半分異世界

第6章 詩英2

第82話 事件時の映像

圭の四十九日の法要が済んだ5月初旬。
圭の同級生の一人が家を訪ねてきた。

柏木悠宇君、圭のクラスでは唯一無事だった生徒だ。
葬儀の時に来てくれていたけど、マスコミが来ていたのでありきたりの挨拶しかできなかった。
柏木君側も同じような状況だったようで、ずっと家に籠っていたそうだ。
話をしに来たかったのに，来れなくてすみませんと謝ってきた。元々は日に焼けていて元気一杯という雰囲気だったのに、少し痩せて憔悴した様子に見えた。顔も青白い。

「君が謝る事は何もないよ。」

仏壇に手を合わせた柏木君は泣きそうな顔をしていた。
彼も凄くショックだったろうな。自分以外のクラスメートが全員犠牲になったんだ。
聞くと学校閉鎖だったこともあり、事件以降学校には行っていないという。3月中はそのまま終業となって
新学期からはリモート授業を受けているらしい。

「‥‥電話だけでも‥‥と思ってはいたんですけど‥‥。何て話していいかわからなくて‥‥。」

柏木君の声が震えていた。

「いいんだよ。‥‥君もつらかっただろう。」

俺がそう言うと柏木君は、顔を上げて眉を下げた。ごそごそとポケットに手を入れてスマホを取り出した。

「あの‥‥。これ‥‥どうしていいかわからなくて誰にも見せられてないんですけど‥‥。」

何だろうと思ったら、事件の時の映像だという。誰にも見せてないって、警察にも？
驚いて訊いてみたら、映像が撮れていたのに気がついたのが最近なんだそうだ。事件当時、彼が見た内容については警察にも学校にも話は一応してあって秘密にしていたわけではないそうだ。

「それならその映像も警察や学校に見せればいいのでは。なぜ、俺に？」
「圭の家族の人には見せないとって思って‥‥。」

柏木君は苦しそうな顔をしながら俺に動画の再生ボタンを表示している状態のスマホを差し出した。
俺は、柏木君からスマホを受け取って再生ボタンを押した。

柏木君は当時、スマホを持ったまま急いで走っていて知らないうちに録画ボタンを押してしまっていたらしくて、
廊下を駆けて行く様子がブレブレの状態で映っていた。
そして、教室の入り口近くに瑛太と藍ちゃんが立っている様子が映っている辺りから声が聞こえて来た。
圭の声だった。
会話の内容からクラスメートに嫌がらせをされていたらしい。
その日も何か圭を呼び出してからかっていたようだ。何だ？

瑛太と藍ちゃんが教室に入って行った。
瑛太が誰かを止めるような声。
柏木君が教室の入り口近くまで辿り着いて、画像の角度は曲がっていたが教室の中の様子が見えた。
圭が誰かと向き合っている。

相手が圭の胸ぐらを掴んで圭を殴った。おい！何するんだよ！
瑛太が駆け寄って圭を助け起こした。圭はヨロヨロしながら立ち上がるとまた相手の方に向き直った。

相手は‥‥本木ってやつ？　本木ってあいつか？　圭の怪我の原因を作った奴？
あいつ圭と同じクラスだったのか？　圭は何も言ってなかった‥‥。
そいつが圭をずっといじめていたのか？