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逆転

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今がチャンスかもしれない



 そう思える材料がある今、責めない手は無かった。ナオキも負傷しているが、ジュダも負傷している。ひょっとするとナオキ以上に状態は悪いかもしれない。



よし! やろう!



 覚悟を決め、ナオキは剣を握りしめ飛び出した。

 出来るだけジュダが視界から外れないように細心の注意を払うことを忘れず、ナオキは剣を左から振りぬいた。

 よけ切れないと踏んだジュダは右手に持っていた剣でナオキの攻撃を受けた。だが、受けた剣は簡単に弾かれ、ナオキの攻撃はジュダの胸元へ一閃の斬り筋を与えた。



「クソ、バレてたか……」



 攻撃を受けたジュダが顔を歪める。



「今のは確認の一撃です。確証が持てなかったから」

「ならそのまま斬りかかるべきだったな。私は私の有利な材料で勝負をさせてもらう」



 ジュダはナオキに向ってきた。ナオキは迎え撃とうと剣を構え、振ろうとした、その時――ジュダは突然急ブレーキをかけ、左目の死角へ飛んだ。



フェイントだ――



 ナオキが左を向こうとした瞬間、ナオキの脇腹に激痛が走った。ジュダが蹴りを入れたのだ。

 本来なら剣での一撃でナオキはやられていただろう。だがジュダは剣が振れない。そのことにナオキは感謝した。とはいえナオキも手負いには違いない。どうにかしてこちらが有利な状況にもっていかなくてはいけない。ナオキは距離を取ろうとバックステップをした。だがジュダはそれを察して再び蹴りを放ち、ナオキを追撃した。



「ウッ!!」



 ナオキは何とか踏ん張り、右へサイドステップをし、ジュダとの距離を確保した。

 あちこちがズキズキ痛む。ジュダの一発一発は重く、攻撃を受けるたびにナオキの動きを鈍くした。



「ナオキ君、本当にタフだな。一発で並みの兵士なら悶絶して倒れこんでるぞ。改めてリスタが敵に回った時に、脅威以外の何物でもないと実感させられる」

「そ、それはありがとうございます。オレから言わせてもらうと剣が使えなくなってからのジュダさんも、半端なく強いんですけど」

「ふ、剣術だけじゃ隊長にはなれないさ。それより、ここらで止めて素直に投稿しないか? 君の力は十分に理解した。今後のことも踏まえて悪いようにはしないが?」



 嘘か真かジュダがナオキに提案した。だが、ナオキの心の中は決まっている。



「そんなこと言ってもらって光栄なんですけど、オレの意思は変わりません。レイの妹を開放してくれればスグにでも止めますけど?」

「やはりそうか……君も頑固だな」



 ジュダはため息を一つこぼし、首を振った。



「ヤレヤレ、それでは君にはもう少し痛い目に合ってもらうよ」



 再びジュダが向かってきた。が、ジュダはナオキの前に来たところで止まって見せた。



またフェイントか?



 反射的に左を向いたナオキだが、そこにはジュダの姿は無かった。と同時に今度は右のこめかみ辺りに衝撃があった。肘だ。手首や手のひらは使えなくてもジュダはそれ以外の部位で多彩に攻撃を仕掛けてくる。



この人マジでヤリ辛い……剣の攻撃じゃないから何とか持ちこたえてるけど、もう限界だ……せめてジュダさんの動く先が分かれば



 ジュダはナオキの視界から外れた場所から攻撃をしてくる。それもナオキが守ろうとした箇所を外してくるのでナオキは守り切れずにいた。



何とか攻撃してくる場所だけでもわかれば……そうだ――



 ナオキにある閃きが浮かんだ。その時、ナオキのミゾオチにジュダの蹴りが入り、ナオキは前かがみになった。思わず腹を抱える格好になり、ナオキの左頭部ががら空きになった。そこへすかさずジュダは肘をナオキの左こめかみへ打ち込んだ。今までにないくらいに見事な攻撃がナオキへ入った。だが次の瞬間――



「うおおおおぉぉぉー」



 ナオキは怯むことなく持っていた剣をジュダ目掛けて振り抜いた。ジュダはというと、ナオキの攻撃に集中するあまり、判断が僅かに遅れた。その結果、ジュダのアバラヘナオキの剣が命中し、ジュダを吹き飛ばした。



ガラガラガラガラガラ……



 ジュダはテントの端まで吹っ飛び、段積みにされていた荷物へ突っ込んで動かなくなった。



「ヨシ!」

「そ……そんな……」



 お互い戦いながらもナオキ達の戦いに目を配っていたレイと八京は各々別のリアクションをした。



「……やった……」



 ナオキは安堵したが、ジュダから受けた攻撃の影響で前のめりに倒れた。



「ナオキ! 寝るのは後だ! そのままベルの救出へ向かえ!!」



 レイの叫び声が聞こえる。ナオキはその声で失いそうな意識を何とか繋ぎ止めることが出来た。だが、身体は言うことを訊かない。



「……く……そ……」



 何とか膝を立て踏ん張り、よろけながらナオキは立つことが出来た。



「ナオキ、ベルの所まででいい。何とかベルまでたどり着けばベルが傷を治してくれる。だから頼む。行ってくれ!」



か、身体中痛くて動くのがやっとなのにこのエルフ……



「そ……そっちは、ひ……一人で大丈夫かよ?」

「あぁ。ここは俺に任せろ。何とかしてみせる」



 レイと八京の戦いを見る限り実力は互角だった。ベルの救出はナオキにかかっている。



「わかった……レイ……負けるなよ。相手は国の英雄だ……」

「わかってる。ベルの事頼んだぞ。そうだ、ナオキ、これを持っていけ!」



 ほとんど動かない左腕でレイはナオキへ紫色の石を投げた。



「……こ、これは?」

「カギを解除するマジックアイテムさ。どんなに頑丈なカギでも解除できる」

「わ、わかった。使わせてもらうよ」

「おぉ。さあ行け」

「ナオキ君、もう一度考え直してくれ」



 八京の必死な言葉がナオキの行動を鈍らせる。



「……八京さんすいません。でも、オレは行きます」



 ナオキはヨロヨロと今にも倒れそうになりながらテントを後にした。
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