転生モブ一家は乙女ゲームの開幕フラグを叩き折る

月野槐樹

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第1章

第153話 父上に報告

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本館続く、暗い石畳の通路を走りながら涙が出そうになる。口封じとか怖い。よく考えたら毒事件もすごく怖い。この家で事件が起きているのが怖い。

厨房に近い通用口から飛び込むように本館に足を踏み入れた。

「あれ?坊ちゃん達、どうなさったんですか?」

食器の乗ったトレーを持って歩いていたジャックが足を止めて僕達に声をかけてきた。

「ジャック、父上と母上は、執務室?」
「先ほどまでラウンジでお夜食をお召し上がりでしたよ。お食事が済んだからもう移動されているかもしれません」

ジャックはちょうど運んだ食器を下げてきたところだったようだ。
急いでラウンジに向かうと、ゴーシュさんが部屋から出てくる姿が見えた。
その後ろに続くレオノールさんの姿も見える。

ゴーシュさんが僕達に気がついて顔を上げた。

「おや。ご子息達、ご両親に用事かい?」
「ご両親は中にいらっしゃるわよ」

レオノールさんも声をかけてくれる。
微笑みを浮かべて「では」立ち去ろうとするゴーシュさんとレオノールさんを止めようと思って二人の前に立つ。

「あ、あの……」

拘束されている騎士が危険なら、レオノールさん達にも居てもらった方が良い気がしたんだ。でも思わず引き止めてしまっただけで、説明する言葉がすぐに出てこない。

「まあ、ローレン、クリス。どうしたの?」

母様が廊下に出てきた。
母様の姿を見たら、ちょっとホッとする。

「母様……」
「クリス、何かあったの!?」

母様が心配そうな顔をして僕の両肩に手を置いた。あ、僕、泣きそうな顔してたかも。
息を吸い込んで頑張って気持ちを落ち着けようとしてみる。

「どうした?」

父上がラウンジの入り口に姿を現した。急に空気がピリッとする。ギロっと僕を見る目が厳しくてちょっと怖い。
怒ってはいないってわかるんだけど、「気配」に迫力があるんだ。この場に魔獣でも出てきたら瞬殺しそうな感じだ。

「父上、クリスと話をしていたら、勾留されている騎士が無事か心配になったんです。
確認してもらえないでしょうか」

兄上がしっかりした口調で父上に言ってくれた。さすが兄上。

「心配、とは?何を気にしている?」

父上が目を細める。スッと息を吸ってから兄上が口を開いた。少し声のトーンを落とした。

「……自害……、しないか、など……」
「ふむ……」

兄上の言葉を聞いて、父上は表情を変えずに顎髭をさらりと親指で撫でた。

自害?口封じの心配じゃなくて?と思ったけど、兄上に何か考えがあるのかもと
思って黙っていた。

「なるほど。この屋敷で自害などされては困るな。確認に行かせよう」

父上は側に居たゲンティアナの騎士に指示を出した。

「我々も行こう」

ゴーシュさんとレオノールさんも同行すると宣言した。

僕と兄上もついていこうとしたら、父上に捕まった。
ガシッと大きな手で腕を掴まれてしまう。

「大人に任せておきなさい」
「でも……」

唇が震えてしまう。ちゃんと説明していないから、口封じを防げないかもしれない。
考えたら涙が出そうになってしまった。
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