地面に埋まっていた幼女を引っこ抜いたら理解できない言語を喋りだして漸く理解したら世界が滅びるとか言い出したが俺には遅すぎた件

中の人など居ない

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薄氷裏の日常3

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——3月29日(金)12:40

神埼は当初の目的を果たすべく人気のない屋上の方へと向かっていく、あたかも戦場へ向かう戦士の如く、
誰にも気取られないように周囲に目線を配り、スニーキング&ダッシュを繰り返していた。
その姿を誰かに見られれば明らかに不審者の行動そのものであった。
神埼は徐ろに携帯を取り出すと何者かと通話を始める。

「俺だ。周囲に組織の尾行も敵影も無し、目標地点(ポイント)Bにて速やかに計画(プラン)Xを実行されたし。」

「こちらフォックスワン、了解した。すでに目標地点(ポイント)Bには到達済みだ。」

「今向かっている最中だ。ヒトニーヨンニーには到着する。」

「ラジャー、貴君の健闘を祈る。」

通話を切ると神埼は懐から全身黒塗りの拳銃を取り出し、屋上へと続く踊り場の階段を掛けていく。
物陰から屋上のスライド式の扉を開き、屈みながら屋上の様子を伺う。
そこには紺色のパーカーの青年が銃を構えて待ち構えていた。

「来たか」

青年は神埼の気配を察し、神埼が顔を出したのと同時に発砲する。
弾速は優に90m/sを超え、金色の弾丸が神埼の顔を掠め、踊り場の壁に当たって銃痕ができる。

それを皮切りに神埼は扉の影から飛び出すと手に持った拳銃で交戦する。
やや前かがみで前転しながら屋上に引き金を引く、
パンッと乾いた音ともに彷徨える弾丸が発射されるも
相対する青年の目にはその弾の軌跡は遅滞しているように見え、螺旋状に推進する気流の流れすらも捉えていた。
的確に標的を捉えた弾丸が到達する寸前、左腕を振り抜き握られた銃身でもってそれを弾く。

「やるな光雄」

風は吹き荒び、神埼は先程の通話の主と互いに銃を突きつけた状態で対峙する。

「どうしたこいよ?」

「どうやら俺の秘められし力を開放する時が来たようだな。」

神埼の右目が唐突に紅く光る。と、同時に足元から粉塵が巻き上がり忽然と姿が消える。

「消えた!?メタモルデバイスか!?」

神埼の姿が光学迷彩よろしく風景に同化して見えなくなる。
しかして完全に消えたわけでもなく、
動作に応じてうっすらと背後の風景との差異が生まれ空気の乱れが
見るものに違和感を与え、そこに何者かが存在していることを告げる。

「俺を捉えられるかな?」

「ほざけ!」

しかし、知覚できる速度を超えて移動している場合には完全に姿を見失うこととなる。
不意に空中から銃声が鳴り響き、
彗星の如く銃弾が飛来し、屋上の無機質なコンクリに跳ね返り火花を散らす。
その寸前にパーカーの青年は側転し、狙撃を掻い潜り、
体勢を立て直すと空へ向けて反撃する。

「居ない!?」

手応えはなく、銃弾は空の彼方へと吸い込まれていく。
次の瞬間、何者かがトンッと着地する音がする。

「そこか!?」

刹那の間に銃を撃つもそこにあった財布を弾き飛ばしたのみだった。
風は鳴き止み、屋上はあたかも何処から捕食者が獲物を狙っているかのような不気味な沈黙に包まれる。

「どこに隠れても無駄だぞ!?」

光雄はおもむろに右手を開くと光の粒子が凝集して二挺目の拳銃が顕現する。
両手に拳銃をもった腕を水平に構え体躯を独楽の如く回転させながら
縦横無尽にあらゆる角度へと乱射していくと、
そのすべての銃弾が不可思議な力で空中停止する。

