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雪解けの春
7.不思議な二人
しおりを挟む教室を出てエドワードと別れた後、レオは一人、魔法科校舎の廊下を歩いていた。
魔法使いの才能を持って産まれてくる子供は少なく、各学年に一クラス分の人数しかいない。他の学科よりも小規模な為か、魔法科でレオの顔はよく知られており、すれ違う女生徒達から何度も声を掛けられては一言二言を交わしていく。
「あっレオ! この後暇ならカフェテリアでお茶しない?」
「ごめんな、今日はちょっと」
「あら、そう……残念ね」
「あ、この前シエラが好きそうな本を見つけたから、今度オススメするよ。また誘ってくれ」
「本当っ? ええ、また誘うわ!」
「こんにちは、レオ先輩。ご機嫌いかがですか?」
「こんにちは、ラシェッタ。三年の階に来て、俺に何か用か?」
「あの、実はレオ先輩に新しく習得した魔法を見ていただきたくて……いつでも構わないのでお時間頂けません?」
「勿論いいとも。そうだなぁ、今度の土曜のお昼は?」
「はい! 大丈夫ですわ」
「じゃあまた今度な。楽しみしてるよ」
「ええ。よろしくお願い致します!」
などとあちらこちらから話しかけられるために、レオの進むスピードはとてものんびりとしている。そのせいで待ち合わせにも遅れる癖があり、学科の区別がなかった中等部の頃はフィリップによく怒られているのは余談になる。
そんなレオがどこへ向かっているのかというと、サイベラ学院の真ん中に聳え立つ建物、時計塔だ。
サイベラ学院にある主要な建物は全部で五つ。
一、魔法使いの能力を持つ魔法科の生徒が属する魔法科校舎。
二、騎士の能力を持つ騎士科の生徒が属する騎士科校舎。
三、能力はないが素質ありと認定された一般科の生徒が属する一般科校舎。
四、講堂や総務事務を行うための会議室などがある管理棟。
五、全ての生徒が共同で使う事を目的とした時計塔。
魔法科と時計塔を繋ぐ渡り廊下を歩いていると、不意に窓の外から聞き覚えのある声が聞こえてくる。足を止めて窓の下を覗き込んだ。
二階で繋がっている渡り廊下の下に居たのは赤髪のポニーテールの生徒こと、フィリップの後輩のアルベール。
それから、ブレザーの代わりに黒いパーカーを着て、そのフードを目深に被っている生徒の二人のようだった。先ほどの知った声はアルベールのものだったようで、黒いフードの生徒に何かを言っているみたいだ。
「ね! お願いーっ!」
全ては聞き取れなかったが、アルベールが何かを頼み込んでいる様子だった。どうしたのだろうとレオの野次馬根性が疼きだし、興味深々に眺め始めた。
実のところレオは、黒いフードの生徒の名前を知っている。彼もまたレオとは違った意味で魔法科では有名な生徒だからだ。
彼の名はラビ・シガレット。何故か顔を不気味なガスマスクで常に覆っていて、独りであることを好む不思議な雰囲気の生徒だった。
「ラビとアルベールなんて、珍しい組み合わせだな……」
明るく活発なアルベールとは反対に、ラビは物静かな性格だ。ラビの表情が一切見えないため、アルベールの頼みを喜んでいるのかはたまた面倒臭がっているのかも分からない。レオが会話の内容が想像出来ずに首を傾げ、事の顛末を見守っていると、ラビが立ち去りアルベールはその場で肩を落とした。
反対の方向へ去っていくアルベールの姿を見つめながら、なんだったのだろうと思いつつも、レオはその場を立ち去った。
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