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罠
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――兵士たちに見つからないように3人は身を潜めながら進んだ。やはり、兵士たちはナオキたちを探している。だが気になることがあった。どうしてベルが捕らえられていたテントへ向かわせなかったのか……ジュダや八京が指示を出すのなら真っ先にそうするべきだ。そうなると指示を出したのは……
スティルトン?
一体何を考えているのか。謎が多すぎた。だが考えても埒が明かない。今の状況はナオキ達にとって有利なのだから。
「なあ、俺たちどこへ向かってるんだ? 森へ行くんじゃないのか?」
レイが口にした。腕の傷はベルの魔法ですっかり回復をしている。まったく回復魔法は便利だ。
「そうしたかったんだけど、兵士が見回ってて行けそうにないんだ。仕方ないから逆から抜けていこうと思って」
兵士たちは要所要所にいて中々基地を抜け出せないでいた。
「ナオキさん。私の思い過ごしならいいんですけど……妙じゃありません?」
「妙?」
「はい。私たちドンドン中央の方へ進んでますよね?」
「あぁ。森へ逃げられなかったからね」
「森の方角以外にも兵士がいて迂回をしてるじゃないですか。それって……」
ベルの言わんとしていることを理解しハッとした。
――誘導されている――
「しまった。オレたち逃げているつもりで実はこっちに行くように仕向けられていたんだ」
迂闊だった。見つからないことを前提に動いていたが、ナオキ達なら八京にさえ見つからなければ多少強引にでも切り抜けられた。だがそうしなかったのは必要以上に兵士たちを傷つけないように考えたからだ。
今更ながらに自分の甘さを呪った。
「は? じゃあこっちに行くのは……」
「マズい。引き返そう」
ナオキは踵を返し、逆方向へ走り出そうとした。その時――
「気付くのが遅かったな」
中央の方から声がした。そちらを向くと、ジュダと兵士たちが歩いてきた。
「ジュダさん……」
「後ろを見てごらんよ」
ジュダに促され振り向くと、そこには八京の姿があった。無論、八京も兵士を従えていた。
「ナオキ君。君のことだ、きっとここに来ると思ってたよ」
「やっぱり……読まれてたんですね」
「まぁね。見回ってた兵士を傷つけることはしないと思ったよ。まったく君は優しすぎる」
「それ、褒めてないですよね?」
「どうとってもらっても構わない。だが、結果としてこういう状況になったわけだ。さぁもういいだろう? 君は十分頑張った。本来ならこうなる前に内々で解決するように八京にも頼まれたんだが、もうそんなことは言ってられなくなった。全兵士を動員してナオキ君もそこのエルフたちも確保させてもらうぞ」
八京さんに加えてこれだけの兵士。状況は悪かった。
「ナオキ、安心しろ。俺とお前がいれば何とかなる」
「レイ……」
「このエルフはまだそんなこと言ってるのか。ここにいる兵士はおよそ3百人。それも我が国で訓練を兵士たちだ。切り抜けられるわけないだろう」
「国の訓練を受けたって所詮は人間の国の中だろ? そんなのが何十人・何百人いようが関係ない」
「レイ……」
その自信はどこから出てくる……
「じゃあ試してみるか? 八京、今度はお前がナオキ君の相手をしろ」
「ぼ。僕がですか?」
「そうだ。これは命令だ。従わなかったら……分かっているだろう? くれぐれも手を抜くんじゃない」
「……はい……」
やはりこの二人には何かある。だが、今はそれどころじゃない。
「ジュダさんがオレの相手してくれないんですか? 残念だな」
「そう言うな。君にやられたばっかりだし、私にも立場がある。そう言えば君もそっちのエルフも傷が治ってるな? ……そうか、女のエルフの魔法か。これは更に価値が上がりそうだな」
