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わ、私が悪役令嬢!?
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(一度でいいから、自分の殻を破ってみたいなぁ。願わくば今の自分とは正反対の性格になりたい。で、できればお金持ちのお嬢様とかになりたい!)
叶わぬ夢を妄想しながら、今日も私は家路を辿る。ちょうど先日発売された悪役令嬢を題材とした、小説を読み終えたばかりだった私はそんなことを考えていた。目の前に階段が迫っているとも知らずに。
耳慣れない声が聞こえて、目を覚ました先は見知らぬ部屋だった。
(寝ぼけてるのかな。)そう思って寝返りを打って、もう一度寝ようとした。しかし、チラリと自分の姿が映った窓をみて一瞬固まった。そこには見慣れない長い黒髪の女性がいたからだ。
(この人だれ?)手を伸ばせば向こうも手を伸ばす。自分の姿だと気付くことに時間はかからなかった。
がばりと起きると、そばに控えていた男性が慌てたように「どうかされましたか、お嬢様。」と尋ねた。
薄茶色の柔らかそうな巻き髪の、優しい瞳をした、執事のような姿をした男性がそこにはいた。
「あなたは?」見たことのない人だったので、思わず尋ねると、「お嬢様、からかわないでください。執事のエドワードですよ。」と彼は苦笑しながら答えてくれた。「エ、エドワード?」私が繰り返すと、「はい、お嬢様。」彼は答えて、にこりと微笑んだ。包み込むような柔らかい声に私はどきりとしつつも、未だこの状況に釈然としないでいた。
(私はさっき確か夜道を歩いていたのよ、それも一人で。こんな素敵な男性なんて知らない。)そんな私の考えは、いざ知らず、エドワードは「さぁお嬢様、もうすっかり熱もひいてお元気そうですし、久しぶりに外に出られては?」と言ってきた。(ともかく、この今の状況を把握しなくちゃいけない。)そう考えた私は、「そうですね」と言いベットから立ち上がった。
(それにしても広い家だな。何坪くらいあるのかな。)病み上がりの散歩という名目で家、もとい屋敷中をくまなく歩く。もはや散歩ではなく散策なのだが、こうして歩きながら考えることでだいたいの考えはまとまってきた。
端的に言えば、私は今、もといた世界とは違う、どこか別の世界にいるのだ。そしてその別世界というのは、私が以前遊んだ乙女ゲームの中の世界であると思われる。しかし、ここで1つ問題がある。確かにそのゲームで遊んだことはあるけれど、正直そこまでストーリーが記憶にはないのだ。おおまかな流れしか思い出せないのだ。
「うーん、せめてストーリーがもっと詳しくわかればなぁ。」それがわかれば、自分の立ち位置もわかるし、これから起こることだってわかる。そんなことを考えていると「お嬢様?」さっきから私の「散歩」を後方で見守っていてくれたエドワードが、後ろからそっと近づいてきて気づかわしげに声をかけてくれた。「なんでもないの、ありがとう、エドワード。」私はそういって、自室に向けて歩き出した。
部屋に戻った私は、ひとまず気持ちを落ち着かせようと、手近なソファに腰かけた。ふと顔を上げると手鏡があったので、さっと手にとりなんとなく自分の姿を眺める。(髪の毛は黒、瞳の色は紫か...。私が遊んだ乙女ゲームのヒロインたちは茶色、金色とかの髪色だったよね。うーん、私はこの世界のヒロインではないのか...。)
そんなことを考えていると、エドワードが私のところにやってきた。
「お嬢様、珍しく鏡なんてご覧になられて一体どうされたんですか? そんなに不安げな顔をなさらなくともお嬢様は可愛らしいですよ。」鏡を眺めて顔をしかめている私をどのように思ったのか、彼はそんなことを言った。
(鏡...不安、可愛らしい...)その時、頭がずきんとした。そしてその瞬間記憶が蘇り、私の頭の中に映像が再生されたー黒髪の女の子がガラス窓の外を見ている。その窓の向こうには、はちみつ色の髪の毛をした女の子が男性と親しげに歩いていて、視線を戻すと窓ガラスに写る自分ー
