好きに変わったガーゼという素材

にゃあちゃん

文字の大きさ
1 / 1

好きに変わったガーゼという素材

しおりを挟む
 子どもの頃、このガーゼという素材をしったのは、ハンカチであった。当時の私のハンカチはこのガーゼの素材のものしかなかった。もっと、おしゃれなレース素材のハンカチもほしくなったが、それも叶わぬ夢であった。
 私は、当時このガーゼの素材が嫌であった。確かに柔らかい素材ではあったが、あまり持っていて可愛いという言葉とは無縁なくらい、素朴なハンカチだったのだ。私は、女の子である為に、当時流行っていたキャラクター入りの綿素材のハンカチが欲しかった。勿論、そんな人気のキャラクターは、毎年入れ替えがあった。その度にハンカチを変えていくほど余裕のない家庭であったので、我が家では、成長しきった私であったが、いつまでもこのガーゼ素材のハンカチを持たされていたのだった。
 これほど、嫌な思いをしたガーゼのハンカチのことを好きになる機会すら与えられなか
ったのだ。
 それから月日が経ち、高校生になった頃には、綿の素材のハンカチがやっと持てるようになったのだ。とはいっても、母親が持っていたお古のハンカチであった。憧れのものでもなかったが、やっとの思いで卒業できたガーゼのハンカチ。私にとっては、そのガーゼのハンカチは、ちょっぴり悲しい想い出となってしまっただけであった。
 そんなガーゼ素材のものを、更に月日が経過して手にする事になった。私としては、こんな形でまた手にするとは、あの卒業を迎えた時には、思わなかったのだ。
 すっかり大人になった私は、身ごもっていた。初めての子どもである為に、新生児用品を購入する事となった。その時、久しぶりに卒業したはずのガーゼの素材を目にする事になった。新生児用品には、たくさんのガーゼ素材の製品がところ狭しと並べられていたのだった。その時、子どもの頃に触っていた肌
触りを、思い出したのだ。確かに、あの柔らかい肌触りの素材のガーゼ以上に、柔らかい素材のものと出合ったことがなかった。その事に気がついた私は、肌着をはじめその他の製品であっても、ガーゼ素材のものを迷わず購入する事にした。
 できるだけ、生まれたばかりの赤ちゃんには、柔らかい素材のもので包んであげたいと思ってしまったからなのだ。私が子どもの頃、ガーゼに対する想いは、最悪であったが、子どもの親となった今、出来るだけ柔らかくそして優しい素材を選びたくなっていたのだ。
 この心境の変化に驚きながら、徐々に私も大人になり、成長している自分を知り、自我の新発見に満足していたのだ。
 こうして、拘りに拘った新生児用品は、ガーゼ素材を中心として揃える事ができた。
 それから、準備万端の状況で生まれる事になった我が子には、まっさらなガーゼ素材の肌着を見につけさせることができたのだ。
 特に我が子のお気に入りは、入浴中のガーゼであった。ガーゼを見にまとわすと、安心したように、入浴中でも眠ってしまえる代物であった。それほど、柔らかい素材にホッと安心する我が子の事が、愛おしく思えたのだった。
 私は、あれだけ嫌がっていたガーゼ素材の製品であったが、ガーゼ素材の子ども用品を購入して以来、大好きな素材と変わっていった。
 こんなにも、あっさりと人間の心理が変わってしまう事が、少し怖くなったが、やはり人間には、好き嫌いが付き物なのだと思わずにはいられなかった。
 ある時、我が子を入浴中、洗濯して干したままになっているガーゼのことをすっかり忘れ、入れてしまったことがあった。すると、落ち着きがなくなり挙句の果てに、泣きだしてしまったのだ。泣いてしまった我が子を見て、ガーゼハンカチを持たせていなかった事
に気付いた。慌てて、そのハンカチを夫に取りにいってもらい、我が子は不安から解消されたあの日の事を今でも覚えている。
 あのガーゼハンカチの柔らかさには、優しさそして温もりも入っていた事に気付かされた。
あれだけ幼少期の頃から、使い続けていた私には、どちらかというと、ほろ苦い味のする想い出しかないガーゼのハンカチ。しかし、そんなガーゼハンカチを我が子は、その存在だけで安心していたのだ。その事に、この年になりやっと気付けた私は、今もガーゼのハンカチを使っている。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

卵の国

はりもぐら
児童書・童話
卵の国の不思議な物語

さっちゃんの誕生祝い

こぐまじゅんこ
児童書・童話
今日は、さっちゃんの1歳の誕生祝いの日です。 おかあさんが、朝からケーキを作ってくれました。

オカリナ

こぐまじゅんこ
児童書・童話
オカリナを吹くのは楽しいです。 岡山弁のおはなしです。

クーラーくんとおばあちゃん

こぐまじゅんこ
児童書・童話
今年の夏は、とっても暑いです。 おばあちゃんは、朝、起きてすぐにクーラーくんのスイッチを入れました。

おつかれ おばあちゃん

こぐまじゅんこ
児童書・童話
最近、おばあちゃんはおつかれです。 朝起きるのがつらいし、昼もさっちゃんといっしょにお昼寝しないともたないんです。

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

童話短編集

木野もくば
児童書・童話
一話完結の物語をまとめています。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

処理中です...