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乱入者

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――オレ、殺られる――



 ナオキ自身も斬られることを覚悟した。――その時だった。剣を振り下ろしたゾーラが突然よろめいた。その反動でナオキに向っていた剣の軌道がズレ、ナオキの身体を掠めるに留まった。



 何があった!?



 よろめいたゾーラの身体を見ると、ソコには洞窟に置いてきたはずのクーがいた。クーはゾーラを倒そうとしたのだろう。ゾーラの下半身をガッチリ掴んでいたが、大男と子供のゴブリンの体格差では大男をグラつかせるのが精一杯だった。だが、そのおかげでナオキは命拾いをした。



「お前……何でこんなトコに、洞窟で待ってろって言ったろ!」

「オ、オニイチャン、タスケル」



 助ける? ゴブリンが人間を? まったく、人が良い――いや、ゴブリンが良いにもほどがある。



「いきなり何があったかと思えば、逃がしたゴブリンじゃねぇか。ったく邪魔しやがって」



 剣が地面に刺さったゾーラはクーに気付くと吐き捨てるように言った。



「ナオキ君、大丈夫かい!?」

「はい。大丈夫です」



 慌てた八京がナオキの傷口を確認する。剣先が背中を掠っただけだ。どおってこと無い。

 そんな中、しがみ付いたクーを振り払ったゾーラは忌々しそうに。



「そんなに殺られたいんだったら望み通りお前から殺ってやるよ!」



 ゾーラは剣を再び振りかぶり、クー目掛けて振り下ろした。

 振り払われたクーはゾーラの声と殺気に驚き、慌ててその場から逃げようと手足をバタバタ動かした。



――ザッ!



 が、その行為虚しく、ゾーラの剣はクーの左腕を斬り落とした。



「ギャアアアァァァ―!!!!」



 小さな体から発せられる断末魔の叫びが辺りに響く。



「クー!!」



 クーの元へ駆け寄ったナオキはクーを抱き抱え、失った腕を両手で押さえた。

 そんなことは関係ないとばかりに、ゾーラは剣を振り上げ、ナオキ目掛けて斬りかかった。



「今度こそオサラバだ、ニイチャン」



 ナオキに容赦なく振り下ろされた剣は確実にナオキの脳天を狙っていた。ゾーラは渾身の力を込めて腕を振り切った――だが、刃がナオキへ届くことは無かった。



 八京だ



 殺意のこもったった刃がナオキに触れるその瞬間――八京はゾーラの手首を斬り落としたのだ。あまりに一瞬の出来事にゾーラはポカンと口を開け、血が流れ出るサマを見つめた。



「ぐ……ぐがああああー!!! て、てがああああぁぁぁー!!」



 数秒の後、襲ってきた激痛にゾーラは蹲り絶叫した。

 そんなゾーラを八京は、凍りのような冷たい瞳で見下ろしていた。



「アナタも少しはやられる側の痛みを知ったほうが良い……」



 冷たく言い放たれたその声に、止血を行っていたナオキは驚き、八京を見つめた。

 今までの八京とは似つかわしくない冷淡で感情の欠片もないその声は八京とは違う誰かが喋っているようだった。



「ベル、ナオキの元へ行け! あのゴブリンは仲間だ。救ってくれ!」

「は、はい。兄さま」



 兵士たちとの戦闘の中、レイがベルに指示を出す。それに反応してベルは素早くナオキの元へ駆け寄った。



「ナオキさん、その子をこっちへ!」



 ベルに声を掛けられたナオキだが茫然と八京を見つめ微動だにしなかった。



「ナオキさん!」



 力のこもった声に“ビクッ”と身体を震わせ我に返ったナオキだったが。



「あ、あぁ……」



 なんとも力の入らない返事をしながらクーをベルに預けた。



「急いで止血しないと……ナオキさん、また兵士たちが襲ってくるかもしれません、私たちを守ってください」

「わ、わかった……」



 ベルの必死さと裏腹に、ナオキの返事は気の抜けたものだった。

 冷たい八京の瞳、声、表情、それらが普段の八京とかけ離れ、恐ろしい魔物のように感じ、始めて八京を怖いと感じた。そんな八京の元へ歩み寄ってくる兵士がいる。



ジュダだ。



「おい。早くコイツに治療をしろ。急がないと出血多量で死んでしまう」



 周りの兵士へ指示を出しながらジュダは八京と目と鼻の距離まで迫った。



「どういうことだ八京? 何故アイツを斬った?」



 ジュダの声もまた冷たく冷淡なものだった。それがかえってジュダの怒りを表している。



「すいません。ナオキ君を殺そうとしているのが分かったんで思わず……」



 八京の声は依然感情の無いままだ。



パァン!



 酷く乾いた音が響いた。ジュダが八京の頬をビンタしたのだ。数メートル離れた場所ではレイが兵士と戦い騒がしいのにその音はハッキリとナオキの耳に届いた。



「いい加減にしろ。使い物にならないリスタ一人と私の部下を天秤にかけるな」

「……すいません」

「お前をナオキへ当てがったのは私からの彼への最後のチャンスだったんだ。お前が説得できないのなら手足の一本や二本いや、生死も問わず粛清出来ればそれでいいんだ。アイツが彼を恨み、殺したのなら結果的にそれでも構わない」

「……はい……」

「八京……お前がここまで彼に入れ込むのは勝手だが、私の命令が訊けないのなら強制的に行わせるまでだ」

「っ!? それは……」

「もうお前には任せておけない。私がお前を使ってやろう」



 ジュダは首にかけていたネックレスを手に取った。ネックレスの先には見覚えのある赤い宝石が付いていた。
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