(うわー、あの場面今思い出したけど、あれは悪役令嬢が、主人公と自分の婚約者との関係を初めて疑う場面じゃない、てことは)
「わ、私が悪役令嬢!?」
叶わぬ夢を妄想しながら、今日も私は家路を辿る。ちょうど先日発売された悪役令嬢を題材とした、小説を読み終えたばかりだった私はそんなことを考えていた。目の前に階段が迫っているとも知らずに。
耳慣れない声が聞こえて、目を覚ました先は見知らぬ部屋だった。
(寝ぼけてるのかな。)そう思って寝返りを打って、もう一度寝ようとした。しかし、チラリと自分の姿が映った窓をみて一瞬固まった。そこには見慣れない長い黒髪の女性がいたからだ。
(この人だれ?)手を伸ばせば向こうも手を伸ばす。自分の姿だと気付くことに時間はかからなかった。
がばりと起きると、そばに控えていた男性が慌てたように「どうかされましたか、お嬢様。」と尋ねた。
薄茶色の柔らかそうな巻き髪の、優しい瞳をした、執事のような姿をした男性がそこにはいた。
「あなたは?」見たことのない人だったので、思わず尋ねると、「お嬢様、からかわないでください。執事のエドワードですよ。」と彼は苦笑しながら答えてくれた。「エ、エドワード?」私が繰り返すと、「はい、お嬢様。」彼は答えて、にこりと微笑んだ。包み込むような柔らかい声に私はどきりとしつつも、未だこの状況に釈然としないでいた。
(私はさっき確か夜道を歩いていたのよ、それも一人で。こんな素敵な男性なんて知らない。)そんな私の考えは、いざ知らず、エドワードは「さぁお嬢様、もうすっかり熱もひいてお元気そうですし、久しぶりに外に出られては?」と言ってきた。(ともかく、この今の状況を把握しなくちゃいけない。)そう考えた私は、「そうですね」と言いベットから立ち上がった。
(それにしても広い家だな。何坪くらいあるのかな。)病み上がりの散歩という名目で家、もとい屋敷中をくまなく歩く。もはや散歩ではなく散策なのだが、こうして歩きながら考えることでだいたいの考えはまとまってきた。
端的に言えば、私は今、もといた世界とは違う、どこか別の世界にいるのだ。そしてその別世界というのは、私が以前遊んだ乙女ゲームの中の世界であると思われる。しかし、ここで1つ問題がある。確かにそのゲームで遊んだことはあるけれど、正直そこまでストーリーが記憶にはないのだ。おおまかな流れしか思い出せないのだ。
「うーん、せめてストーリーがもっと詳しくわかればなぁ。」それがわかれば、自分の立ち位置もわかるし、これから起こることだってわかる。そんなことを考えていると「お嬢様?」さっきから私の「散歩」を後方で見守っていてくれたエドワードが、後ろからそっと近づいてきて気づかわしげに声をかけてくれた。「なんでもないの、ありがとう、エドワード。」私はそういって、自室に向けて歩き出した。
部屋に戻った私は、ひとまず気持ちを落ち着かせようと、手近なソファに腰かけた。ふと顔を上げると手鏡があったので、さっと手にとりなんとなく自分の姿を眺める。(髪の毛は黒、瞳の色は紫か...。私が遊んだ乙女ゲームのヒロインたちは茶色、金色とかの髪色だったよね。うーん、私はこの世界のヒロインではないのか...。)
そんなことを考えていると、エドワードが私のところにやってきた。
「お嬢様、珍しく鏡なんてご覧になられて一体どうされたんですか? そんなに不安げな顔をなさらなくともお嬢様は可愛らしいですよ。」鏡を眺めて顔をしかめている私をどのように思ったのか、彼はそんなことを言った。
(鏡...不安、可愛らしい...)その時、頭がずきんとした。そしてその瞬間記憶が蘇り、私の頭の中に映像が再生されたー黒髪の女の子がガラス窓の外を見ている。その窓の向こうには、はちみつ色の髪の毛をした女の子が男性と親しげに歩いていて、視線を戻すと窓ガラスに写る自分ー
(うわー、あの場面今思い出したけど、あれは悪役令嬢が、主人公と自分の婚約者との関係を初めて疑う場面じゃない、てことは)
「わ、私が悪役令嬢!?」
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