半分異世界

月野槐樹

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第7章 瑛太3

第112話 国境越えたら分岐点

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圭の異世界ガイドノートによると、異世界は庶民は大抵「エール」というビールの一種の温い奴を飲んでいるという。それとワインもあるという。

「異世界」といったって特定の国とかではないんだから、色々あるだろうに。何で決めつけてんだ!と思ったけど、本当にエールとワインがあったのでちょっと驚いた。何でガイドノート通りなんだろう。

蒸留酒はない場合が多いので、蒸留した酒を作る設備を作れば儲かるかもと書いてあった。
酒については飲んだ事がないから、まだ作ってみようと言う気にならないんだけどね。

部屋に戻る途中、尾市さんに呼び止められた。
何か内緒話。椎名さんに秘密の話なのか?

「国境にワイちゃんの同級生がいたって話、椎名には言わないでくれる?」
「‥‥藍ちゃんかワイちゃんが石倉さんに言っちゃってるかもよ。」

石倉さんに伝わっていたら椎名さんにも伝わりそうな気がしたのでそう返してみた。尾市さんはうーんと唸った。

「まあ、それはそれでしかたないけどさ。この距離だとさ、まだ国境からはあまりい慣れていないだろ。国境に戻るとか言い出しそうだから。」

なるほど、すぐ駆けつけられない距離まで移動しておきたいのか。

「‥‥わかりましたけど。救出に行きたい人からしたら、近い場所で知れた方がいいかもしれないですよ。」
「離れた方が冷静になれるだろ。」
尾市さんから見て、椎名さんは石倉さんに振り回されているように見えるらしい。

「石倉は悪い奴ではないと思うけど‥‥。」

一度部屋に戻って、井戸に水を汲みに行くと椎名さんに宣言して、尾市さんと井戸端で会議をしていた。
石倉さんは他の女子とも協力して作業しているし、食事が質素でも文句言わないし、その点では共同生活をしながら旅をするのに問題はなかった。

「でも、他の召還者の救出の事になると冷静じゃなくなる。あれ、ちょっと困るんだよね。」

水汲みを言い訳にしてきたけど、ついでに洗濯をしながら尾市さんが言う。下着とかはマメに洗いたいよね。俺も洗ってる。

「自分で助けられるなら、別に良いと思うぜ、別に。でも、自分じゃ出来ないってわかってるのに騒ぐのは、誰かやってくれってことだろ。誰か身を危険に晒して助けてやってくれってさ。
あいつが助けたいのって、同じクラスの越前麻美って奴の事だけだと思う。
なのに、善人なら助けて当然でしょって、誰かやってよ、自分はできないけど‥‥てさ。ちょっと考え方が合わないんだよなぁ。」

尾市さんが洗濯物を擦る速度があがった。俺の分の洗濯もお願いしたいくらいだ。下着なんで頼まないけどさ。

「‥‥椎名は絆されちゃってるし、正義感みたいな物を刺激されてるんだと思う。冷静に考えたらさ。
こっちに来ても何の生活の目処もたってないんだぜ。連れて来たって生活の面倒を見る見込みもまだないんだ。」

まあ、そうだよね。
少なくとも尾市さん達は、無理やり働かされていて食事もあまり充分じゃなかったと思うけど、餓死するリスクは少なかったと思う。
でも「助けたよ」って見知らぬ外国に放り込まれたら、ホームレスになったり餓死したりする可能性もあるよね。

助け出されたら、それぞれ自力で頑張って行くだろうという期待はあるけど、
善人なら困っていたら生活も助けてくれる!って頼られるかもしれない。

埼玉、栃木、千葉の行方不明者が約20人。俺のクラスは40人。俺、藍ちゃん、圭、悠宇を除くと36人か。
今いるメンバーが10人だから残り約46人? 埼玉栃木千葉の人数は正確じゃないけど。
仮に一気に全員を救出できたとして、その人達の当面の生活の面倒を見れるかって言うと、無理だ。
やりたくないとかの気持ち以前に、自分達の生活だって成り立ってないんだ。
まあ、石倉さんもそこまでは考えてないんだろうな。

尾市さんは少し寂しそうな顔をした。

「俺、いきなりこんな場所に放り込まれてさ。それでも無事出国できたら椎名と協力してやって行こうって、思ってたんだけど‥‥。
椎名が救出活動を目的にしていこうとしてたら、無理かもしれないよな。俺、あの国にもう一度戻りたくないし‥‥。」

「そこはよく話し合ったら?」
「瑛太はどうするんだ?仕事見つけて藍ちゃんと生活?」
「うん‥‥まあ‥‥。仕事が見つかってからだけどね。」
「はー‥‥。俺、ワイちゃん誘ってみるかなー。」
「‥‥身近にいるからって発想だと、怒られるよ。」
「だなー。」

ケラケラと尾市さんが笑った。ちょうど洗濯も終わったので立ち上がり、洗濯物は紐を通して肩にかけ、桶を洗って水を満たした。
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