異世界に召喚されたオレだが、可哀そうだからゴブリンを殺せない

たけるん

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外伝カーマイン①

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     静かな山奥の森に一匹のドラゴンが横たわっている。

 ドラゴンは身体中傷だらけ。呼吸も浅く、今にも息絶えそうだ。



 カーマイン――ドラゴンは人間たちからそう呼ばれていた。



 多くの人間の攻撃を受けたカーマインは命からがら逃げていた。



「くっ……人間ども、必ず喰らいつくしてやる……」



 ボロボロになりながらカーマインは人間への憎悪を口にした。だがカーマインの体力はそこで尽き、意識を失った。













 ――時は遡る――



 カーマインは虫の居所が悪かった。

 理由はシンプルだ。ツガイのように千年以上寄り添っていたメスのドラゴンが愛想を尽かして出ていったのだ。



「クソ! ワイの何が気に入らんのだ……」



 カーマインはこの怒りをどこかに当たり散らしたかった。

 人間やゴブリンなどでは瞬時に消してしまい味気が無さすぎる。かと言って同族のドラゴンでは話が広まって良い笑いものだ。



そうだ! 確か百年ほど前に魔王になった魔人……確かディアブロとか言ったか、が強いとアレが言ってたな。



 アレというのは出ていったメスのドラゴンだ。ただその時は魔王の強さもさることながら、絶景の美形だとも言っていたことも思い出し、更にカーマインを苛立たせた。



よし。その魔王を半殺しにしよう。



 完全なる私怨でカーマインは魔王ディアブロの元へ向かった。

 とにかく怒りをぶつけないとどうにかなりそうだったからだ。













「ディアブロ。ワイと勝負しろ」

「……いや、別に戦う道理はないんだが……」



 カーマインは魔王城へ着くなり言い放った。魔王城を見下ろし、悠然と羽ばたいているカーマインは空の覇者と称される翼竜だけあり、威風堂々としたその姿は流石の魔王もたじろいでいた。



ナルホド、アレの好みそうな整った顔をしている。スカシおって気に入らん。



 魔王城には数千の魔物が押し寄せていた。何の前触れもなくドラゴンが飛んできたのだ。危険度で言えば人間が攻めてきたときの比ではない。



「道理なんぞ知るか! とにかくワイと戦え! さもないとここに群がっているゴミ共を焼き払ってくれるぞ!」

「待て待て。いくら最上位種だからとて何でも許されるわけではないだろ。なぜ其方は吾輩と戦いたがる?」



 ディアブロのもっともな意見だ。



「それはワイが貴様を気に入らんからだ。ワイは気が短いんだ! サッサと始めるぞ」

「初対面のドラゴンに嫌われる覚えはないのだが……」

「別に殺そうとしてるわけでない。ワイと互角に戦える相手をぶちのめしたいだけだ。そこにたまたま気に食わん貴様がいただけのこと」

「まったく……ドラゴンという生き物はこうも傲慢なものなのか……」



 深くため息をついてディアブロは城から浮かび上がり、カーマインの目の前にやってきた。



「せめて場所を変えよう。ここでは吾輩の部下たちも完成したばかりの城も無くなってしまう」

「ならいい場所があるぞ」



 カーマインは顔をほころばせながら言った。











 辺り一面砂漠と化した地に一匹と一人はいた。

 カーマインとディアブロの戦いは壮絶なものだった。お互いが死力を尽くし、その戦いは三日三晩続いた。



「ハァ……ハァ……なぁ……ナゼ吾輩はここまで付き合わなければならない? 其方は吾輩を殺すつもりはないのだろう?」



 息も切れ切れにディアブロは言った。



「あぁ? そりゃ貴様がワイの想像以上に強いからだろ。お陰でより一層貴様が嫌いになったわ」

「な、なんだそれは……とんだ言いがかりだな……」

「さぁ、ワイの気が済むまで戦うぞ!」

「ヤレヤレ。魔王になんかならなければよかったか……」



 更に二人の戦いは続いた。











 戦いが終わったのは6日目の朝だった。

 二人ともボロ雑巾のようだ。体力を使い果たし砂漠の上で倒れ込んでいた。



「ハァハァ……も、もう動けんぞ……」

「ゼェゼェ……あぁ……ワイも満足じゃ……」



 二人とも息も切れ切れだ。



「そ、其方、まさか手あたり次第魔王に勝負を挑んでいるのか?」

「バカ言うな。今回はたまたまだ。貴様の話を聞いてドツイてやろうと思っただけだ」

「たまたまか……吾輩も運が悪い」

「それに大体の魔王とは不戦の協約を結んでいる」

「なに!?」



 大の字になっていたディアブロが”バッ”と起き上がる。



「そりゃそうだろ、ドラゴンと魔王がしょっちゅうぶつかり合ったらこの大地全てがこの地のようになるわ」

「そ、そんな大事なこと他の魔王は言っていなかったぞ……」

「あ奴らのことだ、あえて言わずにこうなるのを楽しんでいるのだろう」

「くっ……アイツ等……新顔だと思って」



 ディアブロは地面に力の残りカスを使って、拳を地面に叩き付けた。瞬間、一面の砂が吹き飛んだ。



「なんだ、まだ元気ではないか」

「ふざけるな。最後の一滴を絞り出したんだ。もう其方とは戦わん」

「そう言うな。なかなかいい勝負だったぞ。やはり勝負はサシでガチンコがいい」



 カーマインは清々しさを感じていた。



「さぁ、気が済んだ。ワイは行くとしよう」



 カーマインはヨロヨロと起き上がった。



「もう行くのか」

「あぁ。楽しかったぞ」

「あ、まて、せめて不戦の協――」



 ディアブロが言うより早く、カーマインは翼を広げ、高く飛び上がった。



「さらばだ! またやり合おう」

「いや、だからまっ――」



 カーマインは太陽の昇る方角へ飛び立った。



「……ち、ちくしょう!!」



 ディアブロは再び拳を地面に叩き付けた。













「あの魔王、なかなかいい奴だったな。気が向いたらまた相手をしてやろう」



 帰りの空の上、カーマインは呟いた。折角全力でやり合える相手を見つけたのだ、当然不戦の協約を結ぶつもりは毛頭ない。もはや、メスのドラゴンのことはどうでも良かった。



「そういえば腹が減ったな。どこかで飯を喰って帰るとするか」



 地上を眺めながらカーマインは呟いた。この後、自身の住処に人間が待ち構え、瀕死の状態にまで追い込まれるとはこの時、思いもしなかった。
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