値踏みをするようにジュダはベルをまじまじと見た。
「彼女はオレたちが守ります。例え八京さんと戦っても」
「その通りだナオキ。俺たちは必ずここを切り抜けよう!」
「言うことは立派だが、マズはこの状況をどうにかしないとな。いいな! 女は傷つけずに捕らえろ。男の方は多少の怪我は許す、だが殺すなよ。八京、ナオキ君を生かしたまま捕らえるも一思いに殺すもお前に一任する」
「わかりました……」
「何だ俺との第二ラウンドは無しか?」
八京を挑発するようにレイが言った。
「君がここにいる兵士たちを倒したらまた僕が相手をさせてもらうよ」
「ナオキじゃアンタに勝てないってか?」
「そうだね」
「気に入らねぇな。あんまり油断してると後悔するぞ?」
「別に油断しているわけじゃないよ。ただ、事実を言ったまでさ」
剣を構えて八京が言った。思えば真剣の八京と対峙するのは初めてだった。ゴツクて漆黒の剣を操っていた八京を思い返す。その大きさに似つかわしくないほどに剣は速かった。その刃が今度はナオキに向けられている。考えただけでも吐き気がする。だがやるしかない。レイやベルのために。そしてナオキ自身のために。
ナオキも剣を構えた。ジュダとは比べ物にならないほど八京は強い。ナオキが足元に及ばないほどに。そんな八京に対し、ナオキが出来ることはとにかく時間を稼ぐことだ。レイが兵士を倒せばまだ勝機はある。
「レイ……正直、オレじゃあ八京さんには敵わない……だから頼んだぞ……」
「あぁ任せておけ! こっちをサッサと終わらせる。それまでナオキ、持ちこたえてくれよ。ベル。俺の後ろにいろ。くれぐれも奴らに捕まるなよ」
「はい。兄さま」
レイが兵士を片付けるまでどのくらいかかる? 八京がその気になればナオキなどモノの数秒で仕留めることが出来るだろう。だが、おそらく八京はそうしない。ギリギリまでナオキの説得を試みるだろう。良くも悪くも八京は優しすぎるのだ。そんな八京を利用しない手は無い。だが、厄介なのはジュダだ。彼がどういう行動に出るかわからない。八京よりジュダの動向に注意を怠らないようにしたほうが良いだろう。
――先手必勝!――
スティルトン?
一体何を考えているのか。謎が多すぎた。だが考えても埒が明かない。今の状況はナオキ達にとって有利なのだから。
「なあ、俺たちどこへ向かってるんだ? 森へ行くんじゃないのか?」
レイが口にした。腕の傷はベルの魔法ですっかり回復をしている。まったく回復魔法は便利だ。
「そうしたかったんだけど、兵士が見回ってて行けそうにないんだ。仕方ないから逆から抜けていこうと思って」
兵士たちは要所要所にいて中々基地を抜け出せないでいた。
「ナオキさん。私の思い過ごしならいいんですけど……妙じゃありません?」
「妙?」
「はい。私たちドンドン中央の方へ進んでますよね?」
「あぁ。森へ逃げられなかったからね」
「森の方角以外にも兵士がいて迂回をしてるじゃないですか。それって……」
ベルの言わんとしていることを理解しハッとした。
――誘導されている――
「しまった。オレたち逃げているつもりで実はこっちに行くように仕向けられていたんだ」
迂闊だった。見つからないことを前提に動いていたが、ナオキ達なら八京にさえ見つからなければ多少強引にでも切り抜けられた。だがそうしなかったのは必要以上に兵士たちを傷つけないように考えたからだ。
今更ながらに自分の甘さを呪った。
「は? じゃあこっちに行くのは……」
「マズい。引き返そう」
ナオキは踵を返し、逆方向へ走り出そうとした。その時――
「気付くのが遅かったな」
中央の方から声がした。そちらを向くと、ジュダと兵士たちが歩いてきた。
「ジュダさん……」
「後ろを見てごらんよ」
ジュダに促され振り向くと、そこには八京の姿があった。無論、八京も兵士を従えていた。
