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【続編・前編】1

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リクエストの続編です。

傾向: 発情、乳首イキ、連続絶頂
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琴座のベガと鷲座のアルタイル。
夜空に輝く一等星を恋人に例えた昔の人は、相当なロマンチストだと思う。

その2人を隔てているという天の川は帝都ではもう見えない。
街では数年前から夜でも街灯が煌々と光っているからだ。
人間の目ってのは強い光があると弱い光は見えないから、街が明るいと星は見えなくなるんだって麒臣君が言ってた。

天の川が見えなくなった帝都では、織姫と彦星は毎日逢えるようになったのかな。
それとも、見えぬものでもあるんだからダメって、当世流行りの女流詩人なら言うだろうか。

「麟太様、笹はこちらでいいですか?」

七夕の準備中何となく考え事をしてしまって、声を掛けられてはっとする。
目の前では麒臣君の側近の津田川さんと、長年うちの庭師をやってくれてる熊爺が僕の返事を待っていた。

熊爺は大きくて青々とした笹を地面に立てて持っている。

「あっ、はい。僕あんまりお庭の事は詳しくないけど、熊爺が選んだ場所なら間違いないと思います。」

「そんな事ねぇですよ麟太坊。あっしのいない間もちゃあんと出来るだけ庭の手入れしてらしたって、見て直ぐに分かりましたよ。」

普段からいかつい顔の熊爺が声だけは嬉しそうに言う。
話しながらも手際よく笹はいったん縁側に立てかけ、位置決めした場所にスタンドを組み立てる作業に入った。
大きな笹だからある程度飾りつけしてからまた立てるそうだ。

麒臣君のおかげで、屋敷には以前勤めていたほとんどの人が戻ってきてくれた。
もちろん僕にはみんなを雇い直す稼ぎなんて到底ないので、最初は家を取り戻しても今まで通り独りで暮らすつもりだった。
けど、なぜかどこからか僕がまた人を雇い始めたという噂が広がったらしく、それを聞いた元使用人さんたちが勤め先を辞めて続々と屋敷に戻ってきてしまったのである。
困っていたら、麒臣君が助けてくれた。

麒臣君は帰国後の家を決めていなかったそうで、この家に居候して家賃を払うと言い出した。
その提示された家賃が、戻ってきた人をみんな雇い直してもお釣りがくる額だった。

麒臣君ならタダで住んでも良いくらいなんだから、借金を返してもらって家賃まで受け取るなんてとんでもないと僕は言った。
それに、家がないなんて嘘だ。
奥さんいるんだし。
実際再会してからこの家に泊まったのは数えるほどの回数しかない。
けど、津田川さんが手際よくみんなと雇用契約を結びだし、今の仕事を辞めてまで帰ってきたみんなを今更追い返すことも出来なくなって麒臣君に甘えることにした。

「では、笹の飾りつけに取り掛かりましょう。幾らかは既製品を買いましたが、こういうのは輪っかとか提灯とか手作りもあった方が風情も出ます。麟太様もいくらかお作りになって、麒臣様と飾りつけしてはいかがですか?よろしいですね?」

津田川さんが真顔で七夕飾りの相談をしてくる。
かっちりスーツに七三分けの男の人が子供が遊びでするようなことを真面目に相談してくるの、ちょっと笑えてしまう。

「あっ……はい。」

ニヤニヤ笑うのも失礼だと微妙な返事をすると、津田川さんが家の中に向かって飾りを用意するように指示を出す。
近くで作業していた女中のおみつさんがはぁいと返事をした。

津田川さんは何人かいる麒臣君の側近の一人で、鶯院家の家令も兼務してくれることになった男性だ。
年は麒臣君とそう変わらないように見える。
代々菱一家の番頭を務めてきた家の息子なんだって。
正直うちにはもう管理するほどの財産もないのに麒臣君に言われたら僕には是非もない。
流石に勝手に人を雇いだした時はちょっと任せたことを後悔したけど、結果的にプロフェッショナルなみんなが家をまた手入れしてくれて麒臣君の住環境としては格段によくなった。
今思うと、津田川さんの行動はそのためだったんだろう。
僕は学生だからお仕事のことはよく分からないけど、津田川さんは相当に優秀な人材に違いない。

「今日明日はお忙しくて外泊されるとの事ですが、明後日の七夕は麒臣様も早く帰るそうですよ。」

「あっ、はい。嬉しいな。」

「それで、お迎えの衣装ですが、せっかくですし少し唐代風のガウンなど手配しては如何でしょう。京の方に絹を大変薄く織る有名な職人がおりまして……」

「えっ、いいよ、そんなわざわざ……」

浴衣くらいは着ようかと思ってたけど、七夕のための衣装なんて僕は興味ない。

「そうですか。麒臣様はお喜びになると思うのですが……。」

津田川さんがこちらの様子をちらっと伺う。
物言いたげな視線にはっとした。

そうだった。
僕は本妻の座を狙う愛人なんだから、出来ることはなりふり構わず何でもしろと津田川さんは言いたいに違いない。
津田川さんだって、愛人の家令よりは本妻の家令の方が体裁がいいだろう。

この2日間麒臣君が帰って来ないってことは、本妻さんと過ごすのだろう。
僕には全く情報がない麒臣君の本妻さん。
津田川さんに聞いても本妻さんを庇っているのかそんな人はいないと教えてくれなかった。
麒臣君は否定してないんだからいないはずないのに。

そんな見えない敵と戦うのに、悠長でいいのか!?

「津田川さん、衣装お願いします!」

自らの怠惰を反省し、気合いを入れてお願いする。

「はい。かしこまりました。」

「僕、良くしてくれる津田川さんの体裁のためにも頑張って麒臣君の本妻になりますね!」

「良くわかりませんが、麒臣様が喜べば特別手当が入りますのでわたくしも嬉しいです。」

普段無表情の津田川さんが薄く笑う。
僕も志を共にする頼もしい同士に対してニカっと笑った。
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