もしもカボチャが無い世界の「シンデレラ」になったとしたら?

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

文字の大きさ
1 / 11

1話 シンデレラと呼ばれて

しおりを挟む
 今夜はハロウィン。町はハロウィン一色で染まっていた。


「ねぇ~美里、本っ当にパーティーに参加しないの?」

雑踏を歩きながらの仕事帰り、同僚の奈々が声をかけてきた。

「うん、行かない」

素っ気なく答える。

「あ~無理無理、美里のカボチャ嫌いは学生時代から有名だったもの。全く24歳にもなって、まだ食べ物の好き嫌いがあるんだからねぇ~」

学生時代からの友人、ひかりが笑いながら私の肩を叩く。

「え~なんでカボチャが嫌いなの? パンプキンパイとか、最高に美味しいじゃない」

首を傾げるのは、同僚の真帆。
彼女たちはこれから会社の一番近くに住む奈々のマンションでハロウィンパーティと称して、カボチャパーティーを開くのだ。

「大体何よ、カボチャパーティーって。ハロウィンパーティーって言えばいいじゃないの」

友人たちに訴える。

「いいじゃない、だって本当にカボチャ料理を作って、皆で食べ尽くすんだもの」

「そうそう、カボチャのサラダにカボチャのシチュー、カボチャのプリンにパンプキンパイ」

「どれも絶品だよね~」

3人の友人たちがカボチャ料理で楽しそうに盛り上がっているが、私は聞いているだけで胸やけがしそうだ。
カボチャなんて切りにくいし種は邪魔だし、妙に甘いだけの野菜じゃないの。

「とにかく、今夜は遠慮する。3人だけでカボチャパーティーを楽しんで頂戴。それじゃ、私は帰るから」

そして一人、駅に向かう為に横断歩道を歩き始めた時――

突然右から眩しいライトがを浴びせられた。

「え?」

驚いて振り向くと、1台の車が私につっ込んでくるのが見えた。

「美里!!」

ひかりが私の名前を悲痛な声で叫んだ瞬間。

ドンッ!!

身体に激しい衝撃が加わり、そこから先の私の意識は途絶えた――




****


「……レラ! シンデレラ!」

不意に誰かに名前を呼ばれ、ハッとして声の聞こえた方向を見る。
すると、そこには怪訝そうな顔で私を見つめるおばあさんが立っていた。

フード付きの紫のマント姿のおばあさんは日常生活を過ごすにはとても奇異な姿に見える。しかもご丁寧に短い杖を持っている。

まるで魔法使いのコスプレしているみたいだ。

「コスプレ……?」

口にしかけて、あることを思い出す。そうだ、今夜はハロウィンだった。それなら納得いく。

「今夜はハロウィンでしたね? だから魔法使いのコスプレ姿をしているのですね?」

「は? ハロウィン? 魔法使いのコスプレ……? 一体何を言っているの?」

おばあさんはますます困惑の表情を浮かべる。けれど、かまわず言葉を続ける。

「その魔法使いの衣装、とてもお似合いですよ。それにしても……」

辺りを見渡すと、街灯すらない場所に立っていることに改めて気付いた。しかもここは何だか畑のようにも見える。

「ここはどこなの? 街灯も無いし、何だか畑のようにも見えるし……」

「畑のように見える…‥ではなく、畑よ。さっきから一体どうしてしまったのかい?     
 シンデレラ」

「え……? シンデレラ……?」

魔法使いのコスプレをしたおばあさんは私のことを「シンデレラ」と呼んだ――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

【完結】悪役令嬢ですが、元官僚スキルで断罪も陰謀も処理します。

かおり
ファンタジー
異世界で悪役令嬢に転生した元官僚。婚約破棄? 断罪? 全部ルールと書類で処理します。 謝罪してないのに謝ったことになる“限定謝罪”で、婚約者も貴族も黙らせる――バリキャリ令嬢の逆転劇! ※読んでいただき、ありがとうございます。ささやかな物語ですが、どこか少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...