「ナオキ君。君のことだ、きっとここに来ると思ってたよ」
「やっぱり……読まれてたんですね」
「まぁね。見回ってた兵士を傷つけることはしないと思ったよ。まったく君は優しすぎる」
「それ、褒めてないですよね?」
「どうとってもらっても構わない。だが、結果としてこういう状況になったわけだ。さぁもういいだろう? 君は十分頑張った。本来ならこうなる前に内々で解決するように八京にも頼まれたんだが、もうそんなことは言ってられなくなった。全兵士を動員してナオキ君もそこのエルフたちも確保させてもらうぞ」
八京さんに加えてこれだけの兵士。状況は悪かった。
「ナオキ、安心しろ。俺とお前がいれば何とかなる」
「レイ……」
「このエルフはまだそんなこと言ってるのか。ここにいる兵士はおよそ3百人。それも我が国で訓練を兵士たちだ。切り抜けられるわけないだろう」
「国の訓練を受けたって所詮は人間の国の中だろ? そんなのが何十人・何百人いようが関係ない」
「レイ……」
その自信はどこから出てくる……
「じゃあ試してみるか? 八京、今度はお前がナオキ君の相手をしろ」
「ぼ。僕がですか?」
「そうだ。これは命令だ。従わなかったら……分かっているだろう? くれぐれも手を抜くんじゃない」
「……はい……」
やはりこの二人には何かある。だが、今はそれどころじゃない。
「ジュダさんがオレの相手してくれないんですか? 残念だな」
「そう言うな。君にやられたばっかりだし、私にも立場がある。そう言えば君もそっちのエルフも傷が治ってるな? ……そうか、女のエルフの魔法か。これは更に価値が上がりそうだな」
値踏みをするようにジュダはベルをまじまじと見た。
「彼女はオレたちが守ります。例え八京さんと戦っても」
「その通りだナオキ。俺たちは必ずここを切り抜けよう!」
「言うことは立派だが、マズはこの状況をどうにかしないとな。いいな! 女は傷つけずに捕らえろ。男の方は多少の怪我は許す、だが殺すなよ。八京、ナオキ君を生かしたまま捕らえるも一思いに殺すもお前に一任する」
「わかりました……」
「何だ俺との第二ラウンドは無しか?」
八京を挑発するようにレイが言った。
「君がここにいる兵士たちを倒したらまた僕が相手をさせてもらうよ」
「ナオキじゃアンタに勝てないってか?」
「そうだね」
「気に入らねぇな。あんまり油断してると後悔するぞ?」
「別に油断しているわけじゃないよ。ただ、事実を言ったまでさ」
剣を構えて八京が言った。思えば真剣の八京と対峙するのは初めてだった。ゴツクて漆黒の剣を操っていた八京を思い返す。その大きさに似つかわしくないほどに剣は速かった。その刃が今度はナオキに向けられている。考えただけでも吐き気がする。だがやるしかない。レイやベルのために。そしてナオキ自身のために。
ナオキも剣を構えた。ジュダとは比べ物にならないほど八京は強い。ナオキが足元に及ばないほどに。そんな八京に対し、ナオキが出来ることはとにかく時間を稼ぐことだ。レイが兵士を倒せばまだ勝機はある。
「レイ……正直、オレじゃあ八京さんには敵わない……だから頼んだぞ……」
「あぁ任せておけ! こっちをサッサと終わらせる。それまでナオキ、持ちこたえてくれよ。ベル。俺の後ろにいろ。くれぐれも奴らに捕まるなよ」
「はい。兄さま」
レイが兵士を片付けるまでどのくらいかかる? 八京がその気になればナオキなどモノの数秒で仕留めることが出来るだろう。だが、おそらく八京はそうしない。ギリギリまでナオキの説得を試みるだろう。良くも悪くも八京は優しすぎるのだ。そんな八京を利用しない手は無い。だが、厄介なのはジュダだ。彼がどういう行動に出るかわからない。八京よりジュダの動向に注意を怠らないようにしたほうが良いだろう。
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