう。
そう決めて、暇だからベッドに横になっていたらいつの間にか寝てしまった。
コンコン。
無くなった意識が、部屋に響いたノックの音でふと戻った。
オージかな、と思い起き上がって扉を開けにいく。
「開けるのが遅い。」
「へ?」
開いた扉の外に不機嫌そうに立っていたのは昼間に散々悪口を言ったウィンスラントの第二王子で、それを認識する前にぐいっと部屋に押し入られてしまった。王子からは仄かに酒の匂いがしている。
「は?ちょっと、何ですか?」
「昼間にここから出てくるのを見かけたから、来てみたんだ。オズバルドとの逢い引き部屋か?お盛んだな。」
「ち、違います!仕事が終わるのを待ってるだけで……」
「その、俺と婚約していた時と全然態度が違うのが気に食わない。お前、まさかあの呪われた大公に本気で惚れたのか?死ぬのに愚か極まりないな。」
反論しようとしたところで、第二王子に腕を掴まれて力付くでベッドまで引きずられた。
そのままマットに押し倒されて、上から覆い被さられる。
力は相手の方が強いから、逃げたくても逃げられない。それに、すごく怖くて体がすくんでしまった。
「俺にはちっともヤらせなかったくせに、あいつとはヤりまくってんのか?確かめてやるよ。」
ズボンに手をかけられ、引きずり降ろされそうになった。
嫌だと思ったそのとき、急に視界が真っ暗になり、意識を強い力で引っ張られるような不思議な感覚に襲われた。気がつけば、真っ暗な空間の目の前に四角いスクリーンが浮かんでいるような、そんな場所にいる。
スクリーンの向こうには、さっきまで自分がいた部屋の光景が映し出されベッドで揉み合うドロテオと第二王子の姿があった。
「ざけんじゃないよ!私の体に触れて良いのはあんたでもオズバルドでもない!一人だけなんだから!」
スクリーンのドロテオが叫び、思いっきり第二王子の顔を引っ掻いた。それこそバリっと音がしそうなくらいに。
なんだ?ドロテオを動かしてるのは俺のはじゃないぞ。
俺の意識は完全に俯瞰でその光景を見ている。
怯んだ第二王子を思いっきり突き飛ばす光景まで。
そこまで見て、今度はスクリーンに吸い込まれるように体が浮いて強くそっちに引き込まれ始めた。
(ちょっと!信じらんない!何で戻るのぉ!)
そんな叫びと、全身が真っ白な幽体みたいな姿のドロテオとすれ違ったのが一瞬見えた。
次の瞬間には、俺は部屋に戻っていていた。
目の前でうずくまる第二王子が立ち上がる前に、慌ててベッドから起き上がって扉に逃げた。
部屋から出るときに、鳩が目に入る。
「オージを呼んで!」
「カシコマリマシタ!」
部屋を出ようと扉を開けたら、目の前にオージがいた。もう来てくれた。安心して思わず名前を呼んで抱きつくと、抱き留めてくれる。
「何が起きてるんだい?」
緊張した顔でオージが尋ねるのに、何が起きたかを端的に伝える。
「第二王子が襲って来た。」
「なんっ……ヴィグトール殿、どういうことですか。」
部屋の中で立ち上がった第二王子がオージをみる。
「あんたオズバルドか。そんな素顔だったんだな。豚みたいに醜いから隠れてるんだと思った。」
何だこいつ、本当にムカつく!
「ドロテオの言うとおりなら、こちらも黙っていませんよ。」
「そいつが誘って来たんだ。祖国を追放されたような人間の言葉を鵜呑みにするな。」
はぁ!?俺は違うとオージに伝えるためにぶんぶん首を振った。
108
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる
尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる
🌟2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟
ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。
――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。
お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。
目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。
ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。
執着攻め×不憫受け
美形公爵×病弱王子
不憫展開からの溺愛ハピエン物語。
◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。
四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。
なお、※表示のある回はR18描写を含みます。
🌟第10回BL小説大賞にて奨励賞を頂戴しました。応援ありがとうございました。
🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる
彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。
国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。
王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。
(誤字脱字報告は不要)
嫌われ魔術師の俺は元夫への恋心を消去する
SKYTRICK
BL
旧題:恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる