半分異世界

第5章 瑛太2

第67話 戻りたい想い

「なあ、アイちゃんと付き合ってんの？」

三人部屋に入ると尾市さんに訊かれた。頷くと椎名さんから軽く悲鳴があがる。

「マジか！アイちゃん、ちっこくて可愛いなって思ってたのに！」

どういう経緯で付き合い出したのかとか色々訊かれた。バレンタイン前に好き好きアピールしたといったら、
はーッと溜め息をつかれた。

「俺達がこっちに連れて来られた頃の話かぁ～。」
「ああー。こんな事がなければ俺もバレンタインで、今頃は～。」
「尾市マジか。」
「いや、だったらいいなって‥‥。」
「ハハ。」

召還された人達の中には他にも女子はいたらしい。でも兵士として使役されていた時には呪具で、気力も何も沸かないし、しゃべることもできないので
興味を持たなかったそうだ。

B君C君こと尾市尚人さんと椎名亮さんは、栃木の中学校で放課後の教室にいた所を召還されたそうだ。
同じ室内には8人程一緒にいて、一緒に召還された記憶はあるらしい。でも気がついたらバラバラにどこかに連れて行かれていたそうだ。
普段は神殿領域外の別の場所で働かされていたらしい。
だけど言われるがままに動かされていたので、具体的な場所ははっきり覚えていないんだそうだ。

もしも他の召還者達を助けに行くとしたら、ライアンさんに協力してもらう必要がありそうだ。
クラスメイト達‥‥、本木とか‥‥あまり助けたい感じじゃないかな‥‥。
この国の召還自体は許せないし、そういう意味では全員解放させたいんだけどね。

「ああ！バレンタインの頃って！高校入試！‥‥受験～！」
「うっ‥‥。」

突然、椎名さんが叫んで尾市さんも突っ伏してしまった。
尾市さんと椎名さん達栃木の学生がこちらに召還されたのは10月頃だったと思う。当然受験はできていない。そして、もしもすぐに戻れたとしても受験日は過ぎている。

「受けれてない～‥‥。戻っても高校行けない～‥。って中卒？」
「卒業できるの？　あれ？卒業式って今頃じゃん？　瑛太がこっちきたのってホワイトデーだったよね。」
「卒業できてなかったとしたら、俺等永遠に中学生か。」
「なにその、微妙な響き‥‥。大人になれない人みたいな‥‥。」

戻っても高校受験は終わっているってショックだろうな。
‥‥いや、すぐ戻れる前提での話だけど‥‥。そもそも戻る方法があるかどうかすらわからないんだ。

そんな事を言っていたら、尾市さんと椎名さんは嘆いていた様子から落ち着いて来た。
尾市さんは、寝床にごろんと横になろうとして、想像以上に固い寝床に小さく悲鳴をあげた。
ふふっと椎名さんが笑う。
固い寝床に腰を下ろしたまま、俯いた。

「は～。この先ず～っとこっちで生活しなきゃならないかもしれないんだよな。戻れる方法があるとして、それを見つけられるのは何年後かわからない。」
「戻れるなら俺、中卒でもいいよ。」
「そこは‥‥。受験しなおしとか，認定資格とか‥‥。戻れたら、まあ、どうにでもなるよ。戻れたらだけど。」
「だな。」