「征け!」

光雄が腕を交差(クロス)させると停止した銃弾の球体状の格子は一斉に時を取り戻し加速していく。

「俺はここだぜ!」

光雄の背後から銃声が鳴り響き、神埼が飛び出してくる。
神埼の前方にはいつの間にか半透明の膜のような防護壁(シールド)が張られ、
散弾の嵐を掻い潜り神埼は光雄へと突進してくる。
指物完全無傷というわけにもいかず銃弾の雨が掠り半透明の膜に破損させながらも
神埼はあっという間に距離をつめていき至近距離でトリガーを引くと
雷管が炸裂し、銃弾が飛び出し同時に薬莢も排出される。

「まじか!?」

光雄は体を海老反りにして近距離射撃を躱す。

「遅い!」

「ちぃ!」

体勢を崩した光雄へ向けて神埼が右手の銃挺を振り下ろし、トドメを刺そうとするも
光雄の足が銃底を蹴り弾き飛ばし、銃口の向きを強引に捻じ曲げる。

「読んでたぜ!」

「何!?」

神埼の手にも光雄同様に両手にはそれぞれ拳銃が握られていた。

(銃声は二発だったはず…!?ならば、もう一発は!?)

二つ目の銃弾はお誂え向きに凹んだコンクリの床に跳ね返り、
シールドを張る間もなく光雄の背中に直撃する。

「なッ!?跳弾か!?」

「リミットバースト!」

神埼の体の彼方此方からバチバチとプラズマのような紫色の放電が起こる。

「うおおおお!!!」

同時に光雄からも紫電が発生し、二人は至近距離での超高速な格闘戦となる。
互いの銃を交え、徒手空拳のような構えで銃を突きつけ撃ち抜いたり、
銃身を弾いたり皮一枚で躱したりの一連の動作を目にも留まらぬ速度で二人は繰り返し、
銃身同士がこすれることで火花が飛び散る。
傍から常人の目で見るとさながら剣閃の如く二人は舞っていた。

——勝敗の差を決めたのは僅かな差だった。
互いに右手の銃口を突きつけると
カチリという無念の弾切れの音を光雄のピストルがあげる。

「俺の負けだ!」

光雄が両手を挙げて降参するとファンファーレが鳴り響き、
同時に互いの頭上の空中に非現実的な勝敗を表示する文字が描かれる。
それはこれが仮想的なゲームであることを示していた。

「やるな零士」

「光雄もな」

神埼と光雄は携帯端末を取り出すとアプリを終了する。

——楠木光雄
神埼の親友であり悪友でもあり、神埼のヒミツを知るものだ。
彼のヒミツとは彼が残念なイケメンであることに起因している。
それは先程の会話からも察していただける通り、隠れヲタで遅れてきた中二病であることだ。
光雄が神崎に通学路でぶつかった際に東京伯爵というヲタ界隈では有名なコミックを鞄から落としたことで発覚する。
一方の光雄の方もアングラやオタク趣味に関しては詳しいことを
神埼にカミングアウトして以来、何でも言い合える仲になっている。

「しっかし!ラピッドファイア凄いな!年間アプリストアランキング一位だって?
レビューもAR(拡張現実)対戦ゲームの最高峰だってついてるし☆5キープしてるしさ。
一体どんなやつが作ってるんだ?」

「…案外、近くにいるかもな?」

「お?なんか言ったか?」

「いんや、何も?」

「そろそろ戻ろうぜ!昼飯食う時間無くなっちまう。」

神埼が財布を拾い、校舎に戻ろうとするとヒラリと紙切れがポケットから落ちる。

「おい、零士なんか落ちたぞ?」

そのチケットを楠木が拾い上げる。

「あっ、やべっ!サンキュな」

「ふーん…ジュラシック展、白亜紀に見つかったミイラ…ねぇ」

「何だよ?」

「いんや、誰かに誘われでもしたんかな?って」

「ははっ?まさかぁ…俺が都市伝説好きなの知ってるだろ?」

「そうだよな、お前コミュ障だもんな」

「一言余計なんだよ!」

神埼は楠木からチケットを奪い返すと慌てて階段を降りていく。
その後ろ姿を楠木はぼんやりと眺めていた。
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